581 / 697
第2部 6章
9 リカルドとの再会
しおりを挟む
リカルドといえば、王都に出てきてすぐに国王へ拝謁した後、王太子宮へも挨拶に訪れた。
普通王宮で仕官するとはいっても下級役人がわざわざ王太子宮まで挨拶に来ることはない。
だけどリカルドはアリシアの従兄である。その繋がりを考えれば王太子夫妻へ挨拶に来るのも不自然なことではなかった。
レイヴンとアリシアはリカルドからの面会を求める文に許可を出したが、通したのはレイヴンの部屋である。
ルーファスやロバートと違ってこちらから招いた客ではない。臣下からの申し入れによる面会なので、王太子の部屋が妥当なのだ。
リカルドとの面会はどうということもなかった。
アリシアを見て一瞬辛そうな顔を見せたけれど、すぐに穏やかな笑顔に戻る。
公の場では完璧な表情を作る術を身につけているリカルドが一瞬でも素顔を見せたのは、従兄弟として育ったレオナルドやアリシアと対立することになるのが辛いのかもしれない。
だけどその後はそんなことを感じさせるところは少しもなく、形式的な挨拶だけでその場を終えた。
それ以来リカルドと顔を合わせることはほとんどない。元々日常の生活でアリシアが官吏と言葉を交わすことはないのだ。
ただアリシアは、今も社交界に出る時のドレスをモルガン伯爵領の織物に頼っている。
以前は献上品という形でルーファスが届けてくれていたのだが、ルーファスはリカルドと入れ違いで領地へ帰ってしまったので、それからはリカルドが届けてくれるようになっていた。
アリシアとしては複雑である。
リカルドに織物を届けるよう言いつけているのはアシュリーだろう。ライアンの気持ちはわからないが、アシュリーは身内で争うのを止めたいと思っている。だから少しでも友好的に接点を持たせようとリカルドに持参させているのだ。
アリシアとしても兄のことを思えば交流を控えたいところだが、これまで友好的に過ごしてきた従兄だ。突然態度を変えて険悪な関係になるのは避けたかった。
レイヴンからはそっとしておくように言われている。
レオナルドとリカルドのどちらが宰相位に就くとしても、それはすぐに決まることではない。互いに功績を積み上げ、能力を磨いて競い合えば良いと言う。
レイヴンからは2人の争いに貴族たちの目を惹き付け、アリシアから非難の目を逸らそうという思惑が見て取れた。きっとレオナルドも同じ気持ちなのだろう。
それがわかっていながら、アリシアはわからないふりをしている。
他にも眼を逸らしていることはあった。
それはカナリーのことだ。カナリーが嫁いでから既に半年以上経っている。
もしカナリーが先に懐妊してしまったら。
その可能性を考えてアリシアはブルっと体を震わせた。
もしカナリーから懐妊の報告があれば笑って祝福できるだろうか。
――いいえ、とてもできそうには思えない。
もしアリシアがカナリーにしばらく跡継ぎを作らないよう懇願すれば、きっとカナリーは聞いてくれるだろう。
だけどあちらはあちらで侯爵家の跡取りが必要なのだ。カナリーに同じ思いをさせることはできない。
そう思いながらも、アリシアはカナリーが子を授からないよう努めていることに気がついていた。
気がついていても何も言わない。
カナリーが先に身籠ってしまったら、正気を保てる気がしないアリシアは、今も眼を逸らし続けている。
普通王宮で仕官するとはいっても下級役人がわざわざ王太子宮まで挨拶に来ることはない。
だけどリカルドはアリシアの従兄である。その繋がりを考えれば王太子夫妻へ挨拶に来るのも不自然なことではなかった。
レイヴンとアリシアはリカルドからの面会を求める文に許可を出したが、通したのはレイヴンの部屋である。
ルーファスやロバートと違ってこちらから招いた客ではない。臣下からの申し入れによる面会なので、王太子の部屋が妥当なのだ。
リカルドとの面会はどうということもなかった。
アリシアを見て一瞬辛そうな顔を見せたけれど、すぐに穏やかな笑顔に戻る。
公の場では完璧な表情を作る術を身につけているリカルドが一瞬でも素顔を見せたのは、従兄弟として育ったレオナルドやアリシアと対立することになるのが辛いのかもしれない。
だけどその後はそんなことを感じさせるところは少しもなく、形式的な挨拶だけでその場を終えた。
それ以来リカルドと顔を合わせることはほとんどない。元々日常の生活でアリシアが官吏と言葉を交わすことはないのだ。
ただアリシアは、今も社交界に出る時のドレスをモルガン伯爵領の織物に頼っている。
以前は献上品という形でルーファスが届けてくれていたのだが、ルーファスはリカルドと入れ違いで領地へ帰ってしまったので、それからはリカルドが届けてくれるようになっていた。
アリシアとしては複雑である。
リカルドに織物を届けるよう言いつけているのはアシュリーだろう。ライアンの気持ちはわからないが、アシュリーは身内で争うのを止めたいと思っている。だから少しでも友好的に接点を持たせようとリカルドに持参させているのだ。
アリシアとしても兄のことを思えば交流を控えたいところだが、これまで友好的に過ごしてきた従兄だ。突然態度を変えて険悪な関係になるのは避けたかった。
レイヴンからはそっとしておくように言われている。
レオナルドとリカルドのどちらが宰相位に就くとしても、それはすぐに決まることではない。互いに功績を積み上げ、能力を磨いて競い合えば良いと言う。
レイヴンからは2人の争いに貴族たちの目を惹き付け、アリシアから非難の目を逸らそうという思惑が見て取れた。きっとレオナルドも同じ気持ちなのだろう。
それがわかっていながら、アリシアはわからないふりをしている。
他にも眼を逸らしていることはあった。
それはカナリーのことだ。カナリーが嫁いでから既に半年以上経っている。
もしカナリーが先に懐妊してしまったら。
その可能性を考えてアリシアはブルっと体を震わせた。
もしカナリーから懐妊の報告があれば笑って祝福できるだろうか。
――いいえ、とてもできそうには思えない。
もしアリシアがカナリーにしばらく跡継ぎを作らないよう懇願すれば、きっとカナリーは聞いてくれるだろう。
だけどあちらはあちらで侯爵家の跡取りが必要なのだ。カナリーに同じ思いをさせることはできない。
そう思いながらも、アリシアはカナリーが子を授からないよう努めていることに気がついていた。
気がついていても何も言わない。
カナリーが先に身籠ってしまったら、正気を保てる気がしないアリシアは、今も眼を逸らし続けている。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,708
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる