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第2部 5章
75 歓迎①
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「アリシア、もうすぐ宿に着くよ」
軽く肩を揺すられたアリシアは目を覚ました。
馬車の中はランプの黄色い灯りに照らされている。
窓を開けてみればすっかり陽が落ちて暗くなっていた。冷たい風が吹き込み、思わず肩を竦める。
「あとどれくらいでしょうか」
「そうだね。半時(約15分)くらいじゃないかな」
折角王都を出て来たのに、ほとんどの時間を寝て過ごしてしまった。休憩で立ち寄る町に近づくと今と同じ様にレイヴンが起こしてくれる。
町で人々と交流するのも公務のひとつだ。寝起きの顔で人前に立つことはアリシアの矜持が許さない。
それを理解しているレイヴンが少しの余裕をもって起こしてくれるのだ。
宿に着けば領主一族と交流しなければならない。
それが視察を憂鬱に感じる一因でもあった。
アリシアも貴族との交流が重要な公務であることはわかっている。
だけど出迎える貴族たちの思惑を知ってしまった。今年もレイヴンに近づきたい令嬢たちから冷たい目を向けられるのかと思えば気が重かった。
だけどアリシアの不安は杞憂に終わった。
宿で迎えてくれた領主の娘たちは、レイヴンとアリシアへきらきらした目を向けている。それに領主夫妻から向けられる笑顔も暖かい。
「ようこそおいでくださいました。殿下、妃殿下」
「出迎え感謝する。今日は宜しく頼むよ」
彼らの暖かい歓迎をレイヴンも感じ取ったようだ。
王太子としての顔を崩すことはないものの、去年とは違って親しみのある声で挨拶を返している。
「お久しぶりですね、ヴァルシャ伯爵、伯爵夫人。お会いできて嬉しいわ」
「こちらこそ、お2人をお招きすることができて光栄でございます」
アリシアはヴァルシャ伯爵夫妻を良く知っていた。
伯爵はどちらかというと領地に滞在していることが多い人物だが、何代も続けてルトビア公爵家の派閥に属している。その為、アダムの誕生日などに開かれる親しい者たちを集めた舞踏会に毎回出席しているのだ。アリシアも嫁ぐまでは公爵邸で何度も顔を合わせていた。
「シェリー嬢とお会いするのも久しぶりね。随分と美しくなられたこと」
「そんな……。お褒めいただき、ありがとうございます」
ヴァルシャ伯爵には3人の娘がいる。
長女であり惣領姫のシェリーは14歳。既に社交界デビューをしており、王宮でのお茶会や舞踏会にも早い時間帯だけ出席している。デビュタント前の2人の妹とは初対面だ。
「カレンと申します。ようこそおいで下さいました」
「マライアと申します。お会いできて嬉しいです」
カレンは12歳、マライアは10歳だという。
2人揃って可愛らしくカテーシーをしている。
「カレン嬢、マライア嬢、挨拶をありがとう」
「お2人の歓迎をありがたく思いますわ」
レイヴンとアリシアが言葉を掛けると2人は嬉しそうに顔を輝かせる。
またきらきらした目で見つめられて、アリシアは小首を傾げた。その隣を見ると、2人程あからさまではないもののシェリーも嬉しそうにアリシアたちを見つめている。
レイヴンだけが歓迎されているならわかる。
側妃になるにはカレンやマライアでは幼すぎるけれど、幼いからこそ王子様に憧れるものだ。レイヴンは幼い少女の期待を裏切らないだけの端正な顔立ちをしている。
だけど少女たちの憧憬の目はアリシアにも向けられていた。
なぜこんなに歓迎されているのかわからない。
アリシアはレイヴンとそっと顔を見合わせた。
軽く肩を揺すられたアリシアは目を覚ました。
馬車の中はランプの黄色い灯りに照らされている。
窓を開けてみればすっかり陽が落ちて暗くなっていた。冷たい風が吹き込み、思わず肩を竦める。
「あとどれくらいでしょうか」
「そうだね。半時(約15分)くらいじゃないかな」
折角王都を出て来たのに、ほとんどの時間を寝て過ごしてしまった。休憩で立ち寄る町に近づくと今と同じ様にレイヴンが起こしてくれる。
町で人々と交流するのも公務のひとつだ。寝起きの顔で人前に立つことはアリシアの矜持が許さない。
それを理解しているレイヴンが少しの余裕をもって起こしてくれるのだ。
宿に着けば領主一族と交流しなければならない。
それが視察を憂鬱に感じる一因でもあった。
アリシアも貴族との交流が重要な公務であることはわかっている。
だけど出迎える貴族たちの思惑を知ってしまった。今年もレイヴンに近づきたい令嬢たちから冷たい目を向けられるのかと思えば気が重かった。
だけどアリシアの不安は杞憂に終わった。
宿で迎えてくれた領主の娘たちは、レイヴンとアリシアへきらきらした目を向けている。それに領主夫妻から向けられる笑顔も暖かい。
「ようこそおいでくださいました。殿下、妃殿下」
「出迎え感謝する。今日は宜しく頼むよ」
彼らの暖かい歓迎をレイヴンも感じ取ったようだ。
王太子としての顔を崩すことはないものの、去年とは違って親しみのある声で挨拶を返している。
「お久しぶりですね、ヴァルシャ伯爵、伯爵夫人。お会いできて嬉しいわ」
「こちらこそ、お2人をお招きすることができて光栄でございます」
アリシアはヴァルシャ伯爵夫妻を良く知っていた。
伯爵はどちらかというと領地に滞在していることが多い人物だが、何代も続けてルトビア公爵家の派閥に属している。その為、アダムの誕生日などに開かれる親しい者たちを集めた舞踏会に毎回出席しているのだ。アリシアも嫁ぐまでは公爵邸で何度も顔を合わせていた。
「シェリー嬢とお会いするのも久しぶりね。随分と美しくなられたこと」
「そんな……。お褒めいただき、ありがとうございます」
ヴァルシャ伯爵には3人の娘がいる。
長女であり惣領姫のシェリーは14歳。既に社交界デビューをしており、王宮でのお茶会や舞踏会にも早い時間帯だけ出席している。デビュタント前の2人の妹とは初対面だ。
「カレンと申します。ようこそおいで下さいました」
「マライアと申します。お会いできて嬉しいです」
カレンは12歳、マライアは10歳だという。
2人揃って可愛らしくカテーシーをしている。
「カレン嬢、マライア嬢、挨拶をありがとう」
「お2人の歓迎をありがたく思いますわ」
レイヴンとアリシアが言葉を掛けると2人は嬉しそうに顔を輝かせる。
またきらきらした目で見つめられて、アリシアは小首を傾げた。その隣を見ると、2人程あからさまではないもののシェリーも嬉しそうにアリシアたちを見つめている。
レイヴンだけが歓迎されているならわかる。
側妃になるにはカレンやマライアでは幼すぎるけれど、幼いからこそ王子様に憧れるものだ。レイヴンは幼い少女の期待を裏切らないだけの端正な顔立ちをしている。
だけど少女たちの憧憬の目はアリシアにも向けられていた。
なぜこんなに歓迎されているのかわからない。
アリシアはレイヴンとそっと顔を見合わせた。
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