【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
542 / 697
第2部 5章

56 キャンベル侯爵邸の今①

しおりを挟む
「それで……。お邸はどうかしら?」

 この1年で大きな変化があったのはキャンベル侯爵邸も同じだった。
 デミオンやアンジュが雇い入れた使用人たちはすべて解雇され、エミリーは結婚して出ていった。
 それでもデミオンとアンジュは邸に残っている。使用人棟に移ったと聞いているが、嫌な思いをさせられていないだろうか。

「そうですね……。久しぶりに戻った邸は随分と変わっていました」

 久しぶりに帰った邸は、使用人も少なく、調度品も撤去されてガランとしていた。
 侯爵家再建に向けて人件費を抑える為に使用人の数を減らし、調度品を売り払って資金に変えることはロバートと話し合って決めたことだ。ジェーンも納得している。
 使用人を減らしたことで手がまわらずに使っていない部屋の掃除や、表から見えない庭園の手入れが疎かになっているのも仕方のないことだった。

 それらのことに目を瞑れば十分に居心地のいい邸と言える。
 残っている使用人たちは皆暖かく接してくれるし、部屋や廊下の調度品や装飾品は極力廃されているけれど、一部にはサンドラがいた頃に使っていた調度品や食器が並べられていた。
 それを見た時、ジェーンは心から驚いた。
 使用人たちがデミオンやアンジュの目から

隠して保管してくれていたのだ。
 
「まあ!叔母様の遺品が残されていたの?!」

「そうなのです。クレールやマーサたちが危険を冒して隠してくれていました。それに侯爵家に伝わる銀食器はルトビア公爵様が買い取ってくれていたのです」

「え?!」

 驚いたアリシアはレオナルドの顔を見る。
 レオナルドは笑顔で頷いた、

「僕も父上に聞くまで知らなかったんだけど、アンジュが処分した銀食器を父上が買い取っていたらしい」

 レオナルドがアダムから聞いた経緯はこうだ。
 侯爵邸に入ったアンジュは、サンドラを思い起こさせる調度品や装飾品を次々に処分していった。そのほとんどは捨てられてしまったが、銀食器は高価なものだ。それに捨ててしまったら新しい銀食器を買わなければならない。
 それならば高価な銀食器をただ捨てるのは惜しい。アンジュは銀食器を捨てるのではなく、古物商に売り払ったのだ。

 古物商が侯爵邸を辞するのと前後して、アダムの元にクレールからが届けられた。
 文にはアンジュが侯爵家の銀食器を売り払うと書かれている。
 驚いたアダムはすぐに古物商へ手をまわし、売られたばかりの銀食器をすべて公爵家で買い取ることに成功していた。

「銀食器は高価なものだけど、すべてに侯爵家の家紋が入っている。他家の家紋が入った食器を欲しがるような貴族はいない。古物商が納得する値で売るには外国へ持って行っていくしかないんだ。そこへ言い値で買い取るという父上が現れた。古物商としては外国まで運んでいく手間も危険も省ける。大喜びですべて売ってくれたそうだよ」

 買い取られた銀食器は公爵邸で手厚く保管されていた。
 いずれジェーンが結婚し、ジェーンの夫が侯爵位を継いだ時に祝いとして返すつもりだったそうだ。

「ジェーンの夫が爵位を継げば、既に当主でなくなったデミオン殿も手を出せないと考えていたようだけど、結果的にジェーンが侯爵位を継ぐことになった。それならもう返しても良いと思ったそうだよ。ついでにジェーンを驚かせようと、帰国する前に侯爵邸に届けたんだ」

 銀食器を乗せた馬車には念の為レオナルドが付き添った。
 銀食器を受け取ったクレールは涙を見せて喜んでいた。

「クレールは良い家令だね」

「はい、私もそう思います」

 そう答えたジェーンの目にも涙が光っていた。



しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

すれ違いのその先に

ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。 彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。 ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。 *愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...