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第2部 4章
31 ミケーレ伯爵と娘たち②
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2人はレイヴンが晩餐の支度をする為に部屋を出てくると信じていた。
レイヴンとアリシアが同じ客室を使うと聞いた時は驚いたが、1つの客室には1つのドレッシングルームしかない。2人が同時に支度をすることはできず、その為にはどちらかが違う部屋のものを使うしかない。
女性の支度は時間も掛かるし沢山の道具も必要になる。
レイヴンはそんな時にアリシアを移動させるようなことはしないだろう。
2人はレイヴンが部屋から出て1人になれば、騎士の手を振り切ってでも傍へ駆け寄るつもりだった。
騎士には「叛逆罪になる」と脅されたが、それはレイヴンが2人を拘束させた時だ。いつも穏やかで優しいレイヴンが、知り合いの2人にそんなことはさせないと思い込んでいる。
そう、2人はレイヴンと知り合いだった。
レイヴンより1つ年下のジュリアは2年、2つ年下のナタリーは1年、レイヴンと学園の在籍期間が重なっている。
それまで遠い存在だった王太子殿下がすぐ近くにいると思えば否が応でも興奮するものだ。
レイヴンの姿を目で追っていたジュリアは、レイヴンとアリシアの仲が淡白なものだとすぐに気がついた。
恋に落ちるような特別な何かがあったわけではない。
ただ憧れの存在がそこにいて、婚約者との間に入り込むのは難しくないと思ってしまっただけだ。
それからは積極的にレイヴンのところへ会いに行った。人目があるので教室の中には入れないが、レイヴンは学年の違うジュリアが廊下にいても怒らないし、挨拶をすれば返してくれる。
翌年にはそこにナタリーも加わった。
そんな楽しい時間を過ごしていた2人は、レイヴンが卒業して会えなくなっても持ち込まれる縁談に興味が持てずに2人で嫁き遅れてしまったのだ。
そこに今回の話である。
レイヴンが領地へ来ると知ったジュリアは舞い上がった。
保険として選ばれたナタリーも同じである。
学生時代の2人が直接レイヴンに告白することはなかったが、休憩時間には毎回のように教室の近くにいて、何度も挨拶を交した2人をレイヴンは覚えているはずだ。
2人が会いに行けば、レイヴンはきっと喜んで迎えてくれる。
勇気を振り絞った振りをして、「夕食後も一緒に過ごしたい」と告げれば、優しいレイヴンが女に恥を掻かせるようなことはきっとしない。2人と過ごせるように新しい部屋を準備させるはずだ。
元々なぜアリシアと同じ客室を使うことにしたのか解せないが、淡白な関係だけに仲良くしているところを周囲にアピールしないといけないのだろう。だけど本当はレイヴンも、形だけの正妃と同じ部屋で過ごしたくないに違いない。
ジュリアかナタリー、どちらか1人だけを選んで欲しいが、この際2人一緒でも構わない。
レイヴンが2人が思うような優しくて誠実な男なら、女性に迫られたからといって王都から連れて来た正妃を放り出して他の女と睦み合うはずがない。それでは不誠実な男である。
だけど2人の中では、優しく誠実なレイヴンと、女に迫られたら断れない男といった、相反するその2つが両立していた。
2人の不幸は王都にほとんど縁がなく、王宮で過ごすレイヴンとアリシアの仲睦まじい姿を知らないことだろうか。学園でのことしか知らない2人は、最近聞こえて来たレイヴンがアリシアを寵愛しているという噂を信じていなかった。
また学園でレイヴンに会いに来ていたのが2人だけだと信じているのも不幸だった。
学園でレイヴンの周りをうろついていたのは2人だけではない。2人は廊下で毎回同じような女生徒とすれ違うことをおかしいと思わなかったのだろうか。皆考えることは一緒なのだ。
レイヴンにとってはジュリアもナタリーも周囲を囲む女生徒の1人でしかない。2人に向けられていた柔和な笑顔は、王太子としての対外的な笑顔である。
それに気がつかない2人は、2人だけが特別なのだと思い込んでいた。
また、それはミケーレ伯爵家全体にもいえることだった。
宿泊地ではレイヴンを独占できること、そこでレイヴンに娘や一族の女を与えようと考えるのは、ミケーレ伯爵だけではない。
これまで何度も同じことを経験し、様々な手を使って近づこうとする女たちにうんざりしたレイヴンは、徹底して1人にならない様に心がけていた。ドレッシングルームを共用するのもその1つである。
ジュリアとナタリーが階段でどれほど悪態をついていようとレイヴンには聞こえない。
その頃寝室へ移ったレイヴンは、ベッドサイドでアリシアの寝顔を見つめていた。
