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第2部 4章
48 1日の報告を①
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「レイヴン様はお戻りになったのかしら?」
「はい。先程戻られたとフランクから知らせが来ております」
「そう、ありがとう」
アリシアはレイヴンの帰りを待たずに晩餐の支度を始めていた。
女性は身支度に時間が掛かる為、仕方のないことだとレイヴンも理解してくれている。だけどアリシアはそれを口実にして帰宅直後のレイヴンと顔を合わさなくて済むことに安堵していた。
レイヴンはアリシアの不調をすぐに見抜いてしまう。
だけどもしレイヴンに何かあったのかと訊かれても、あの時感じていた言いようのない場違い感や、妙な浮遊感、まるで1人だけ違う世界へ迷い込んでしまったかのようなおかしな気持ちを、上手く説明できる気がしない。
だからアリシアは晩餐の為に着飾った姿で、レイヴンの気を逸らすことができるのではないかと期待している。
「妃殿下、とてもお綺麗ですわ」
エレノアの言葉にアリシアは笑顔を見せた。
招いているのは役人とはいえ貴族の出身である。
家を継ぐことができない次男や三男が中心になっているが、デビュタントも経験していて王宮にも来たことがある。彼らに侮られない為にも嫌味にならない程度に着飾った姿を見せなければならない。
「あちらは始まったみたいね」
城の外から僅かに喧騒が聞こえて来ていた。
今日は役人の妻や子どもといった家族は平民でも城へ入ることが許されているが、役場で働く平民の下級役人たちは許されていない。そんな者たちにも報いることができるようにと、この日だけは主要な町の食堂をいくつも貸り切って無料で食事を振舞っているのだ。
本来は庁舎や役場で働く役人の為に開かれたこの食堂だが、身分証の確認をするわけではなく、誰でも利用することができる。貧しい者への炊き出しのようにもなっていて、久しぶりに温かい食事を摂れた者が城まで礼を言いに来たりするらしい。
他にも酒を飲んで良い気分になった者が町の広場で騒いだりして、一種の祭りのようになるという。
城の中にまで声が聞こえてくるのだから町の中はさぞ賑わっていることだろう。
レイヴンが迎えに来るのももうすぐだ。
それからしばらくして扉を叩く音がした。
覚悟を決めていたはずなのに胸の鼓動が速くなる。
アリシアは誰にも気づかれないように深く呼吸をすると、扉に向かって笑顔を見せた。
「アリシア、すごく綺麗だ……」
半日ぶりの再会を喜び合った後、レイヴンが感嘆の息を吐いた。
アリシアは青色のドレスを着ている。
白色に近い水色からウエストに向かって徐々に色が濃くなっていき、ウエストの切り返しでは紺色に近い青になる。そしてまたスカートの裾に向かって徐々に薄い水色へ変わっていく。
スカートの大部分を占めるのは、レイヴンの瞳と同じ色だ。その部分には金色の刺繍糸を使った繊細な刺繍がされている。首飾りも髪飾りも腕輪も、すべて金細工にサファイアがついたもので、久しぶりにレイヴンのものだと主張された装いだ。
このドレスはレイヴンが選んだ。
他のドレスはすべてアリシアとマルグリットに任せていたレイヴンだったが、この晩餐のドレスだけは自分が選ぶと言って譲らなかった。
なぜレイヴンがこの色のドレスに拘ったのか、アリシアにはもうわかっていた。
「はい。先程戻られたとフランクから知らせが来ております」
「そう、ありがとう」
アリシアはレイヴンの帰りを待たずに晩餐の支度を始めていた。
女性は身支度に時間が掛かる為、仕方のないことだとレイヴンも理解してくれている。だけどアリシアはそれを口実にして帰宅直後のレイヴンと顔を合わさなくて済むことに安堵していた。
レイヴンはアリシアの不調をすぐに見抜いてしまう。
だけどもしレイヴンに何かあったのかと訊かれても、あの時感じていた言いようのない場違い感や、妙な浮遊感、まるで1人だけ違う世界へ迷い込んでしまったかのようなおかしな気持ちを、上手く説明できる気がしない。
だからアリシアは晩餐の為に着飾った姿で、レイヴンの気を逸らすことができるのではないかと期待している。
「妃殿下、とてもお綺麗ですわ」
エレノアの言葉にアリシアは笑顔を見せた。
招いているのは役人とはいえ貴族の出身である。
家を継ぐことができない次男や三男が中心になっているが、デビュタントも経験していて王宮にも来たことがある。彼らに侮られない為にも嫌味にならない程度に着飾った姿を見せなければならない。
「あちらは始まったみたいね」
城の外から僅かに喧騒が聞こえて来ていた。
今日は役人の妻や子どもといった家族は平民でも城へ入ることが許されているが、役場で働く平民の下級役人たちは許されていない。そんな者たちにも報いることができるようにと、この日だけは主要な町の食堂をいくつも貸り切って無料で食事を振舞っているのだ。
本来は庁舎や役場で働く役人の為に開かれたこの食堂だが、身分証の確認をするわけではなく、誰でも利用することができる。貧しい者への炊き出しのようにもなっていて、久しぶりに温かい食事を摂れた者が城まで礼を言いに来たりするらしい。
他にも酒を飲んで良い気分になった者が町の広場で騒いだりして、一種の祭りのようになるという。
城の中にまで声が聞こえてくるのだから町の中はさぞ賑わっていることだろう。
レイヴンが迎えに来るのももうすぐだ。
それからしばらくして扉を叩く音がした。
覚悟を決めていたはずなのに胸の鼓動が速くなる。
アリシアは誰にも気づかれないように深く呼吸をすると、扉に向かって笑顔を見せた。
「アリシア、すごく綺麗だ……」
半日ぶりの再会を喜び合った後、レイヴンが感嘆の息を吐いた。
アリシアは青色のドレスを着ている。
白色に近い水色からウエストに向かって徐々に色が濃くなっていき、ウエストの切り返しでは紺色に近い青になる。そしてまたスカートの裾に向かって徐々に薄い水色へ変わっていく。
スカートの大部分を占めるのは、レイヴンの瞳と同じ色だ。その部分には金色の刺繍糸を使った繊細な刺繍がされている。首飾りも髪飾りも腕輪も、すべて金細工にサファイアがついたもので、久しぶりにレイヴンのものだと主張された装いだ。
このドレスはレイヴンが選んだ。
他のドレスはすべてアリシアとマルグリットに任せていたレイヴンだったが、この晩餐のドレスだけは自分が選ぶと言って譲らなかった。
なぜレイヴンがこの色のドレスに拘ったのか、アリシアにはもうわかっていた。
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