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第2部 6章
8 サリエンの泉
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アリシアが行って欲しいと望んだサリエンの森は、何の変哲もないごく普通の森だ。だけど森の奥には小さな泉があった。
不思議な泉で夏も冬も水が温かく、森に棲む動物が集まってくる。特に繁殖期には腹に子を抱えた動物が多く集まり、冬には親子連れで泉に浸かっているという。
そのことから地元の住民には『子宝の泉』と呼ばれているのだ。
この泉は公爵領の中でも割と有名で、深い森でもなく道も作られているので近隣の町や村から子を望む夫婦が揃って訪れるという。
レオナルドはその泉の水を小さなガラス瓶に入れてきてくれた。
本当は水を浴びたり飲んだりした方が良いらしい。
だけど水浴びできる程の量を運べるはずがなく、王太子妃のアリシアが外部から持ち込まれたものを口にするわけにもいかない。泉のことは秘密なので誰かに毒見をさせるわけにもいかないのだ。
どうせ半分は気休めのもの。
持っているだけでもご利益はあるだろう。
「ありがとうございます、お兄様」
ガラス瓶を受け取ったアリシアは嬉しそうに笑って水に指先を浸けたりしている。
掬った時は温かかった水も、ここへ帰り着くまでの間にすっかり冷たくなってしまっていた。
そんなアリシアをレオナルドは沈痛な表情で見ている。
王都からサリエンまでは馬車で3日掛かる。
近くのマナーハウスに着いてとんぼ返りというわけにもいかないので、あちらで一泊して領地の仕事を片付けてきた。それから森へ行って水を汲み、王都へ戻る。
アリシアの傍を離れたのは7日だったのに、アリシアはまた痩せていた。
レオナルドはそっと腕を伸ばしてアリシアを抱き締める。
急なことにアリシアはきょとんとしていたけれど、嫌がることなく胸に頬を摺り寄せた。
甘える仕草は幼い頃と変わらないのに、こんなに細くなってしまった。
それなのにアリシアの為にしてやれるのはこんなことしかないのかと、レオナルドは唇を噛みしめる。
それ以来レオナルドはアリシアが望む場所へ行き、望むものを手に入れてくるようになった。
アリシアが望まなくても独自に調べて効果のありそうなものを取りに行くこともある。
日帰りができる場所は少なく、その度に王宮での仕事は休むことになるけれど、レイヴンには領地で問題が起きたと話しているらしい。
レイヴンはこれまでほとんど休みを取らなかったレオナルドが続けて休むくらいだから相当な問題なのだろうと快く休ませてくれている。それには幸いなことに、エミリーを使節団へ入れる代わりに採用した数人の補佐たちが順調に育っているという背景もあった。
とはいえアリシアに罪悪感がないわけではない。
以前からの予定通り、春からリカルドが出仕している。
リカルドはロバートの予想通り外務大臣の下へ配属された。今はまだ取り立てて実績のないリカルドだが、すぐに頭角を現すだろう。レオナルドが王宮での職務を休みがちでは分が悪くなる。
兄のことを思うなら、兄に頼りすぎるのは止めるべきだ。
わかっているのに、アリシアには止めることができなかった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
サリエンの森にある泉は所謂天然の温泉です。
ただこの国には「温泉に入る」という概念がないので、「暖かいお湯が沸く不思議な泉」といった認識になっています。
不思議な泉で夏も冬も水が温かく、森に棲む動物が集まってくる。特に繁殖期には腹に子を抱えた動物が多く集まり、冬には親子連れで泉に浸かっているという。
そのことから地元の住民には『子宝の泉』と呼ばれているのだ。
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どうせ半分は気休めのもの。
持っているだけでもご利益はあるだろう。
「ありがとうございます、お兄様」
ガラス瓶を受け取ったアリシアは嬉しそうに笑って水に指先を浸けたりしている。
掬った時は温かかった水も、ここへ帰り着くまでの間にすっかり冷たくなってしまっていた。
そんなアリシアをレオナルドは沈痛な表情で見ている。
王都からサリエンまでは馬車で3日掛かる。
近くのマナーハウスに着いてとんぼ返りというわけにもいかないので、あちらで一泊して領地の仕事を片付けてきた。それから森へ行って水を汲み、王都へ戻る。
アリシアの傍を離れたのは7日だったのに、アリシアはまた痩せていた。
レオナルドはそっと腕を伸ばしてアリシアを抱き締める。
急なことにアリシアはきょとんとしていたけれど、嫌がることなく胸に頬を摺り寄せた。
甘える仕草は幼い頃と変わらないのに、こんなに細くなってしまった。
それなのにアリシアの為にしてやれるのはこんなことしかないのかと、レオナルドは唇を噛みしめる。
それ以来レオナルドはアリシアが望む場所へ行き、望むものを手に入れてくるようになった。
アリシアが望まなくても独自に調べて効果のありそうなものを取りに行くこともある。
日帰りができる場所は少なく、その度に王宮での仕事は休むことになるけれど、レイヴンには領地で問題が起きたと話しているらしい。
レイヴンはこれまでほとんど休みを取らなかったレオナルドが続けて休むくらいだから相当な問題なのだろうと快く休ませてくれている。それには幸いなことに、エミリーを使節団へ入れる代わりに採用した数人の補佐たちが順調に育っているという背景もあった。
とはいえアリシアに罪悪感がないわけではない。
以前からの予定通り、春からリカルドが出仕している。
リカルドはロバートの予想通り外務大臣の下へ配属された。今はまだ取り立てて実績のないリカルドだが、すぐに頭角を現すだろう。レオナルドが王宮での職務を休みがちでは分が悪くなる。
兄のことを思うなら、兄に頼りすぎるのは止めるべきだ。
わかっているのに、アリシアには止めることができなかった。
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