もうすぐ起こさなければいけないことを心苦しく思いながらも、その瞳には愛しさが溢れていた。
レイヴンとアリシアが同じ客室を使うと聞いた時は驚いたが、1つの客室には1つのドレッシングルームしかない。2人が同時に支度をすることはできず、その為にはどちらかが違う部屋のものを使うしかない。
女性の支度は時間も掛かるし沢山の道具も必要になる。
レイヴンはそんな時にアリシアを移動させるようなことはしないだろう。
2人はレイヴンが部屋から出て1人になれば、騎士の手を振り切ってでも傍へ駆け寄るつもりだった。
騎士には「叛逆罪になる」と脅されたが、それはレイヴンが2人を拘束させた時だ。いつも穏やかで優しいレイヴンが、知り合いの2人にそんなことはさせないと思い込んでいる。
そう、2人はレイヴンと知り合いだった。
レイヴンより1つ年下のジュリアは2年、2つ年下のナタリーは1年、レイヴンと学園の在籍期間が重なっている。
それまで遠い存在だった王太子殿下がすぐ近くにいると思えば否が応でも興奮するものだ。
レイヴンの姿を目で追っていたジュリアは、レイヴンとアリシアの仲が淡白なものだとすぐに気がついた。
恋に落ちるような特別な何かがあったわけではない。
ただ憧れの存在がそこにいて、婚約者との間に入り込むのは難しくないと思ってしまっただけだ。
それからは積極的にレイヴンのところへ会いに行った。人目があるので教室の中には入れないが、レイヴンは学年の違うジュリアが廊下にいても怒らないし、挨拶をすれば返してくれる。
翌年にはそこにナタリーも加わった。
そんな楽しい時間を過ごしていた2人は、レイヴンが卒業して会えなくなっても持ち込まれる縁談に興味が持てずに2人で嫁き遅れてしまったのだ。
そこに今回の話である。
レイヴンが領地へ来ると知ったジュリアは舞い上がった。
保険として選ばれたナタリーも同じである。
学生時代の2人が直接レイヴンに告白することはなかったが、休憩時間には毎回のように教室の近くにいて、何度も挨拶を交した2人をレイヴンは覚えているはずだ。
2人が会いに行けば、レイヴンはきっと喜んで迎えてくれる。
勇気を振り絞った振りをして、「夕食後も一緒に過ごしたい」と告げれば、優しいレイヴンが女に恥を掻かせるようなことはきっとしない。2人と過ごせるように新しい部屋を準備させるはずだ。
元々なぜアリシアと同じ客室を使うことにしたのか解せないが、淡白な関係だけに仲良くしているところを周囲にアピールしないといけないのだろう。だけど本当はレイヴンも、形だけの正妃と同じ部屋で過ごしたくないに違いない。
ジュリアかナタリー、どちらか1人だけを選んで欲しいが、この際2人一緒でも構わない。
レイヴンが2人が思うような優しくて誠実な男なら、女性に迫られたからといって王都から連れて来た正妃を放り出して他の女と睦み合うはずがない。それでは不誠実な男である。
だけど2人の中では、優しく誠実なレイヴンと、女に迫られたら断れない男といった、相反するその2つが両立していた。
2人の不幸は王都にほとんど縁がなく、王宮で過ごすレイヴンとアリシアの仲睦まじい姿を知らないことだろうか。学園でのことしか知らない2人は、最近聞こえて来たレイヴンがアリシアを寵愛しているという噂を信じていなかった。
また学園でレイヴンに会いに来ていたのが2人だけだと信じているのも不幸だった。
学園でレイヴンの周りをうろついていたのは2人だけではない。2人は廊下で毎回同じような女生徒とすれ違うことをおかしいと思わなかったのだろうか。皆考えることは一緒なのだ。
レイヴンにとってはジュリアもナタリーも周囲を囲む女生徒の1人でしかない。2人に向けられていた柔和な笑顔は、王太子としての対外的な笑顔である。
それに気がつかない2人は、2人だけが特別なのだと思い込んでいた。
また、それはミケーレ伯爵家全体にもいえることだった。
宿泊地ではレイヴンを独占できること、そこでレイヴンに娘や一族の女を与えようと考えるのは、ミケーレ伯爵だけではない。
これまで何度も同じことを経験し、様々な手を使って近づこうとする女たちにうんざりしたレイヴンは、徹底して1人にならない様に心がけていた。ドレッシングルームを共用するのもその1つである。
ジュリアとナタリーが階段でどれほど悪態をついていようとレイヴンには聞こえない。
その頃寝室へ移ったレイヴンは、ベッドサイドでアリシアの寝顔を見つめていた。
もうすぐ起こさなければいけないことを心苦しく思いながらも、その瞳には愛しさが溢れていた。
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