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第2部 5章
77 王領 ティナム①
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王都を出てから3日後、ティナムの領内へ入った。
馬車が進む内に風景が変わり、波の音や潮の香りがする。
これにはアリシアも堪らず窓を開け、冷たい風を感じながらも外の景色を見つめる。視界の先に海が見えた時、アリシアは思わず声を上げていた。
「レイヴン様、海ですわ!」
「……綺麗だ」
「本当に、なんと美しいのでしょう」
既に夕方である。
夕日が落ちていく海は赤く神秘的な光を放っている。
その手前を小さな船影が走るのも幻想的な光景を作り上げるのに一役買っていた。
しばらく無言でその景色に見入る。
陽が落ちていくのは早く、あっという間に暗くなっていた。
「……アリシア、寒くない?」
窓を閉めたアリシアが振り向くと、レイヴンが心配そうにこちらを窺っていた。アリシアは自然とその腕の中へ体を沈める。レイヴンが抱き締めてくれると、触れたところが熱く感じられた。どうやら自覚していなかっただけで随分と冷えていたようだ。
アリシアはレイヴンの胸に頬を押し付けると、背中に腕をまわしてぎゅっと抱き着いた。
美しい光景をレイヴンと2人で見ることができた。
気乗りしない視察だったけれど、来て良かったと思えたことが嬉しい。
王城に着いてからのことを思えば気が重くなる。
メトワの使用人たちは、アリシアを正妃ではなく妾のように思っていた。それもレイヴンに愛されていないのに公爵家の権力を振りかざして無理矢理ついて来た、鼻持ちならない妃だと。
アリシアにはまだ子どもがいないので、ティナムの使用人たちも同じ様に思っているのだろう。
それに役人の家族を招いた晩餐会もある。これまで通って来た領地の令嬢たちはおかしな憧れを持っていたのでレイヴンに近づこうとしなかったけれど、流石にここでは無理だろう。
思い返してみるとメトワの王城ではあまり良い思い出がないのだ。
それから二刻(約1時間)程走っただろうか。馬車が王城の門をくぐった。
レイヴンに手を取られて馬車を降りる。玄関ホールに入ると立ち並んだ使用人たちが一斉に頭を下げた。
「殿下、妃殿下。お待ちしておりました」
「うん。短い間だけどよろしく頼む」
軽い会話を交わした後、レイヴンが全員頭を上げるように告げる。
その後執事のマリウスと侍女頭のキーラ、メイド長のティナを紹介された。
「妃殿下、宜しくお願い致します」
3人が恭しく頭を下げる。
その姿にメトワで感じたような違和感はなかった。
これだけだと本当に歓迎されているようである。
「っ!あなたは……っ!」
警戒しながらも顔を上げるよう命じたアリシアは、正面に立つマリウスに驚いて声を上げた。
レイヴンが楽しそうに笑う。
「マリウスだよ。メトワで執事をしているトーマスと兄弟なんだ」
「兄弟……?」
「はい。以前は弟が無礼を働き、申し訳ございませんでした」
そう言って申し訳なさそうに頭を下げるマリウスは、一見トーマス本人だと思うほど良く似ていた。
だけどアリシアへ向けられる眼差しや表情に、アリシアを蔑むところは少しもない。
どうやらここの人たちも去年とは違っているようだ。
馬車が進む内に風景が変わり、波の音や潮の香りがする。
これにはアリシアも堪らず窓を開け、冷たい風を感じながらも外の景色を見つめる。視界の先に海が見えた時、アリシアは思わず声を上げていた。
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「……綺麗だ」
「本当に、なんと美しいのでしょう」
既に夕方である。
夕日が落ちていく海は赤く神秘的な光を放っている。
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しばらく無言でその景色に見入る。
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「……アリシア、寒くない?」
窓を閉めたアリシアが振り向くと、レイヴンが心配そうにこちらを窺っていた。アリシアは自然とその腕の中へ体を沈める。レイヴンが抱き締めてくれると、触れたところが熱く感じられた。どうやら自覚していなかっただけで随分と冷えていたようだ。
アリシアはレイヴンの胸に頬を押し付けると、背中に腕をまわしてぎゅっと抱き着いた。
美しい光景をレイヴンと2人で見ることができた。
気乗りしない視察だったけれど、来て良かったと思えたことが嬉しい。
王城に着いてからのことを思えば気が重くなる。
メトワの使用人たちは、アリシアを正妃ではなく妾のように思っていた。それもレイヴンに愛されていないのに公爵家の権力を振りかざして無理矢理ついて来た、鼻持ちならない妃だと。
アリシアにはまだ子どもがいないので、ティナムの使用人たちも同じ様に思っているのだろう。
それに役人の家族を招いた晩餐会もある。これまで通って来た領地の令嬢たちはおかしな憧れを持っていたのでレイヴンに近づこうとしなかったけれど、流石にここでは無理だろう。
思い返してみるとメトワの王城ではあまり良い思い出がないのだ。
それから二刻(約1時間)程走っただろうか。馬車が王城の門をくぐった。
レイヴンに手を取られて馬車を降りる。玄関ホールに入ると立ち並んだ使用人たちが一斉に頭を下げた。
「殿下、妃殿下。お待ちしておりました」
「うん。短い間だけどよろしく頼む」
軽い会話を交わした後、レイヴンが全員頭を上げるように告げる。
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「妃殿下、宜しくお願い致します」
3人が恭しく頭を下げる。
その姿にメトワで感じたような違和感はなかった。
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「っ!あなたは……っ!」
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レイヴンが楽しそうに笑う。
「マリウスだよ。メトワで執事をしているトーマスと兄弟なんだ」
「兄弟……?」
「はい。以前は弟が無礼を働き、申し訳ございませんでした」
そう言って申し訳なさそうに頭を下げるマリウスは、一見トーマス本人だと思うほど良く似ていた。
だけどアリシアへ向けられる眼差しや表情に、アリシアを蔑むところは少しもない。
どうやらここの人たちも去年とは違っているようだ。
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