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第2部 4章
47 城内見物の続き②
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壮麗な芸術品が並んだロング・ギャラリーを過ぎたところでアンナが足を止めた。
アリシアを振り返り、顔色を窺うように問い掛けてくる。
「この先も行かれますか?」
この先にあるのは、歴代の国王一家の肖像画が飾られた部屋だ。
勿論アリシアは絵を見るつもりでいる。
なぜそんなことを訊かれるのか、アリシアにはわからなかった。
正妃であっても女主人と認めていないから、見せたくないということだろうか。
「勿論そのつもりよ。なぜ?」
アリシアは「当然」という態度を崩さなかった。
なぜそんなことを訊かれるのか、心底わからないという顔で首を傾げる。
アンナは気まずそうに眼を逸らすと、「いえ、なんでもありません」と言って足を進めた。
「まあ……」
アリシアが部屋へ入った時、感じたのは違和感だった。
ただその違和感の理由はすぐにわかる。アリシアが無意識に想像していた絵とここにある絵は違っているのだ。
アリシアが想像していたのは、王宮に飾られているような絵だ。
王太子の立太式に合わせて描かれたそれは、国王と王太子、それに王太子の生母である妃が並んで描かれている。もし立太式よりも前に正妃を迎えていれば、その正妃も隣に加わっていた。
また王太子の成婚時に描かれた王太子夫妻の絵もあり、そこにはレイヴンとアリシアの絵も飾られている。
皆並んでこちらを向いている、そんな絵だ。
だけどここにある肖像画は違う。
ここにあるのは、間違いなく「国王一家」の絵だった。
描かれているのは、国王や王太子だけではない。
こちらを向いている者もいれば、背を向けている者もいて、王宮に並んでいるような形式ばった絵ではなかった。
母の膝に抱かれた幼子や、一緒に絵本を読んでいる兄妹。母の周りを幼い子どもたちが囲んでいるような絵もあった。
また子どもたちと一緒に成人女性が2人以上描かれている絵もあり、正妃と側妃、その子どもたちだと思われた。
ある日の情景を切り取ったような絵ばかりが並んでいて、歴代の国王一家がこの城でプライベートな時間を楽しんでいたことがわかる。
何故初めから気づかなかったのだろうか。
ルトビア公爵家でも、王都の邸に飾られているのは形式的な肖像画だ。
当主夫妻が並んで描かれた絵と、次期当主が成人した時に掛かれた絵がある。王家へ嫁ぐアリシアを特別に描いた絵もあった。
だけどマナーハウスに飾られた絵は違う。
父親に抱かれた幼子の絵や、兄弟でポニーに跨った絵もある。母に刺繍を習う姉妹や、母に抱かれて眠る赤子を覗き込む兄の絵もあった。
ここにある絵は、マナーハウスに飾られた絵と同じなのだ。
ただ公爵家とは違い、一家の妻子は一組ではない……。
初めの内、アリシアは感嘆の声を上げ、エレノアやドナたちと言葉を交わしながら絵を見ていた。
だけど次第に口数が減っていく。
国王や王妃、側妃とその子どもたち………。
なぜだか酷く居心地が悪い。
場違いな場所にいる気がする。
歩いているはずなのに、足元がふわふわしていて床の感覚がない。
子どもたちの楽しそうな笑顔を見ているはずなのに、意識に薄い膜が掛かっているようで、何を見ているのかわからなくなっていく……。
「妃殿下、どうかされましたか?」
エレノアに声を掛けられ、アリシアはハッとした。
視界の端に、心配そうな顔でこちらを見ているアンナの姿が見える。
そこでアリシアは、アンナがこの部屋へ案内するのを躊躇った訳を理解した。
ここに飾られた絵を知っているアンナは、まだ子どものいないアリシアに、母子の絵や、これから迎えることになる側妃やその子どもの絵を見せることを躊躇ったのだ。
しっかりしなければ――。
ここでアンナに弱味を見せることはできない。
「いいえ、大丈夫よ」
アリシアはにっこり笑った。
