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第2部 5章
85 アリシアからの要請
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ティナムから戻ってからアリシアは連日図書室に通い詰めていた。
執務の為に調べ物をすることもある。「じっくり1人で調べ物をしたい」と言えば、護衛の騎士たちを入口に残してエレノアたちは退室してくれた。
アリシアが調べているのは懐妊しやすくなる方法である。
ティナムの図書室には希望の持てる伝承の本が収められていた。だけど本来伝承とは迷信や気休めの為のもの。
もっと直接的で役に立つ知識があるかもしれないと思ったのだ。
だけど望んだものは中々見つからない。迷信めいたおまじないの類もひとつも見つけられなかった。
10日程経った頃、アリシアは諦めて手元の本を閉じた。
考えてみればそれは当然のことだ。
もし懐妊しやすくなる方法が書かれた本があったとして、それを自分以外の妃が読めばどうなってしまうのか。
見つけた者が過去にいたとしても、そんな危険な本を図書室に置いておくはずがない。
そんなことにも気づかないなんて、余程焦っているのね。
アリシアは心の中で自嘲する。
自分らしくない愚かなことをしていると思う。
だけど焦る気持ちは日に日に強くなり、どうしようもなくなっていた。
アリシアは持っていた本を元の所へ返すと本棚の間をゆっくりと歩く。
その後いくつかの本を手に取り内容を確認したアリシアは、そこに書かれていたことを一心に書き写した。
「エレノア。お願いしたいことがあるのだけど良いかしら?」
アリシアに呼びかけられたエレノアは振り返って驚いた。
いつも感情を見せないアリシアが一目見てわかる程思い詰めた表情をしている。
図書室から戻った後は変わらず執務をしていたはずで、そんな思い詰めるようなことが起こったとは思えなかった。
だけど気がつけば部屋にいるのはアリシアとエレノアだけだ。
アリシアが他の侍女たちに上手く用事を言いつけて人払いをしたのだろう。他の人には知られたくない頼みということである。
一体何を頼まれるのか。不思議に思いながらも、エレノアは表情を変えることなくいつも通りの返事を返した。
「はい。何なりとお申し付け下さい」
「これを人目につかない様に料理長へ渡して欲しいの。今後私の食事にはそこに書かれた食材を必ず使うようにと伝えてちょうだい。調理法は料理長にお任せするわ」
受け取ったメモへさっと目を通したエレノアは首を傾げた。
特に高級なものでもない、ありふれた食材である。
王太子宮のメニューを決めているのはアリシアなので、食べたいメニューがあればそれを作るように命じれば良い。なぜこんなまわりくどいことをする必要があるのだろうか。
いいえ、妃殿下の望みは好きな料理を食べることではなく、この食材を使うことなのだわ。
今後アリシアの決めるメニューにこの食材を上手く入れ込むことが望みなのだ。
何の為に?
それはわからないが、エレノアの仕事はこのメモを届けることで詮索することではない。
エレノアは一礼すると部屋を出て厨房へ向かった。
とはいえ、直接厨房へ行くほどエレノアは愚かではない。
アリシアの望みは人目につかないようにこのメモを料理長へ渡すことなのだ。
エレノアは2人程人を介して料理長を呼び出すことにした。
「侍女殿、お呼びだと聞きましたが何の御用でしょう?」
やってきた料理長は不機嫌だった。夕方が近く、夕食の支度で忙しい時間帯なのだ。
それでもやって来たのは、人目を憚るように伝言を持ってきたメイドに興味を引かれたからだ。呼び出された場所も、今は住む人がいない王太子の側妃用の殿舎である。
「忙しい時間なのは承知しております。お邪魔をして申し訳ございません。ですが妃殿下からのご指示でございます。人目につかないように料理長へこのメモをお渡しするように、と。そして今後妃殿下の食事にはそこに書かれた食材を必ず使うように、とのお言葉でございます」
「ふーん、なるほどな」
メモに目を通した料理長は頷いた。
書かれているのは、滋養のつくものや体を温める作用のあるもの、体を内側から整えるようなそんな食材である。
料理長も昨今の風潮は知っている。アリシアは何とかして子を授かろうとしているのだろう。
料理長はぐしゃっとメモを握り潰すと、エレノアへ差し出した。
「お望みの食材は覚えたのでこれはもう必要ありません。お返しした方が妃殿下も安心されるでしょう。このことはわたしだけの胸に秘め、決して漏らしませんとお伝えください」
「ありがとうございます!必ずそうお伝え致します!!」
感激したように頭を下げ、急いで戻っていくエレノアの背中を料理長は切ない気持ちで見送った。
