【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
423 / 697
第2部 4章

47 城内見物の続き②

しおりを挟む
 壮麗な芸術品が並んだロング・ギャラリーを過ぎたところでアンナが足を止めた。
 アリシアを振り返り、顔色を窺うように問い掛けてくる。
 
「この先も行かれますか?」

 この先にあるのは、歴代の国王一家の肖像画が飾られた部屋だ。
 勿論アリシアは絵を見るつもりでいる。
 なぜそんなことを訊かれるのか、アリシアにはわからなかった。
 正妃であっても女主人と認めていないから、見せたくないということだろうか。

「勿論そのつもりよ。なぜ?」

 アリシアは「当然・・」という態度を崩さなかった。
 なぜそんなことを訊かれるのか、心底わからないという顔で首を傾げる。
 アンナは気まずそうに眼を逸らすと、「いえ、なんでもありません」と言って足を進めた。



「まあ……」

 アリシアが部屋へ入った時、感じたのは違和感だった。
 ただその違和感の理由はすぐにわかる。アリシアが無意識に想像していた絵とここにある絵は違っているのだ。

 アリシアが想像していたのは、王宮に飾られているような絵だ。 
 王太子の立太式に合わせて描かれたそれは、国王と王太子、それに王太子の生母である妃が並んで描かれている。もし立太式よりも前に正妃を迎えていれば、その正妃も隣に加わっていた。
 また王太子の成婚時に描かれた王太子夫妻の絵もあり、そこにはレイヴンとアリシアの絵も飾られている。
 皆並んでこちらを向いている、そんな絵だ。

 だけどここにある肖像画は違う。
 ここにあるのは、間違いなく「国王一家」の絵だった。
 
 描かれているのは、国王や王太子だけではない。
 こちらを向いている者もいれば、背を向けている者もいて、王宮に並んでいるような形式ばった絵ではなかった。

 母の膝に抱かれた幼子や、一緒に絵本を読んでいる兄妹。母の周りを幼い子どもたちが囲んでいるような絵もあった。
 また子どもたちと一緒に成人女性が2人以上描かれている絵もあり、正妃と側妃、その子どもたちだと思われた。
 ある日の情景を切り取ったような絵ばかりが並んでいて、歴代の国王一家がこの城でプライベートな時間を楽しんでいたことがわかる。

 
 何故初めから気づかなかったのだろうか。

 ルトビア公爵家でも、王都の邸に飾られているのは形式的な肖像画だ。
 当主夫妻が並んで描かれた絵と、次期当主が成人した時に掛かれた絵がある。王家へ嫁ぐアリシアを特別に描いた絵もあった。
 
 だけどマナーハウスに飾られた絵は違う。
 父親に抱かれた幼子の絵や、兄弟でポニーに跨った絵もある。母に刺繍を習う姉妹や、母に抱かれて眠る赤子アリシアを覗き込むレオナルドの絵もあった。

 ここにある絵は、マナーハウスに飾られた絵と同じなのだ。
 ただ公爵家とは違い、一家の妻子は一組ではない……。
 

 初めの内、アリシアは感嘆の声を上げ、エレノアやドナたちと言葉を交わしながら絵を見ていた。
 だけど次第に口数が減っていく。

 国王や王妃、側妃とその子どもたち………。



 なぜだか酷く居心地が悪い。
 場違いな場所にいる気がする。



 歩いているはずなのに、足元がふわふわしていて床の感覚がない。
 子どもたちの楽しそうな笑顔を見ているはずなのに、意識に薄い膜が掛かっているようで、何を見ているのかわからなくなっていく……。



「妃殿下、どうかされましたか?」

 エレノアに声を掛けられ、アリシアはハッとした。
 視界の端に、心配そうな顔でこちらを見ているアンナの姿が見える。

 そこでアリシアは、アンナがこの部屋へ案内するのを躊躇った訳を理解した。
 ここに飾られた絵を知っているアンナは、まだ子どものいないアリシアに、母子の絵や、これから迎えることになる側妃やその子どもの絵を見せることを躊躇ったのだ。
 
 しっかりしなければ――。
 ここでアンナに弱味を見せることはできない。

「いいえ、大丈夫よ」

 アリシアはにっこり笑った。
 その後は笑顔のまま、エレノアと言葉を交わしながら歩いた。
 こちらを窺っていたアンナはホッとしたように息を吐いていた。


しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...