【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 5章

84 ナージャの大石②

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 ナージャは素朴な田舎町だった。
 浜辺から小舟を出し漁をして生活をする。近くの村や町へ売りに行けるだけの収穫があるのはほんの数人で、そのほとんどは今日家族が食べられるだけの魚を獲るだけだ。

 そんな町だからこそ海で亡くなる者も多いのだろうか。
 町の人に訊けば大石のことは皆知っているという。
 他の町から祈りに来る人もいるらしく、田舎町としては立派な規模のものだった。

「嵐が来たら一度に大勢が亡くなりますからね。嵐の直後に大石のことを思い出す人はあまりいませんが、亡くなった家族の弔いをして、住む場所をなんとか整えて……。人間やることがある時は気を張っているものですが、落ち着くと気が抜けてしまいますからね……。そんな時に大石のことを思い出すようです」

 町長の話をレイヴンは真剣な顔つきで聞いていた。
 皆家族を亡くした哀しみを少しでも癒す為に祈りに来るのだ。
 レイヴンのように愛する人と来世で巡り合いたいから、というような者はいない。アリシアもそんな人たちの話を聞けば、どうしても子が欲くて祈りに来た自分が恥ずかしく、それでも変わらない望みに居たたまれない気持ちになった。

 また、領内の防災と復興はレイヴンやアリシアの役目である。
 町長の話はその役目が果たされてないことを意味していた。王城に帰るとすぐに過去の災害を調べ、防災の状況を確認しなければならない。

「しかし殿下や妃殿下がこんな田舎町の伝承に興味を持たれるとは……。長く生きていれば人生何が起こるかわからないものですな」

 殿下や妃殿下に拝謁できる日が来るとは思いませんでしたよ、と人の良さそうな顔で笑う町長に見送られ、レイヴンとアリシアは後ろめたい気持ちのまま大石へ向かった。



「静かなところだね」

 大石は見晴らしの良い崖の上にあった。大石の向こうには凪いだ海が見える。
 隣の村へ向かう田舎道の途中にあり、人通りはほとんどない。
 誰が重ねたのか滑らかで大きな楕円形の石がふたつ重なっていて、その奇妙さもあって不思議な話が信じられるようになったのだろう。

 レイヴンとアリシアは誰もいない大石の前で一礼をした。
 伝承の大石に祈りを捧げる作法など知りはしない。だけど亡くなった人への思いを受け止め続ける大石に礼儀を尽くさなければと思ったのだ。

 2人は教会で祈る時と同じ作法で祈りを捧げた。
 レイヴンが願うのはアリシアとの再会である。他の人には告げることができなくても譲れない願いだった。

 その隣でアリシアも祈りを捧げた。
 前世の子どもたちに早く還って来て欲しい。

『お母様はここよ』
『ここにいるわ。お願い、早く還って来て』

 記憶にない子どもたちに心の中で何度も呼びかける。

――もし前世も子どもが1人もいなかったら?

 アリシアは湧き上がる不安を見ないふりして一心に祈りを捧げた。

 

 レイヴンは熱心に祈りを捧げるアリシアを見て、アリシアも再会を望んでくれているのだと嬉しく思う。
 その気持ちが消えない様に大切にしようと改めて心に誓った。


 その後は2人で道を少し歩いた。
 冬の海は寒いので海辺に降りることはしない。
 だけどアリシアと一緒に海を見ることができた。
 新しい大切な思い出ができたのだ。


 2日後、レイヴンとアリシアは王都へ向けてティナムを発った。
 それぞれに違う思いを抱いて、それでも充実した5日間だった。




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