549 / 697
第2部 5章
63 宰相の後継者①
しおりを挟む
「ロイ兄様は今後どうされますの?」
ジェーンが落ち着くのを見計らい、元の席へ戻ったアリシアがロバートへ訊いた。
ロバートには運営している大商会がある。ジェーンが戻って来てから領主代行の権限はジェーンへ返されているし、仕事の引継ぎを終えれば商会の仕事へ戻るのだろう。
ただ以前とは違ってロバートは子爵になった。領地を持っていないので土地に縛られることはないが、以前のように気軽く海外を飛びまわるというわけにはいかないのではないだろうか。
とはいえ、国内に留まるとしてもルーファスとの関係が改善されているので以前ほど心苦しい思いをすることはないだろう。
「そうだな。まずはきちんと引継ぎを終えることが先決だけど、その後は各国の拠点になっている支店の様子を見に行くよ。この1年、信頼できる者たちに運営を任せてきたが、やはり自分の目で見ておきたい」
「そう……。大丈夫なのかしら」
国王がロバートに爵位を与えたのは、ロバートをこの国に留めておきたいからだ。
ロバートが無位の時であれば、国境に儲けられた関所で商会の身分証と通行料を払うだけで通過できた。だけど爵位を得た今は、国王から発行される許可証明書がなければ国境を超えることができない。
国王は許可証明書に印を押してくれるのだろうか。
「大丈夫だよ」
アリシアの不安を感じ取ったようにレイヴンが微笑む。その後ジェーンへも頷いて見せた。
ロバートをこの問題に引き込んだのはジェーンなので、ジェーンも今後どうなるのか気にしているのだ。
「ロバート殿が優秀なのもその能力を借りたいのも事実だけど、ロバート殿の商会がこの国に大きな利益をもたらしているのは間違いないんだ。その根幹を揺るがすようなことはしないよ。例え他国へ行っていてもロバート殿が属する国はアナトリアだ。それがはっきりしているだけで良い」
「ありがとうございます」
レイヴンの言葉にロバートは胸に手を当てて頭を下げる。
あまり国に帰って来なくても、ほとんど王都に近寄ることがなくても、ロバートの故郷はアナトリアだ。それを忘れたことはなかった。
そして今回、国王から半ば強制的に爵位を与えられ、レイヴンの手配によって王宮の舞踏会に出席することになった。そのお陰で長年重しとなっていた兄との関係も改善したのだ。万感の思いが籠った礼だった。
ロバートは顔を上げるとアリシアへ視線を向ける。
「モルガン伯爵家の頭脳といえば、リカルド兄上が王都へ来ると思うよ」
「えっ?!」
リカルドといえば、ロバートの兄でルーファスの弟だ。モルガン伯爵家の次男である。
リカルドはロバートと同様学園を卒業すれば独立するはずだったが、今はモルガン伯爵領でルーファスの補佐をしている。
「ルーファス兄上が陛下のお召で度々王宮へ上がっているのはを知っているだろう?陛下は兄上の能力をいたくお気に召したようなんだ。側近として仕えないか、というお言葉をいただいたそうだ。兄上にとっては至上の喜びだったが……、領地を選んだらしい」
ジェーンが落ち着くのを見計らい、元の席へ戻ったアリシアがロバートへ訊いた。
ロバートには運営している大商会がある。ジェーンが戻って来てから領主代行の権限はジェーンへ返されているし、仕事の引継ぎを終えれば商会の仕事へ戻るのだろう。
ただ以前とは違ってロバートは子爵になった。領地を持っていないので土地に縛られることはないが、以前のように気軽く海外を飛びまわるというわけにはいかないのではないだろうか。
とはいえ、国内に留まるとしてもルーファスとの関係が改善されているので以前ほど心苦しい思いをすることはないだろう。
「そうだな。まずはきちんと引継ぎを終えることが先決だけど、その後は各国の拠点になっている支店の様子を見に行くよ。この1年、信頼できる者たちに運営を任せてきたが、やはり自分の目で見ておきたい」
「そう……。大丈夫なのかしら」
国王がロバートに爵位を与えたのは、ロバートをこの国に留めておきたいからだ。
ロバートが無位の時であれば、国境に儲けられた関所で商会の身分証と通行料を払うだけで通過できた。だけど爵位を得た今は、国王から発行される許可証明書がなければ国境を超えることができない。
国王は許可証明書に印を押してくれるのだろうか。
「大丈夫だよ」
アリシアの不安を感じ取ったようにレイヴンが微笑む。その後ジェーンへも頷いて見せた。
ロバートをこの問題に引き込んだのはジェーンなので、ジェーンも今後どうなるのか気にしているのだ。
「ロバート殿が優秀なのもその能力を借りたいのも事実だけど、ロバート殿の商会がこの国に大きな利益をもたらしているのは間違いないんだ。その根幹を揺るがすようなことはしないよ。例え他国へ行っていてもロバート殿が属する国はアナトリアだ。それがはっきりしているだけで良い」
「ありがとうございます」
レイヴンの言葉にロバートは胸に手を当てて頭を下げる。
あまり国に帰って来なくても、ほとんど王都に近寄ることがなくても、ロバートの故郷はアナトリアだ。それを忘れたことはなかった。
そして今回、国王から半ば強制的に爵位を与えられ、レイヴンの手配によって王宮の舞踏会に出席することになった。そのお陰で長年重しとなっていた兄との関係も改善したのだ。万感の思いが籠った礼だった。
ロバートは顔を上げるとアリシアへ視線を向ける。
「モルガン伯爵家の頭脳といえば、リカルド兄上が王都へ来ると思うよ」
「えっ?!」
リカルドといえば、ロバートの兄でルーファスの弟だ。モルガン伯爵家の次男である。
リカルドはロバートと同様学園を卒業すれば独立するはずだったが、今はモルガン伯爵領でルーファスの補佐をしている。
「ルーファス兄上が陛下のお召で度々王宮へ上がっているのはを知っているだろう?陛下は兄上の能力をいたくお気に召したようなんだ。側近として仕えないか、というお言葉をいただいたそうだ。兄上にとっては至上の喜びだったが……、領地を選んだらしい」
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる