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第2部 5章
57 キャンベル侯爵邸の今②
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「それだけではないのですよ。執事たちが連携して守てくれたものもあったのです」
涙を拭ったジェーンが微笑む。
執事たちは銀食器が古物商に売られたことも、それをアダムが買い取っていたことも知らなかった。
目につきやすい場所に保管してあった銀食器を早々に処分されたと思った執事たちは、パントリーに保管されている来客用や子ども用の銀食器だけでも守らなければと、デミオンやアンジュの目を盗んで持ち出してくれていたのだ。それを使用人部屋やあの家で密かに隠していた。
「クレールも銀食器が売り払われたことを父上に知らせた後、どうなったのか知らされていなかったんだ。だから結局取り戻すことができなかったのだと思っていたらしい」
古物商から銀食器を買い取った後も、アダムは秘密が漏れるのを恐れて誰にも明かさなかった。他に知っていたのはオレリアだけである。
ルトビア公爵邸へ早馬を走らせた後、何の知らせもないことにクレールは肩を落とした。
きっと早馬が間に合わずに、アダムは買い戻すことができなかったのだ。
そう思ったクレールは、アダムへ知らせたことを誰にも話さなかった。
アダムが侯爵家の為に何かをしてくれたとしても、それは完全なる好意である。間に合わなかったからといってアダムを恨むような者がいてはいけないと思ったからだ。
「クレールも含めて、皆侯爵家の銀食器は失われたと思っていたんだ。それなのに戻って来た。彼らが持ち出して隠していたものと合わせればかなりのものが取り戻せたと思う」
喜びに沸いた彼らは、早速食堂のカトラリーを入れ替えた。
普段使い用の食器も戻って来たのだ。アンジュが買い揃えた品のない食器を残しておく必要はない。
クレールは嬉々としてそれらを売り払った。
因みに、アンジュがキャンベル侯爵家の銀食器を売り払った時とは違い、「買い取った食器が売れるのか」という心配はいらない。
アンジュが売り払った銀食器にはキャンベル侯爵家の家紋がついている。
今回の銀食器にはそれがなかった。
虚栄心の強いアンジュは、侯爵家に銀食器がないなんて許せない。だけどキャンベル侯爵家の家紋を入れれば、サンドラが使っていたものと同じになる。
それも許せなかったアンジュは、結局家紋の入っていない銀食器を買い揃えたのだ。
銀食器は家紋を入れ、代々受け継がれてこそ家宝と呼ばれる。
家紋の入っていない銀食器など貴族としては何の価値もないものだ。
「アンジュといえば……。2人はどうしているの?」
アリシアの問い掛けにジェーンの体がピクリと震えた。
ここにいる全員がそれを聞きたがっていることはわかっていた。
アリシアはジェーンの芳しくない反応に眉を寄せた。
デミオンとアンジュにはもう何の権限もないはずだ。
それなのにまだジェーンに不快感を与えるようなことをしているのだろうか。
「2人は使用人棟に移ったと聞いているのだけど……」
アリシアはちらっとロバートへ視線を送る。
それに応えてロバートは大きく頷いた。
「それは間違いない。アンジュが刑を受けて戻ってから、早い段階で移っている」
あれはエミリーが嫁ぐより前のことだ。
ジェーンが戻るぎりぎりまで当主の部屋に居座るつもりだと思っていたので驚いた。
「それからデミオン殿とアンジュは使用人棟で暮らしているよ。デミオン殿は外に出てくることもあるけど、アンジュは部屋に籠りっぱなしじゃないかな。使用人たちからも姿を見たという話は聞いていない」
デミオンが外に出てくるといっても、裏庭で洗濯をする時や本館の厨房へ食事を取りに来るだけだ。デミオンもアンジュも料理はできないので食事はずっと厨房まで取りに来ている。
箸より重いものを持ったことがないようなデミオンは、初め2人分の食事を運ぶのに苦労していた。だけどそれにももう慣れたようだ。
最もロバートも使用人たちから話を聞いているだけで、食事を運ぶデミオンを見たわけではない。
「私、会いました。昨日、お父様にお会いしたのです」
