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第2部 4章
32 晩餐
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アリシアは優しく名を呼ぶ声に目を覚ました。
瞼を開けるとレイヴンがアリシアの髪を撫でながら見下ろしている。
「ごめんね、そろそろ時間なんだ」
レイヴンは申し訳なさそうな顔でそう言うとアリシアの額に口づけた。
そのままアリシアを抱き上げ、浴室へ運ぶ。アリシアは何の時間だったか思い出せないまま素直に身を任せた。
レイヴンがくったりして身を任せるアリシアにあれこれしないで手放したのは、理性を総動員した結果である。
浴室でエレノアに洗われる内にしっかり意識を覚醒させたアリシアは、エレノアや侍女たちの手腕によって短時間ながら完璧に仕上げられた。
ここでアリシアが着るドレスも装飾品も、マルグリットと一緒に選んだものである。
持ち運ぶのにかさばらないようスカートの膨らみは小さめに、その分上質な生地で作られている。
指輪や首飾りも派手さのない控えめなもので、だけど使われているのは上質なサファイアだ。
これには盗難防止の意味もあり、宝石を見る目のない者は派手で大きな石のついた物こそ高価だと思いがちで、小さな石のものには目もくれない。だけど本当に価値がわかる者であれば、これが最高級品だとわかる。
旅の途中でありながら、貴族たちに侮られることがないよう考えられた服装だ。
「お待たせいたしました」
「ああ、凄く綺麗だ」
アリシアが部屋へ戻ると、レイヴンが目を細めてアリシアを見る。
そっと頬に口づけられると、アリシアは花が綻ぶように微笑んだ。
そこへ扉を叩く音がして、入室してきたフランクが食堂へ移動するよう告げる。
フランクはレイヴンがアリシアを起こす直前に、「寝起きのアリシアを見せるつもりはない」と追い出されていたのだ。
そんなことは知らないアリシアは、フランクに礼を言うとレイヴンに手を取られて食堂へ移動した。
食堂ではミケーレ伯爵の近親者が顔を揃えていた。
ジュリアもナタリーも不満そうな顔をしながらも正しい席次に着いている。
伯爵がホストとして2人を迎え入れると、集まった者たちを順番に紹介していった。
食堂にいるのは、伯爵と伯爵夫人、長男夫妻、次女のジュリア、嫁に行った長女も夫と共に座っている。
そして男爵家に婿入りして男爵となった伯爵の弟とその夫人、2人の娘のナタリーである。
晩餐は何事もなく順調に進んだ。親交を深めるのが目的なので、レイヴンは自由な発言を許している。
なるほど、そういうことなのね。
晩餐が始まってしばらくすると、アリシアはミケーレ伯爵の思惑に気がついた。
レイヴンに媚びるような視線を向けて甘えた声音で話し掛けるジュリアやナタリーが、アリシアには敵意の籠った目を向けている。。
そんな2人の態度に気がつきながらも、気づかない振りで流すレイヴンは、こうなることを予測していたのだろう。
考えてみれば当然のことだ。
王太子が自領へ来ることなんてほとんどない。これは娘を差し出す絶好のチャンスだ。
レイヴンにはまだ側妃がいないし子どももいない。レイヴンが娘を気に入れば側妃にできるし子どもも生ませられる。
上手くすれば次期国王の外祖父になれるかもしれない。
それは貴族であれば誰でも持つ野心である。
つまり領地へ行き着くまでにあと2回同じことが起こるということだ。
アリシアは内心溜息を吐いた。
マルグリットが熱心にアリシアのドレスや装飾品を選んでくれた意味が分かった気がする。
行きに3回、帰りに3回。
王領では大丈夫かしらね…?
