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第2部 5章
60 再会①
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ジェーンが邸に戻ると、デミオンとアンジュの痕跡はすっかりなくなっていた。
馴染みのある使用人たちが笑顔で迎えてくれている。ジェーンにとっては驚くことばかりだ。
玄関ホールに並んだ使用人たちが一斉に「おかえりなさいませ」と頭を下げるのも、本来なら当主が帰宅した時だけである。
名目だけとはいえ、この家の当主はまだデミオンだ。それだけではなく、邸を出るまでは――処罰が行われる前は――誰かがジェーンを出迎えるなど許されないことだった。今でもデミオンやアンジュに見つかれば激しい叱責を受けるだろう。
「お2人はもうこの本邸に近づきません。大丈夫ですよ」
ジェーンの不安を見透かしたようにクレールが笑う。
その笑顔は温かさに満ちていて心から安心することができた。
その後、ジェーンは執務室でクレールから留守中の報告を受けた。
感慨深かったのはエミリーの変化と成長である。
エミリーはデミオンとアンジュの呪縛から抜け出した。きっとこれからは貧しくても平穏な暮らしを送れるだろう。
「本当に良かったわ。あの子を見捨てたようで心苦しく思っていたの」
「ロバート様から聞きました。妃殿下が『愛しているのなら、間違えた時は叱って正しいことを教えるはずだ』と仰ったとか。……私もそう思います。そう思えば、この邸の者は誰一人としてエミリー様を愛していなかったのでしょうね」
デミオンとアンジュは、エミリーが何をしても叱ったりしなかった。甘やかすばかりで正しい道を教えなかった。
エミリーを取り巻いていた使用人たちも、擦り寄って持ち上げるばかりで、本当にエミリーを思っていた者なんていなかっただろう。
「あの子のことを一番考えて愛してくれたのは、マーサかもしれないわね」
「……マーサは裏切りにあたるのでは、と悩んでいますが」
これまで散々ジェーンに悪意を向け、嫌がらせをしてきたエミリーである。
そのエミリーへ思いを向けるのはジェーンに対する裏切りではないか。そう言ってマーサは悩んでいるという。
「そんなことないわ。私の義妹に愛情を注いで育ててくれたのだもの。感謝してもしきれないくらいだわ」
ジェーンはエミリーが本当の愛情を知れたことを心から嬉しく思う。
そしてそれを喜べる自分に心から安堵していた。
クレールはデミオンとアンジュのことも教えてくれる。
近衛の詰め所に押し掛けて牢に入れられたデミオンが、1日戻らなかったこと。
アンジュが戻るまでのデミオンの様子。
そしてアンジュが戻ってから使用人棟に2人の私物を運び込むところまで、クレールは己の分が悪いところまですべて隠さずに教えてくれた。
「そう。……そうなのね」
正直なところ、今の2人の様子を聞いても少しも心が動かなかった。
足音に怯え、昼も夜もなく悲鳴を上げ続けるというアンジュ。
アンジュに付き添い、食事も儘ならないデミオン。
2人ともきっと満足に眠ることもできないだろう。
そんな2人を気の毒とも、いい気味だとも思わない。
何も感じないことが不思議で、少し居心地が悪いような気がした。
馴染みのある使用人たちが笑顔で迎えてくれている。ジェーンにとっては驚くことばかりだ。
玄関ホールに並んだ使用人たちが一斉に「おかえりなさいませ」と頭を下げるのも、本来なら当主が帰宅した時だけである。
名目だけとはいえ、この家の当主はまだデミオンだ。それだけではなく、邸を出るまでは――処罰が行われる前は――誰かがジェーンを出迎えるなど許されないことだった。今でもデミオンやアンジュに見つかれば激しい叱責を受けるだろう。
「お2人はもうこの本邸に近づきません。大丈夫ですよ」
ジェーンの不安を見透かしたようにクレールが笑う。
その笑顔は温かさに満ちていて心から安心することができた。
その後、ジェーンは執務室でクレールから留守中の報告を受けた。
感慨深かったのはエミリーの変化と成長である。
エミリーはデミオンとアンジュの呪縛から抜け出した。きっとこれからは貧しくても平穏な暮らしを送れるだろう。
「本当に良かったわ。あの子を見捨てたようで心苦しく思っていたの」
「ロバート様から聞きました。妃殿下が『愛しているのなら、間違えた時は叱って正しいことを教えるはずだ』と仰ったとか。……私もそう思います。そう思えば、この邸の者は誰一人としてエミリー様を愛していなかったのでしょうね」
デミオンとアンジュは、エミリーが何をしても叱ったりしなかった。甘やかすばかりで正しい道を教えなかった。
エミリーを取り巻いていた使用人たちも、擦り寄って持ち上げるばかりで、本当にエミリーを思っていた者なんていなかっただろう。
「あの子のことを一番考えて愛してくれたのは、マーサかもしれないわね」
「……マーサは裏切りにあたるのでは、と悩んでいますが」
これまで散々ジェーンに悪意を向け、嫌がらせをしてきたエミリーである。
そのエミリーへ思いを向けるのはジェーンに対する裏切りではないか。そう言ってマーサは悩んでいるという。
「そんなことないわ。私の義妹に愛情を注いで育ててくれたのだもの。感謝してもしきれないくらいだわ」
ジェーンはエミリーが本当の愛情を知れたことを心から嬉しく思う。
そしてそれを喜べる自分に心から安堵していた。
クレールはデミオンとアンジュのことも教えてくれる。
近衛の詰め所に押し掛けて牢に入れられたデミオンが、1日戻らなかったこと。
アンジュが戻るまでのデミオンの様子。
そしてアンジュが戻ってから使用人棟に2人の私物を運び込むところまで、クレールは己の分が悪いところまですべて隠さずに教えてくれた。
「そう。……そうなのね」
正直なところ、今の2人の様子を聞いても少しも心が動かなかった。
足音に怯え、昼も夜もなく悲鳴を上げ続けるというアンジュ。
アンジュに付き添い、食事も儘ならないデミオン。
2人ともきっと満足に眠ることもできないだろう。
そんな2人を気の毒とも、いい気味だとも思わない。
何も感じないことが不思議で、少し居心地が悪いような気がした。
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