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第2部 5章
67 中立宣言①
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「……大丈夫でしょうか」
アリシアが退室した後、残された面々は重い雰囲気に包まれていた。
言葉に出さなくてもアリシアが何を感じて、気にしているのか手に取るようにわかる。
それくらい今日ここに集まった者たちは皆アリシアを理解していた。
「レオナルド、すまない。父上は僕の我儘を後押ししようとしてくれているのだろう」
レイヴンが頭を下げる。
そんなことは言われなくても十分にわかっていた。
レオナルドとリカルドの対立に夢中になれば、貴族たちは一時的にせよお世継ぎ問題を忘れるだろう。側妃を押し付けようとする者たちの勢いを削ぎ、アリシアが懐妊するまでの時間を稼ぐことができる。
ひとつのことを行うにも、何通りもの思惑がある。
国王にとって王家への不満を逸らすことと、レイヴンへの非難を抑えて時間を稼ぐこと、そしてより優秀な宰相候補を育てること。どれが一番意味を持つことなのか。
リカルド1人を抱えることでこれだけの効果が見込めるのだから美味しい話である。
「ロイ。リカルド殿が王都へ来るだろうという話だけど、リカルド殿はこの話をもう受けたのか」
「受けたというか……。陛下からの書簡が届いた」
「っ!!」
ルーファスが国王からの誘いを受けた時、それはそれ程重い効力を持つものではなかった。
口頭で誘われただけで、だからこそ断ることができたのだ。
だけどリカルドには王印が押された書簡が届いた。それは正式な任命書で、断ることができない。
「リカルド殿に次期宰相を目指すつもりがあるのか、逆らえず渋々来るのか。まずはそこからだな」
長い間レイヴンの側近を務めてきたレオナルドは、既に高い実績と信頼を得ている。だけどリカルドが本気になれば、そんな距離はあっという間に埋めてしまうだろう。
お互いに本気でやり合えば、結果が出た時にしこりを残すかもしれない。
「……家を出て独立したといっても僕はモルガン伯爵家の三男だ。リカルド兄上の弟として、レオの側に立つことはできない」
ロバートの言葉にレオナルドは頷いた。
家門から宰相を輩出するのはとてつもない名誉である。
もし2人の間で激しい争いになった時、ロバートはモルガン伯爵家の一員としてリカルドの味方にまわるだろう。優秀な上にレオナルドのことを知りきったロバートが相手方にまわるのは痛い。
「……だけど僕はレオを弟だと思っているんだ。レオの側に立つことはできないが、敵にまわることもない」
「……え?」
「それは完全な中立、と言うことか?」
レイヴンが問い掛けるとロバートは頷いた。
2人が対立した時に、ロバートはレオナルドの味方をすることはできない。だけど敵にもまわらない。
完全な中立を保つという宣言だ。
「伯爵家で僕は末っ子なんですよ。幼い頃は僕にも弟か妹がいればな、と思ったものです。そこへ生まれてきたのがレオでした」
公爵家と伯爵家。
身分の違いはあったが、初めて見る自分より幼い相手をロバートは可愛がった。
つぶらな瞳でロバートを見つめる赤子は、ロバートと同じ栗色の髪と緑色の目をしている。それがまた本当の兄弟のように思わせた。
兄として守ってやらなければ、と思ったものだ。
その後、ジェーンとアリシアが生まれて妹もできた。
「リカルド兄上は常に領地にいるから年明け以降会ってないんだ。だからこの話をどう感じているのかはわからない。穏便に済むことを願うけど……、なにがあったとしても僕がレオやアリシアを裏切ることはないよ」
勿論ジェーンのこともね、と言ってロバートは笑った。
アリシアが退室した後、残された面々は重い雰囲気に包まれていた。
言葉に出さなくてもアリシアが何を感じて、気にしているのか手に取るようにわかる。
それくらい今日ここに集まった者たちは皆アリシアを理解していた。
「レオナルド、すまない。父上は僕の我儘を後押ししようとしてくれているのだろう」
レイヴンが頭を下げる。
そんなことは言われなくても十分にわかっていた。
レオナルドとリカルドの対立に夢中になれば、貴族たちは一時的にせよお世継ぎ問題を忘れるだろう。側妃を押し付けようとする者たちの勢いを削ぎ、アリシアが懐妊するまでの時間を稼ぐことができる。
ひとつのことを行うにも、何通りもの思惑がある。
国王にとって王家への不満を逸らすことと、レイヴンへの非難を抑えて時間を稼ぐこと、そしてより優秀な宰相候補を育てること。どれが一番意味を持つことなのか。
リカルド1人を抱えることでこれだけの効果が見込めるのだから美味しい話である。
「ロイ。リカルド殿が王都へ来るだろうという話だけど、リカルド殿はこの話をもう受けたのか」
「受けたというか……。陛下からの書簡が届いた」
「っ!!」
ルーファスが国王からの誘いを受けた時、それはそれ程重い効力を持つものではなかった。
口頭で誘われただけで、だからこそ断ることができたのだ。
だけどリカルドには王印が押された書簡が届いた。それは正式な任命書で、断ることができない。
「リカルド殿に次期宰相を目指すつもりがあるのか、逆らえず渋々来るのか。まずはそこからだな」
長い間レイヴンの側近を務めてきたレオナルドは、既に高い実績と信頼を得ている。だけどリカルドが本気になれば、そんな距離はあっという間に埋めてしまうだろう。
お互いに本気でやり合えば、結果が出た時にしこりを残すかもしれない。
「……家を出て独立したといっても僕はモルガン伯爵家の三男だ。リカルド兄上の弟として、レオの側に立つことはできない」
ロバートの言葉にレオナルドは頷いた。
家門から宰相を輩出するのはとてつもない名誉である。
もし2人の間で激しい争いになった時、ロバートはモルガン伯爵家の一員としてリカルドの味方にまわるだろう。優秀な上にレオナルドのことを知りきったロバートが相手方にまわるのは痛い。
「……だけど僕はレオを弟だと思っているんだ。レオの側に立つことはできないが、敵にまわることもない」
「……え?」
「それは完全な中立、と言うことか?」
レイヴンが問い掛けるとロバートは頷いた。
2人が対立した時に、ロバートはレオナルドの味方をすることはできない。だけど敵にもまわらない。
完全な中立を保つという宣言だ。
「伯爵家で僕は末っ子なんですよ。幼い頃は僕にも弟か妹がいればな、と思ったものです。そこへ生まれてきたのがレオでした」
公爵家と伯爵家。
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つぶらな瞳でロバートを見つめる赤子は、ロバートと同じ栗色の髪と緑色の目をしている。それがまた本当の兄弟のように思わせた。
兄として守ってやらなければ、と思ったものだ。
その後、ジェーンとアリシアが生まれて妹もできた。
「リカルド兄上は常に領地にいるから年明け以降会ってないんだ。だからこの話をどう感じているのかはわからない。穏便に済むことを願うけど……、なにがあったとしても僕がレオやアリシアを裏切ることはないよ」
勿論ジェーンのこともね、と言ってロバートは笑った。
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