「!!」
ジェーンの硬い声に視線が集まる。
ジェーンは4人の顔を見渡した後、ゆっくりと話し出した。
涙を拭ったジェーンが微笑む。
執事たちは銀食器が古物商に売られたことも、それをアダムが買い取っていたことも知らなかった。
目につきやすい場所に保管してあった銀食器を早々に処分されたと思った執事たちは、パントリーに保管されている来客用や子ども用の銀食器だけでも守らなければと、デミオンやアンジュの目を盗んで持ち出してくれていたのだ。それを使用人部屋やあの家で密かに隠していた。
「クレールも銀食器が売り払われたことを父上に知らせた後、どうなったのか知らされていなかったんだ。だから結局取り戻すことができなかったのだと思っていたらしい」
古物商から銀食器を買い取った後も、アダムは秘密が漏れるのを恐れて誰にも明かさなかった。他に知っていたのはオレリアだけである。
ルトビア公爵邸へ早馬を走らせた後、何の知らせもないことにクレールは肩を落とした。
きっと早馬が間に合わずに、アダムは買い戻すことができなかったのだ。
そう思ったクレールは、アダムへ知らせたことを誰にも話さなかった。
アダムが侯爵家の為に何かをしてくれたとしても、それは完全なる好意である。間に合わなかったからといってアダムを恨むような者がいてはいけないと思ったからだ。
「クレールも含めて、皆侯爵家の銀食器は失われたと思っていたんだ。それなのに戻って来た。彼らが持ち出して隠していたものと合わせればかなりのものが取り戻せたと思う」
喜びに沸いた彼らは、早速食堂のカトラリーを入れ替えた。
普段使い用の食器も戻って来たのだ。アンジュが買い揃えた品のない食器を残しておく必要はない。
クレールは嬉々としてそれらを売り払った。
因みに、アンジュがキャンベル侯爵家の銀食器を売り払った時とは違い、「買い取った食器が売れるのか」という心配はいらない。
アンジュが売り払った銀食器にはキャンベル侯爵家の家紋がついている。
今回の銀食器にはそれがなかった。
虚栄心の強いアンジュは、侯爵家に銀食器がないなんて許せない。だけどキャンベル侯爵家の家紋を入れれば、サンドラが使っていたものと同じになる。
それも許せなかったアンジュは、結局家紋の入っていない銀食器を買い揃えたのだ。
銀食器は家紋を入れ、代々受け継がれてこそ家宝と呼ばれる。
家紋の入っていない銀食器など貴族としては何の価値もないものだ。
「アンジュといえば……。2人はどうしているの?」
アリシアの問い掛けにジェーンの体がピクリと震えた。
ここにいる全員がそれを聞きたがっていることはわかっていた。
アリシアはジェーンの芳しくない反応に眉を寄せた。
デミオンとアンジュにはもう何の権限もないはずだ。
それなのにまだジェーンに不快感を与えるようなことをしているのだろうか。
「2人は使用人棟に移ったと聞いているのだけど……」
アリシアはちらっとロバートへ視線を送る。
それに応えてロバートは大きく頷いた。
「それは間違いない。アンジュが刑を受けて戻ってから、早い段階で移っている」
あれはエミリーが嫁ぐより前のことだ。
ジェーンが戻るぎりぎりまで当主の部屋に居座るつもりだと思っていたので驚いた。
「それからデミオン殿とアンジュは使用人棟で暮らしているよ。デミオン殿は外に出てくることもあるけど、アンジュは部屋に籠りっぱなしじゃないかな。使用人たちからも姿を見たという話は聞いていない」
デミオンが外に出てくるといっても、裏庭で洗濯をする時や本館の厨房へ食事を取りに来るだけだ。デミオンもアンジュも料理はできないので食事はずっと厨房まで取りに来ている。
箸より重いものを持ったことがないようなデミオンは、初め2人分の食事を運ぶのに苦労していた。だけどそれにももう慣れたようだ。
最もロバートも使用人たちから話を聞いているだけで、食事を運ぶデミオンを見たわけではない。
「私、会いました。昨日、お父様にお会いしたのです」
「!!」
ジェーンの硬い声に視線が集まる。
ジェーンは4人の顔を見渡した後、ゆっくりと話し出した。
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