「妃殿下も同じ様に思われますか?」
内心ではうんざりしながらも、話し掛けられたアリシアは何事もないようににっこり笑って話し出した。
晩餐の後は応接間へ移って歓談することになった。
本来であればここで男性と女性に別れてそれぞれ交流をする。
だけどそれではジュリアとナタリーがレイヴンと同席する口実が無くなってしまう。
慌てたミケーレ伯爵の采配で全員で応接間へ移る。
レイヴンはアリシアの手を引いて、さっさと二人掛けのソファへ座った。
ミケーレ伯爵の頬が引き攣ったのは言うまでもない。
結局ジュリアやナタリーがどれほど必死で色目を使っても、レイヴンの心を捉えることはできなかった。
2人はアリシアの手を取り部屋へ戻るレイヴンの背中を恨めしそうに見つめていた。
瞼を開けるとレイヴンがアリシアの髪を撫でながら見下ろしている。
「ごめんね、そろそろ時間なんだ」
レイヴンは申し訳なさそうな顔でそう言うとアリシアの額に口づけた。
そのままアリシアを抱き上げ、浴室へ運ぶ。アリシアは何の時間だったか思い出せないまま素直に身を任せた。
レイヴンがくったりして身を任せるアリシアにあれこれしないで手放したのは、理性を総動員した結果である。
浴室でエレノアに洗われる内にしっかり意識を覚醒させたアリシアは、エレノアや侍女たちの手腕によって短時間ながら完璧に仕上げられた。
ここでアリシアが着るドレスも装飾品も、マルグリットと一緒に選んだものである。
持ち運ぶのにかさばらないようスカートの膨らみは小さめに、その分上質な生地で作られている。
指輪や首飾りも派手さのない控えめなもので、だけど使われているのは上質なサファイアだ。
これには盗難防止の意味もあり、宝石を見る目のない者は派手で大きな石のついた物こそ高価だと思いがちで、小さな石のものには目もくれない。だけど本当に価値がわかる者であれば、これが最高級品だとわかる。
旅の途中でありながら、貴族たちに侮られることがないよう考えられた服装だ。
「お待たせいたしました」
「ああ、凄く綺麗だ」
アリシアが部屋へ戻ると、レイヴンが目を細めてアリシアを見る。
そっと頬に口づけられると、アリシアは花が綻ぶように微笑んだ。
そこへ扉を叩く音がして、入室してきたフランクが食堂へ移動するよう告げる。
フランクはレイヴンがアリシアを起こす直前に、「寝起きのアリシアを見せるつもりはない」と追い出されていたのだ。
そんなことは知らないアリシアは、フランクに礼を言うとレイヴンに手を取られて食堂へ移動した。
食堂ではミケーレ伯爵の近親者が顔を揃えていた。
ジュリアもナタリーも不満そうな顔をしながらも正しい席次に着いている。
伯爵がホストとして2人を迎え入れると、集まった者たちを順番に紹介していった。
食堂にいるのは、伯爵と伯爵夫人、長男夫妻、次女のジュリア、嫁に行った長女も夫と共に座っている。
そして男爵家に婿入りして男爵となった伯爵の弟とその夫人、2人の娘のナタリーである。
晩餐は何事もなく順調に進んだ。親交を深めるのが目的なので、レイヴンは自由な発言を許している。
なるほど、そういうことなのね。
晩餐が始まってしばらくすると、アリシアはミケーレ伯爵の思惑に気がついた。
レイヴンに媚びるような視線を向けて甘えた声音で話し掛けるジュリアやナタリーが、アリシアには敵意の籠った目を向けている。。
そんな2人の態度に気がつきながらも、気づかない振りで流すレイヴンは、こうなることを予測していたのだろう。
考えてみれば当然のことだ。
王太子が自領へ来ることなんてほとんどない。これは娘を差し出す絶好のチャンスだ。
レイヴンにはまだ側妃がいないし子どももいない。レイヴンが娘を気に入れば側妃にできるし子どもも生ませられる。
上手くすれば次期国王の外祖父になれるかもしれない。
それは貴族であれば誰でも持つ野心である。
つまり領地へ行き着くまでにあと2回同じことが起こるということだ。
アリシアは内心溜息を吐いた。
マルグリットが熱心にアリシアのドレスや装飾品を選んでくれた意味が分かった気がする。
行きに3回、帰りに3回。
王領では大丈夫かしらね…?
「妃殿下も同じ様に思われますか?」
内心ではうんざりしながらも、話し掛けられたアリシアは何事もないようににっこり笑って話し出した。
晩餐の後は応接間へ移って歓談することになった。
本来であればここで男性と女性に別れてそれぞれ交流をする。
だけどそれではジュリアとナタリーがレイヴンと同席する口実が無くなってしまう。
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レイヴンはアリシアの手を引いて、さっさと二人掛けのソファへ座った。
ミケーレ伯爵の頬が引き攣ったのは言うまでもない。
結局ジュリアやナタリーがどれほど必死で色目を使っても、レイヴンの心を捉えることはできなかった。
2人はアリシアの手を取り部屋へ戻るレイヴンの背中を恨めしそうに見つめていた。
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