【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 5章

74 ティナムへ②

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 ゆったりとした幸せな時間はあっという間に過ぎ去り、出発する時間になった。
 レイヴンとアリシアは王太子宮の侍女や侍従たちに見送られて馬車に乗り込む。
 今年も王太子宮のことはケイトに任せた。エレノアやドナ、ジーナは次の馬車で付いてくる。

「いってらっしゃいませ。殿下、妃殿下」

 見送りの者が一斉に頭を下げ、馬車が動き出した。




「今日はあまり寒くなくて良かったね」

 今年も初冬の視察になった。王都に雪が降ることはほとんどないが、少しずつ寒さが増してきている。
 それでも今日は天気が良いので馬車の中にいれば寒さを感じることはなかった。

 今日もレイヴンはアリシアの隣に座っている。アリシアと指を絡ませ手を繋いだレイヴンはにこにこと楽しそうだ。対面の席に置かれたレイヴンの剣には、アリシアが新しく贈った飾り房が付いている。
 アリシアはレイヴンの顔を見上げた。それから剣に目をやり、窓の外へ視線を移す。
 去年と同じ光景なのに、アリシアの気持ちだけが違っている。

 行ったことのない新しい世界が見られることをあんなに楽しみにしていたのに、今年は馬車に乗っていても少しも浮かれた気持ちが湧いてこない。気を抜いたら気分が沈み込みそうになる。

 その理由はわかっていた。
 王都からティナムまでは3日掛かる。その間レイヴンはアリシアを抱かないだろう。
 精を貰わなければ懐妊できないのに精を注いでもらえない。

 勿論それがアリシアの体を案じてなのはわかっている。レイヴンはアリシアの負担になることは決してしない。
 アリシアも去年の経験から移動に思った以上の体力が奪われると学んだ。毎晩抱かれていては途中で体調を崩して迷惑を掛けることになるだろう。

 それはわかっている。
 わかっているけど抑えきれない焦りがあった。
 
「風景が変わったね」

 レイヴンに言われてアリシアは窓の外へ視線を向けた。
 いつの間にか馬車は王都の街を抜け、街道に出たようだ。ここからは田舎道が続く。
 アリシアは街を通り過ぎたことにも気がついていなかった。

「本当に……。ここからしばらくは行商人ばかりなのでしょうね」

 きっとレイヴンはアリシアが心非ずなのに気がついている。
 だけど気づかないふりをしてくれるから、アリシアも何もないような振りをする。
 心配を掛けないように、楽しんでいるふりをしなくては。

 アリシアは窓の外へ視線を向けたまま、はしゃいだ声を出した。

「見て下さいませ。美しい鳥が飛んでいますわ」
「まあ、驢馬が。あの辺りには民家があるのでしょうか」
「あれは行商人の馬車ですわね。随分派手ですこと」

「本当だ。王都では見ない鳥だね」
「この近くに集落はないはずだけど……。どこから来たのかな」
「随分煌びやかな馬車だね。人目を引くから覚えてもらいやすいんだろうけど、道中危険はないのかな」 

 レイヴンはアリシアに合わせて楽しそうに応えてくれる。
 アリシアが途中で疲れて眠ってしまうまでレイヴンは話を合わせ続けてくれた。



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