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番外編
アリシアの誕生日 8
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当日が近づいてくると王太子宮の中が華やかになり、勤めている侍女たちもなんとなく浮足立って見えた。
勿論アリシアやレイヴンの前ではそんな素振りを見せずにきちんと仕事をしているけれど、使用人同士でおしゃべりをして笑い合う声が良く聞こえてくるのだ。
目についた時はエレノアが注意しているが、そのエレノアもいつもより楽しそうに見える。
「随分楽しそうね……?」
声を掛けてみれば、エレノアは恥ずかしそうに目を伏せた。
「申し訳ありません。初めて妃殿下のお誕生日をお祝いするので少々浮かれてしまいました」
使用人たちはこれまでアリシアの誕生日を祝う場がないことをずっと気にしていたのだ。
沢山の貴族たちから贈り物は届けられていたけれど、直接祝いを言いに来るのはレオナルドだけで、夫であるはずのレイヴンすら訪れない。
せめて話し相手になろうといつもより傍近くに控えていたけれど、結局アリシアは愚痴も弱音も世間話さえ口にすることなく、普段通りの1日を過ごしていた。
「そう……。気にしてくれていたの。ありがとう」
「とんでもございません。差し出がましいことを致しました」
エレノアは恐縮しているが、アリシアは温かい気持ちになった。
1人きりで過ごす誕生日に何かを感じたことはなかったけれど、周りは随分と気にしてくれていたのだ。
そう思えばマルグリットからも毎年誕生日をどう過ごすのか確認されていた。
王妃を含む国王の妃たちは自分の誕生日にそれぞれ舞踏会を開く。その規模の大きさや訪れる顔ぶれで自身の威勢を示し支持勢力の確認をしているので、アリシアはなぜ舞踏会を開かないのか訝しがられているのだと思っていた。
だけど本当はただ案じてくれていたのかもしれない。
アリシアが「いつも通り過ごしますわ」と答えた時に見せていたあの表情は安堵だったのだろう。
公爵家が子どもたちの誕生日にパーティーを開かないのは有名なので、それまでと同じように家族と……、レイヴンと過ごすと思ったのだ。
「エレノア、今度一緒にお茶を飲みましょうか」
「えっ?ええっ?!」
謹直なエレノアらしくない狼狽えた声を出す。
普通は女主人が使用人と一緒にお茶を飲んだりしない。それをするのは心から信頼している相手だけだ。
公爵邸では時々マリアンとお茶を飲んでいた。
「ドナとジーナも一緒にね」
「妃殿下!ありがとうございますっ!」
「ありがとうございますっ!」
背後からうわずった声がする。
ドナとジーナは深く頭を下げているのだろう。
「何?楽しそうな話?」
向かいの部屋にいたはずのレイヴンが扉を開けて顔をのぞかせる。
アリシアたちの笑い声が廊下まで聞こえていたので我慢できずに扉を開けてしまったようだ。
「殿下!勝手に開けないで下さいませ!」とエレノアに怒られたレイヴンが肩を竦ませながら入ってくる。誕生日はリトマインの部屋で過ごすので飾りつけの指揮を取っていたのだ。
「何の話をしていたの?教えてよ」
「いいえ、内緒ですわ」
ふふっと笑って告げればレイヴンは「なんで?!」と驚いた顔をする。
その唇にそっと人差し指で触れると、レイヴンと目が合った。自然と唇が近づいてくる。
「教えてくれないの?」
「ええ、駄目です」
何度も軽く口づけながら囁き合う。
今年は楽しい誕生日になりそうだ。
勿論アリシアやレイヴンの前ではそんな素振りを見せずにきちんと仕事をしているけれど、使用人同士でおしゃべりをして笑い合う声が良く聞こえてくるのだ。
目についた時はエレノアが注意しているが、そのエレノアもいつもより楽しそうに見える。
「随分楽しそうね……?」
声を掛けてみれば、エレノアは恥ずかしそうに目を伏せた。
「申し訳ありません。初めて妃殿下のお誕生日をお祝いするので少々浮かれてしまいました」
使用人たちはこれまでアリシアの誕生日を祝う場がないことをずっと気にしていたのだ。
沢山の貴族たちから贈り物は届けられていたけれど、直接祝いを言いに来るのはレオナルドだけで、夫であるはずのレイヴンすら訪れない。
せめて話し相手になろうといつもより傍近くに控えていたけれど、結局アリシアは愚痴も弱音も世間話さえ口にすることなく、普段通りの1日を過ごしていた。
「そう……。気にしてくれていたの。ありがとう」
「とんでもございません。差し出がましいことを致しました」
エレノアは恐縮しているが、アリシアは温かい気持ちになった。
1人きりで過ごす誕生日に何かを感じたことはなかったけれど、周りは随分と気にしてくれていたのだ。
そう思えばマルグリットからも毎年誕生日をどう過ごすのか確認されていた。
王妃を含む国王の妃たちは自分の誕生日にそれぞれ舞踏会を開く。その規模の大きさや訪れる顔ぶれで自身の威勢を示し支持勢力の確認をしているので、アリシアはなぜ舞踏会を開かないのか訝しがられているのだと思っていた。
だけど本当はただ案じてくれていたのかもしれない。
アリシアが「いつも通り過ごしますわ」と答えた時に見せていたあの表情は安堵だったのだろう。
公爵家が子どもたちの誕生日にパーティーを開かないのは有名なので、それまでと同じように家族と……、レイヴンと過ごすと思ったのだ。
「エレノア、今度一緒にお茶を飲みましょうか」
「えっ?ええっ?!」
謹直なエレノアらしくない狼狽えた声を出す。
普通は女主人が使用人と一緒にお茶を飲んだりしない。それをするのは心から信頼している相手だけだ。
公爵邸では時々マリアンとお茶を飲んでいた。
「ドナとジーナも一緒にね」
「妃殿下!ありがとうございますっ!」
「ありがとうございますっ!」
背後からうわずった声がする。
ドナとジーナは深く頭を下げているのだろう。
「何?楽しそうな話?」
向かいの部屋にいたはずのレイヴンが扉を開けて顔をのぞかせる。
アリシアたちの笑い声が廊下まで聞こえていたので我慢できずに扉を開けてしまったようだ。
「殿下!勝手に開けないで下さいませ!」とエレノアに怒られたレイヴンが肩を竦ませながら入ってくる。誕生日はリトマインの部屋で過ごすので飾りつけの指揮を取っていたのだ。
「何の話をしていたの?教えてよ」
「いいえ、内緒ですわ」
ふふっと笑って告げればレイヴンは「なんで?!」と驚いた顔をする。
その唇にそっと人差し指で触れると、レイヴンと目が合った。自然と唇が近づいてくる。
「教えてくれないの?」
「ええ、駄目です」
何度も軽く口づけながら囁き合う。
今年は楽しい誕生日になりそうだ。
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