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第2部 5章
78 王領 ティナム②
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ディナムに着いてから一夜明けた。
アリシアは昨日から驚くほど快適な時間を過ごしている。
レイヴンはここでもアリシアが女主人だと皆の前で伝えてくれた。それとは別に予め何か通告してくれていたのかと思ったけれど、そんなことはないようだ。そもそもレイヴンが何も言わなくとも、正妃が女主人として扱われるのは当然のことなのだ。
ただ今年の訪問先にティナムが選ばれたのは偶然ではないだろう。
王領で働く者同士のやり取りがない訳ではなく、それが兄弟であれば尚更だ。トーマスが己の失態を進んで教えようとするとは思えないが、マリウスも同じ失敗をしない為に伝えたのかもしれない。そして執事が戒めれば大抵の使用人はそれに従う。
ともあれ、使用人たちに無礼な振る舞いはなく、値踏みするような視線を感じることも一切なかった。
「ありがとうございます」
アリシアが例を言うと、レイヴンは「何のこと?」ととぼけていたけれど、これがレイヴンの思い遣りであることは間違いない。
そして今日。
レイヴンは前回と同様に庁舎へ出掛けて行く。一番の目的である帳簿の付け合わせをする為だ。
これから2日、アリシアは1人で過ごすことになる。
「妃殿下、城内を案内する者を付けましょうか」
レイヴンを見送った後、マリウスがアリシアへ声を掛けた。
今夜は役人の家族を招いた晩餐会があるので町に出ることはできない。旅の疲れが残っているのもあってアリシアも外出するつもりはなかった。
「え、ええ。そうね……」
去年はこの日、メトワの王城を見て歩いた。
それを躊躇うのは肖像の間で見た絵を思い出したからだ。
歴代の国王一家を描いた肖像画である。
あの時感じた、言いようのない場違い感。
人の声が遠くなり、この世に1人きりになったような焦燥感に襲われた。
楽しそうに笑い合う子どもたちの絵を見ているはずなのに泣きたくなったのは何故なのか。
その理由をもう理解している。
「……私、図書室へ行きたいのだけど、図書室へ案内していただけるかしら?」
肖像の間には行きたくない。
だけど肖像の間だけを避ければおかしく思われる。
だから王城の見学自体を止めることにした。
「それは構いませんけれど、お望みの本があればお部屋へお届け致しますが」
「それは結構よ。どんな本が置かれているのか見るのも楽しいわ」
「これは差し出がましいことを申しました」
頭を下げるマリウスに手を振って顔を上げさせる。
その後侍女を1人紹介されたアリシアは図書室へ向かった。
ティナムの城も作りはメトワと同じだった。
中央の建物が王族が使うプライベートな部屋になっており、向かって右側の建物が客室になっている。図書室は左側の建物だ。ここでも1階の本は使用人が読んでも良いことになっているという。
アリシアは中へ入るとこちらへ頭を下げる使用人たちに、普段通り過ごすよう伝えた。
エレノアたちにも許可を与え、自由に本を選ぶように伝える。
初めは拒否していたエレノアたちも、じっくり本を読みたいというアリシアに配慮して離れていった。
アリシアは昨日から驚くほど快適な時間を過ごしている。
レイヴンはここでもアリシアが女主人だと皆の前で伝えてくれた。それとは別に予め何か通告してくれていたのかと思ったけれど、そんなことはないようだ。そもそもレイヴンが何も言わなくとも、正妃が女主人として扱われるのは当然のことなのだ。
ただ今年の訪問先にティナムが選ばれたのは偶然ではないだろう。
王領で働く者同士のやり取りがない訳ではなく、それが兄弟であれば尚更だ。トーマスが己の失態を進んで教えようとするとは思えないが、マリウスも同じ失敗をしない為に伝えたのかもしれない。そして執事が戒めれば大抵の使用人はそれに従う。
ともあれ、使用人たちに無礼な振る舞いはなく、値踏みするような視線を感じることも一切なかった。
「ありがとうございます」
アリシアが例を言うと、レイヴンは「何のこと?」ととぼけていたけれど、これがレイヴンの思い遣りであることは間違いない。
そして今日。
レイヴンは前回と同様に庁舎へ出掛けて行く。一番の目的である帳簿の付け合わせをする為だ。
これから2日、アリシアは1人で過ごすことになる。
「妃殿下、城内を案内する者を付けましょうか」
レイヴンを見送った後、マリウスがアリシアへ声を掛けた。
今夜は役人の家族を招いた晩餐会があるので町に出ることはできない。旅の疲れが残っているのもあってアリシアも外出するつもりはなかった。
「え、ええ。そうね……」
去年はこの日、メトワの王城を見て歩いた。
それを躊躇うのは肖像の間で見た絵を思い出したからだ。
歴代の国王一家を描いた肖像画である。
あの時感じた、言いようのない場違い感。
人の声が遠くなり、この世に1人きりになったような焦燥感に襲われた。
楽しそうに笑い合う子どもたちの絵を見ているはずなのに泣きたくなったのは何故なのか。
その理由をもう理解している。
「……私、図書室へ行きたいのだけど、図書室へ案内していただけるかしら?」
肖像の間には行きたくない。
だけど肖像の間だけを避ければおかしく思われる。
だから王城の見学自体を止めることにした。
「それは構いませんけれど、お望みの本があればお部屋へお届け致しますが」
「それは結構よ。どんな本が置かれているのか見るのも楽しいわ」
「これは差し出がましいことを申しました」
頭を下げるマリウスに手を振って顔を上げさせる。
その後侍女を1人紹介されたアリシアは図書室へ向かった。
ティナムの城も作りはメトワと同じだった。
中央の建物が王族が使うプライベートな部屋になっており、向かって右側の建物が客室になっている。図書室は左側の建物だ。ここでも1階の本は使用人が読んでも良いことになっているという。
アリシアは中へ入るとこちらへ頭を下げる使用人たちに、普段通り過ごすよう伝えた。
エレノアたちにも許可を与え、自由に本を選ぶように伝える。
初めは拒否していたエレノアたちも、じっくり本を読みたいというアリシアに配慮して離れていった。
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