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第2部 5章
80 ティナムの伝承②
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憂鬱な気持ちで晩餐会の席に着いたアリシアだったが、意外なことにここでも友好的に迎えられた。
勿論レイヴンへ意味ありげな視線を向けてくる夫人や令嬢が全くいないわけではなかったが、そんな者たちは極少数で大半の者は礼儀正しく接してくれる。
去年とはあまりにも違いすぎる彼らの様子にレイヴンを窺えば、レイヴンも訝しむような顔で首を傾げていた。
その理由は応接間に移るとなんとなくわかってきた。
レイヴンはアリシアと手を繋いだまま二人掛けのソファに座る。
そこへレイヴンと話したい女性が集まるのは去年と同じだけれど、彼女たちは互いに顔を見合わせながらモジモジとこちらを窺っていた。やがて1人の少女が意を決したように口を開く。
「殿下が側妃を迎えないというのは本当ですかっ?」
招待客には平民も含まれているのでよっぼどでない限り無礼講になっている。
それにしても直接的な言葉だが、貴族の様な遠回しな言い方は知らないのだろう。少女にも悪意的なところはなく、顔を真っ赤にして肩で息をしている。勇気を振り絞って話し掛けたに違いない。
だからレイヴンも柔らかく笑って言葉を返す。
「ここまで噂が届いてるんだね。本当だよ。僕は側妃を迎えない」
「そっ!それは何故ですの?!」
今度は派手なドレスの女性が悲鳴じみた声を上げる。
晩餐の席でレイヴンに秋波を送っていた女性だ。この女性は噂を知らないらしい。
「アリシアを愛しているからだよ。アリシアを愛しているから、他の女性は必要ないんだ」
レイヴンは見せつけるように繋いだ手をあげ、アリシアの手の甲に口づけを落とす。
数人の女性が「そんなぁ…」と天を仰いで肩を落とした。
応接間での会話は去年と違って1人ずつではなく、大勢を相手にした質疑応答になった。
側妃や愛妾を狙っていた女性たちも、レイヴンがティナムを離れれば直接顔を合わせることはない。この晩餐会が唯一絶対の機会で、ここで選ばれなければおしまいである。
選ばれる望みはないと悟った女性たちは大人しく2人を囲む輪に加わった。
少女たちからの質問はアリシアにもあった。分かり易い言葉を選んで丁寧に応えていく。
そうしながらも、渋い顔でレイヴンを見つめる大人たちの視線に気がついていた。
彼らの考えていることは手に取るようにわかる。
なぜなら一番考えているのはアリシアだからだ。
レイヴンはアリシアを愛しているから側妃を迎えないと言った。
だけどいつまでもそんなことが認められるはずがない。
側妃を拒否するレイヴンへの批判や側妃を迎えるよう進言しないアリシアへの非難は日に日に大きくなっている。あと1年、いや半年でも視察が遅ければここの女性にもチャンスはあったかもしれない。
だから子が欲しいのだ。
レイヴンは決して自分から側妃を娶ろうとはしないだろう。あの夢を見てからレイヴンの拒否反応は酷くなった。
このままではアリシアが側妃を選ぶことになる。
いつまで選定を引き延ばせるだろうか。
何かを感じたのか、レイヴンがアリシアへ視線を向けた。
アリシアはにこっと笑ってすべてを誤魔化す。
本当はレイヴンに女性を薦めたくなんかない。
だけどそうしたらアリシアは、後継をもたらすという一番重要な責務を放棄することになる。
それはアリシアが目指した完璧な王太子妃の姿ではなかった。
勿論レイヴンへ意味ありげな視線を向けてくる夫人や令嬢が全くいないわけではなかったが、そんな者たちは極少数で大半の者は礼儀正しく接してくれる。
去年とはあまりにも違いすぎる彼らの様子にレイヴンを窺えば、レイヴンも訝しむような顔で首を傾げていた。
その理由は応接間に移るとなんとなくわかってきた。
レイヴンはアリシアと手を繋いだまま二人掛けのソファに座る。
そこへレイヴンと話したい女性が集まるのは去年と同じだけれど、彼女たちは互いに顔を見合わせながらモジモジとこちらを窺っていた。やがて1人の少女が意を決したように口を開く。
「殿下が側妃を迎えないというのは本当ですかっ?」
招待客には平民も含まれているのでよっぼどでない限り無礼講になっている。
それにしても直接的な言葉だが、貴族の様な遠回しな言い方は知らないのだろう。少女にも悪意的なところはなく、顔を真っ赤にして肩で息をしている。勇気を振り絞って話し掛けたに違いない。
だからレイヴンも柔らかく笑って言葉を返す。
「ここまで噂が届いてるんだね。本当だよ。僕は側妃を迎えない」
「そっ!それは何故ですの?!」
今度は派手なドレスの女性が悲鳴じみた声を上げる。
晩餐の席でレイヴンに秋波を送っていた女性だ。この女性は噂を知らないらしい。
「アリシアを愛しているからだよ。アリシアを愛しているから、他の女性は必要ないんだ」
レイヴンは見せつけるように繋いだ手をあげ、アリシアの手の甲に口づけを落とす。
数人の女性が「そんなぁ…」と天を仰いで肩を落とした。
応接間での会話は去年と違って1人ずつではなく、大勢を相手にした質疑応答になった。
側妃や愛妾を狙っていた女性たちも、レイヴンがティナムを離れれば直接顔を合わせることはない。この晩餐会が唯一絶対の機会で、ここで選ばれなければおしまいである。
選ばれる望みはないと悟った女性たちは大人しく2人を囲む輪に加わった。
少女たちからの質問はアリシアにもあった。分かり易い言葉を選んで丁寧に応えていく。
そうしながらも、渋い顔でレイヴンを見つめる大人たちの視線に気がついていた。
彼らの考えていることは手に取るようにわかる。
なぜなら一番考えているのはアリシアだからだ。
レイヴンはアリシアを愛しているから側妃を迎えないと言った。
だけどいつまでもそんなことが認められるはずがない。
側妃を拒否するレイヴンへの批判や側妃を迎えるよう進言しないアリシアへの非難は日に日に大きくなっている。あと1年、いや半年でも視察が遅ければここの女性にもチャンスはあったかもしれない。
だから子が欲しいのだ。
レイヴンは決して自分から側妃を娶ろうとはしないだろう。あの夢を見てからレイヴンの拒否反応は酷くなった。
このままではアリシアが側妃を選ぶことになる。
いつまで選定を引き延ばせるだろうか。
何かを感じたのか、レイヴンがアリシアへ視線を向けた。
アリシアはにこっと笑ってすべてを誤魔化す。
本当はレイヴンに女性を薦めたくなんかない。
だけどそうしたらアリシアは、後継をもたらすという一番重要な責務を放棄することになる。
それはアリシアが目指した完璧な王太子妃の姿ではなかった。
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