その後は笑顔のまま、エレノアと言葉を交わしながら歩いた。
こちらを窺っていたアンナはホッとしたように息を吐いていた。
アリシアを振り返り、顔色を窺うように問い掛けてくる。
「この先も行かれますか?」
この先にあるのは、歴代の国王一家の肖像画が飾られた部屋だ。
勿論アリシアは絵を見るつもりでいる。
なぜそんなことを訊かれるのか、アリシアにはわからなかった。
正妃であっても女主人と認めていないから、見せたくないということだろうか。
「勿論そのつもりよ。なぜ?」
アリシアは「当然」という態度を崩さなかった。
なぜそんなことを訊かれるのか、心底わからないという顔で首を傾げる。
アンナは気まずそうに眼を逸らすと、「いえ、なんでもありません」と言って足を進めた。
「まあ……」
アリシアが部屋へ入った時、感じたのは違和感だった。
ただその違和感の理由はすぐにわかる。アリシアが無意識に想像していた絵とここにある絵は違っているのだ。
アリシアが想像していたのは、王宮に飾られているような絵だ。
王太子の立太式に合わせて描かれたそれは、国王と王太子、それに王太子の生母である妃が並んで描かれている。もし立太式よりも前に正妃を迎えていれば、その正妃も隣に加わっていた。
また王太子の成婚時に描かれた王太子夫妻の絵もあり、そこにはレイヴンとアリシアの絵も飾られている。
皆並んでこちらを向いている、そんな絵だ。
だけどここにある肖像画は違う。
ここにあるのは、間違いなく「国王一家」の絵だった。
描かれているのは、国王や王太子だけではない。
こちらを向いている者もいれば、背を向けている者もいて、王宮に並んでいるような形式ばった絵ではなかった。
母の膝に抱かれた幼子や、一緒に絵本を読んでいる兄妹。母の周りを幼い子どもたちが囲んでいるような絵もあった。
また子どもたちと一緒に成人女性が2人以上描かれている絵もあり、正妃と側妃、その子どもたちだと思われた。
ある日の情景を切り取ったような絵ばかりが並んでいて、歴代の国王一家がこの城でプライベートな時間を楽しんでいたことがわかる。
何故初めから気づかなかったのだろうか。
ルトビア公爵家でも、王都の邸に飾られているのは形式的な肖像画だ。
当主夫妻が並んで描かれた絵と、次期当主が成人した時に掛かれた絵がある。王家へ嫁ぐアリシアを特別に描いた絵もあった。
だけどマナーハウスに飾られた絵は違う。
父親に抱かれた幼子の絵や、兄弟でポニーに跨った絵もある。母に刺繍を習う姉妹や、母に抱かれて眠る赤子を覗き込む兄の絵もあった。
ここにある絵は、マナーハウスに飾られた絵と同じなのだ。
ただ公爵家とは違い、一家の妻子は一組ではない……。
初めの内、アリシアは感嘆の声を上げ、エレノアやドナたちと言葉を交わしながら絵を見ていた。
だけど次第に口数が減っていく。
国王や王妃、側妃とその子どもたち………。
なぜだか酷く居心地が悪い。
場違いな場所にいる気がする。
歩いているはずなのに、足元がふわふわしていて床の感覚がない。
子どもたちの楽しそうな笑顔を見ているはずなのに、意識に薄い膜が掛かっているようで、何を見ているのかわからなくなっていく……。
「妃殿下、どうかされましたか?」
エレノアに声を掛けられ、アリシアはハッとした。
視界の端に、心配そうな顔でこちらを見ているアンナの姿が見える。
そこでアリシアは、アンナがこの部屋へ案内するのを躊躇った訳を理解した。
ここに飾られた絵を知っているアンナは、まだ子どものいないアリシアに、母子の絵や、これから迎えることになる側妃やその子どもの絵を見せることを躊躇ったのだ。
しっかりしなければ――。
ここでアンナに弱味を見せることはできない。
「いいえ、大丈夫よ」
アリシアはにっこり笑った。
その後は笑顔のまま、エレノアと言葉を交わしながら歩いた。
こちらを窺っていたアンナはホッとしたように息を吐いていた。
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