【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 4章

70 特別な場所②

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「アリシア、少し外に出ようか」

 レイヴンが言い出したのは、夕刻に差し掛かろうとする時刻だった。これから外は暗くなる一方である。
 明日、早朝にメトワを発つことを思えば城にいた方が良い。
 だけどそんなことはレイヴンもわかっているはずで、それでも外に出ようと言うのだから何か理由があるのだろう。
 アリシアが了承を告げると、すぐに出かけることになった。


 馬車はアリシアが思っていたのと反対の方向へ向かっていた。
 城は小高い丘の上に建っているのだが、馬車は街へ降りるのではなく、裏山の方へ登っていく。
 だけど馬車が通れる道はすぐに終わって、2人は森の中を歩くことになった。

 森の中はあまり陽が入らない。空が赤く染まり出した今はまだ良いけれど、遅くなると真っ暗になってしまう。
 護衛の騎士やエレノアも後ろに続いているけれど、長くいない方が良いと思えた。

「怖い?」

 アリシアの手を引くレイヴンが訊いた。
 エスコートではなく、指を絡ませて手を繋いでいる。ここには2人の行動をとやかく言う者はいない。

「少し……。森を歩くのは、あまり経験がありませんので……」

 レイヴンの足取りはしっかりしている。行き先ははっきりと決まっているのだろう。
 だけど知らない場所を歩くことに不安を感じてしまうのは仕方のないことだった。

 それはレイヴンも理解しているのだろう。
 レイヴンは柔らかく微笑むと、繋いだ手に力を込める。

「そうだよね。ごめん、もう少しで着くから」

 そう言うと、少し歩調を速めた。



 本当に少し歩いた先だった。
 急に森が切り開かれた崖の上に出る。
 その向こうに、街の家並みが小さく見えていた。

「着いたよ。この景色を見せたかったんだ」
  
「まあ……っ!」

 感嘆の声を上げたアリシアは目を見開いた。
 小さな街並みが茜色に染まっている。
 はっきりとは見えないが、その向こうにあるのは果樹園の門扉だろうか。

「ここからは、王領メトワが一望できるんだ。子どもの頃カナリーたちと来た時に見つけてね」

「素晴らしいですわ!なんて美しいのでしょう……」

 晴天の日に眺めても美しい。青空の下で眺める街並みは、陽の光を屋根が反射してキラキラして見える。
 だけど茜色に染まった街並みは夕日が落ちるまでの、ほんの一瞬しか見ることができない。
 レイヴンはこの景色をアリシアに見せたいとずっと思っていたのだ。

 メトワに来てからもずっと公務だった。私的に楽しむことは何も出来ない。
 これが唯一のデートと言える外出だった。

 アリシアは目を輝かせて景色に見惚れている。
 レイヴンはそんなアリシアの横顔に見惚れていた。

「レイヴン様、私、メトワが好きになりました。また来たいと思います」

「……そうだね。今度は休暇で来たいな」

「……はい」

『休暇で来たい』
 それが何を意味するのか、アリシアにもわかっていた。

 そうして束の間の休日を楽しんだ2人は、陽が落ちきる前にまた手を繋いで馬車へ戻ったのだ。

 


 
「今日が最終日か」

 一方その頃。
 王宮にあるレオナルドの執務室で、ロバートの声が響いた。
 ロバートはレオナルドと向かい合って座っている。

「ああ。もうすぐアリシアが帰ってくる。……早く無事な姿を確かめたいが、今は帰って来て欲しくないとも思う」
 
 レオナルドの心境は複雑だった。
 ロバートは結局あれから王都に留まったままだ。
 モルガン伯爵邸でライアンやルーファスに領地経営を学びながら、宮廷へ申請できる災害復興の補助金を待っている内に思いがけない事態が起きた。

「……殿下やレオの取り組みは無駄になるかもしれないな」

 低く抑えられたロバートの言葉に、レオナルドは答えなかった。




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