【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 5章

73 ティナムへ①

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「レイヴン様……」

「駄目だよ、アリシア。今日はもうやめよう」

 レイヴンはこちらを見上げながら、強請るように体を寄せるアリシアをそっと止めた。
 目覚めてから1度愛し合った2人は何も身につけていない。アリシアの背中へ腕をまわして気怠い余韻に浸るレイヴンにアリシアが2回目を求めたのだ。
 レイヴンはアリシアの髪を撫でながら、傷つけないよう注意して言葉を続ける。
 
「愛している、アリシア。こうして抱き合っているだけで幸せなんだ。たまにはゆっくりしようよ」

「そう、ですわね……」

 繋がるのではなく、抱き合っていちゃいちゃしよう。そう言われると頷くしかない。自らレイヴンの上に乗る、なんて考えのないアリシアである。
 それにレイヴンが止める理由もわかっていた。2人は今日、王領ティナムへ向けて出発するのだ。

 王宮を出るとほとんど1日馬車に乗りっぱなしになる。しかも今年はアリシアに配慮された行程ではない。
 きっとアリシアは王領ティナムへ着くまでに疲れ果ててしまうだろう。
 
 それがわかっていたから、レイヴンは今朝アリシアを抱くつもりはなかった。
 それなのにお強請りに負け、1度抱いてしまったのだ。
 アリシアが抱かれたいと望むのは、愛し合いたいというより子を孕みたいという思いが強い。カロリーナの懐妊がわかってからその傾向が強くなった。
 こうして何回も強請るのも、王都を発てば王領ティナムに着くまでレイヴンが手を出さないとわかっているからだ。

 レイヴンとしては抱き合う行為を、子を作る為だけの作業にはしたくない。
 だから今まで以上に「愛している」「可愛い」「大好きだよ」と伝えるようになった。

王領ティナムに着けば海が見えるよ。楽しみだね」

 レイヴンはしょんぼりと胸に顔を埋めるアリシアへ優しく声を掛ける。
 アリシアにとっては焦りの募る王領ティナム行きだが、レイヴンは良いタイミングではないかと思っていた。

 王都にいればどうしてもカロリーナの話題が耳に入る。
 2人が友人関係にあるのは知られているので祝いの言葉を口にする者も多いだろう。その度にアリシアは笑顔で対応しなければならない。
 それに時間的な余裕があると余計なことを考えやすくなるものだ。
 それならば王都を離れて初めての場所で忙しくしている方が良い。
 この視察が気晴らしになるようレイヴンは心から願っていた。
 

 
 腕の中のアリシアも勿論今日のことはわかっている。レイヴンが駄目と言ったのも、アリシアの体を気遣っているからだ。
 それを思えば、アリシアこそレイヴンを思い遣っているとはとても言えなかった。

 レイヴンは毎日アリシアを抱いてくれている。
 本当は疲れている時も、もっと眠りたい時もあっただろう。それなのにいつもアリシアの望みを優先させてくれている。

 それにこの行為をただの子作りにしたくないというレイヴンの気持ちは普段から十分すぎるほど伝わっていた。
 それなのに余裕のないアリシアは、その気持ちに応えられているとはとても言えない。本当はこうして素肌を合わせているだけで幸せを感じられるはずなのに。
 
「そうですね。私も楽しみにしています」

 アリシアがそう言って微笑むと、レイヴンが嬉しそうに笑った。

 今日は久しぶりに素肌の温もりと会話を楽しもう。
 アリシアはそう決めた。




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