辺りを見渡すと閑散としていて人の姿はない。
あの食材で効果があれば良いけどな。
心の中でひとりごちる。
効果がなければここに誰かが住むことになるかもしれないのだ。
執務の為に調べ物をすることもある。「じっくり1人で調べ物をしたい」と言えば、護衛の騎士たちを入口に残してエレノアたちは退室してくれた。
アリシアが調べているのは懐妊しやすくなる方法である。
ティナムの図書室には希望の持てる伝承の本が収められていた。だけど本来伝承とは迷信や気休めの為のもの。
もっと直接的で役に立つ知識があるかもしれないと思ったのだ。
だけど望んだものは中々見つからない。迷信めいたおまじないの類もひとつも見つけられなかった。
10日程経った頃、アリシアは諦めて手元の本を閉じた。
考えてみればそれは当然のことだ。
もし懐妊しやすくなる方法が書かれた本があったとして、それを自分以外の妃が読めばどうなってしまうのか。
見つけた者が過去にいたとしても、そんな危険な本を図書室に置いておくはずがない。
そんなことにも気づかないなんて、余程焦っているのね。
アリシアは心の中で自嘲する。
自分らしくない愚かなことをしていると思う。
だけど焦る気持ちは日に日に強くなり、どうしようもなくなっていた。
アリシアは持っていた本を元の所へ返すと本棚の間をゆっくりと歩く。
その後いくつかの本を手に取り内容を確認したアリシアは、そこに書かれていたことを一心に書き写した。
「エレノア。お願いしたいことがあるのだけど良いかしら?」
アリシアに呼びかけられたエレノアは振り返って驚いた。
いつも感情を見せないアリシアが一目見てわかる程思い詰めた表情をしている。
図書室から戻った後は変わらず執務をしていたはずで、そんな思い詰めるようなことが起こったとは思えなかった。
だけど気がつけば部屋にいるのはアリシアとエレノアだけだ。
アリシアが他の侍女たちに上手く用事を言いつけて人払いをしたのだろう。他の人には知られたくない頼みということである。
一体何を頼まれるのか。不思議に思いながらも、エレノアは表情を変えることなくいつも通りの返事を返した。
「はい。何なりとお申し付け下さい」
「これを人目につかない様に料理長へ渡して欲しいの。今後私の食事にはそこに書かれた食材を必ず使うようにと伝えてちょうだい。調理法は料理長にお任せするわ」
受け取ったメモへさっと目を通したエレノアは首を傾げた。
特に高級なものでもない、ありふれた食材である。
王太子宮のメニューを決めているのはアリシアなので、食べたいメニューがあればそれを作るように命じれば良い。なぜこんなまわりくどいことをする必要があるのだろうか。
いいえ、妃殿下の望みは好きな料理を食べることではなく、この食材を使うことなのだわ。
今後アリシアの決めるメニューにこの食材を上手く入れ込むことが望みなのだ。
何の為に?
それはわからないが、エレノアの仕事はこのメモを届けることで詮索することではない。
エレノアは一礼すると部屋を出て厨房へ向かった。
とはいえ、直接厨房へ行くほどエレノアは愚かではない。
アリシアの望みは人目につかないようにこのメモを料理長へ渡すことなのだ。
エレノアは2人程人を介して料理長を呼び出すことにした。
「侍女殿、お呼びだと聞きましたが何の御用でしょう?」
やってきた料理長は不機嫌だった。夕方が近く、夕食の支度で忙しい時間帯なのだ。
それでもやって来たのは、人目を憚るように伝言を持ってきたメイドに興味を引かれたからだ。呼び出された場所も、今は住む人がいない王太子の側妃用の殿舎である。
「忙しい時間なのは承知しております。お邪魔をして申し訳ございません。ですが妃殿下からのご指示でございます。人目につかないように料理長へこのメモをお渡しするように、と。そして今後妃殿下の食事にはそこに書かれた食材を必ず使うように、とのお言葉でございます」
「ふーん、なるほどな」
メモに目を通した料理長は頷いた。
書かれているのは、滋養のつくものや体を温める作用のあるもの、体を内側から整えるようなそんな食材である。
料理長も昨今の風潮は知っている。アリシアは何とかして子を授かろうとしているのだろう。
料理長はぐしゃっとメモを握り潰すと、エレノアへ差し出した。
「お望みの食材は覚えたのでこれはもう必要ありません。お返しした方が妃殿下も安心されるでしょう。このことはわたしだけの胸に秘め、決して漏らしませんとお伝えください」
「ありがとうございます!必ずそうお伝え致します!!」
感激したように頭を下げ、急いで戻っていくエレノアの背中を料理長は切ない気持ちで見送った。
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