589 / 697
第2部 6章
17 宰相
しおりを挟む
レイヴンとアリシアが閨を休むようになってから更に半月が過ぎた。
アリシアの体調が改善する様子はなく、視察への同行は無理だというのが皆の一致した見解だ。
体調不良を公に認めることになるが、既に社交界では誰もが知るところになっていた。
最近ではレオナルドやオレリアだけではなく、カナリーやアイビス、パトリシアやディアナまで入れ代わり立ち代わり王太子宮を訪ねてくる。誰もいないところで倒れたりしていたら、と恐れているようだ。
勿論どこへ行くにもエレノアが付き従っているのでアリシアが完全に1人になることはないが、それとこれとは違うのだ。
アダムは王太子宮を訪れたオレリアからアリシアの様子を聞いていた。
跡取りに恵まれず悩む姿は、かつてのオレリアを思い起こさせる。
王宮で時折見かける痩せ細った娘を思うと胸が潰れそうに痛むが、そろそろ動き出さなくてはならない。
王太子に世継ぎとなる子どもが生まれなければ、側妃を迎えるよう働きかけるのが側近の役目であり、宰相の役目でもあった。
それを理解しながらこれまで動かなかったのは、親心であり、2人がどこまでやれるのか見届けたい気持ちがあったからだ。周りも正妃の父親として複雑な立場を慮ってくれていた。
だけどそれももう限界に来ている。
アダムが動くと決めたのは、その役目をレオナルドにさせたくなかったからだ。
仕方のないことだと理解していても、レオナルドが動けばアリシアとの間に蟠りが残るだろう。デミオンと上手くいかなかったアダムとしては、互いを大切に思い合う2人の関係を壊したくない。
アダムが薦めようとしているのは、アリシアのはとこに当たる令嬢だった。
名前をユニファという。
アダムの母である前公爵夫人には伯爵家へ嫁いだ妹がいる。現当主となっているアダムの従兄は子沢山で、2人の息子と4人の娘がいた。
その3番目の娘がユニファで、今年学園の3年生なのだ。
ユニファに婚約者はいない。
元々ユニファはアダムが側妃候補として見込んでいた令嬢だった。
レイヴンとアリシアの仲が上手くいっていなかった婚約時代、結婚後もこのままでは後継を授かるのは難しいと思われた。だからその時の為に婚約者を作らないよう従兄へ言い含めていたのだ。
従兄の方でも4人分の嫁ぎ先を見つけるのは骨が折れる。それが上手くいけば国王の外戚になれるかもしれないというのだ。側妃の話が駄目になってもルトビア公爵家が責任を持って嫁ぎ先を見つけると確約すれば、喜んで話しに乗ってくれた。
ただ現在の状況は、想定していたものと違っている。
今の2人は不仲ではなく、レイヴンは側妃を拒んでいる。
レイヴンも役目は理解しているので、観念して側妃を迎え入れれば宣言したように白い結婚を貫くということはないだろうが、渡りは極端に少なくなるだろう。
アダムはユニファのはにかむような笑顔を思い出した。
ルトビア公爵家の血族らしく、栗色の髪と緑色の瞳の少女だ。
控え目で大人しく、礼儀正しい娘である。側妃となり先に子を生んだとしてもアリシアを正妃として立てるだろうと、そんなところが気に入っていた。
ルトビア公爵派からの側妃なので、また周りはとやかく言うのだろうが、まずは側妃を娶らせることだ。
1人側妃を迎えてしまえば「側妃はいらない」というレイヴンの主張を崩すことになる。
そうしたらそれを足掛かりにして2人目、3人目を娶らせれば良い。
貴族とはそうした計算をするものである。
ただアダムからの推薦を受け入れたとなると些か厄介なことになるので、体裁は整えなければならない。
舞踏会か何かでレイヴンがユニファを見初めたことにすれば良いのだ。
理由は髪の色や瞳の色がアリシアと似ている、でもなんでも良い。
だけどきっとユニファは幸せになれない。
表面だけを取り繕われたまま、本心ではレイヴンにもアリシアにも疎まれて過ごすのだ。ユニファもそれがわからないほど鈍感ではないだろう。
アダムは大きく息を吐いた。
宰相として優先されるのは、レイヴンに側妃を娶らせ、後継を作ることだ。
後でアリシアに子が生まれれば臣下に下らせれば良い。公爵にはなれる。
その時は全力で王子の後ろ盾になろう。
アダムはもう一度大きく息を吐いた。
頭を振って雑念を払う。
課せられたのは嫌な役回りである。
それでもそれが宰相として、そして公爵家当主としての役目だった。
アリシアの体調が改善する様子はなく、視察への同行は無理だというのが皆の一致した見解だ。
体調不良を公に認めることになるが、既に社交界では誰もが知るところになっていた。
最近ではレオナルドやオレリアだけではなく、カナリーやアイビス、パトリシアやディアナまで入れ代わり立ち代わり王太子宮を訪ねてくる。誰もいないところで倒れたりしていたら、と恐れているようだ。
勿論どこへ行くにもエレノアが付き従っているのでアリシアが完全に1人になることはないが、それとこれとは違うのだ。
アダムは王太子宮を訪れたオレリアからアリシアの様子を聞いていた。
跡取りに恵まれず悩む姿は、かつてのオレリアを思い起こさせる。
王宮で時折見かける痩せ細った娘を思うと胸が潰れそうに痛むが、そろそろ動き出さなくてはならない。
王太子に世継ぎとなる子どもが生まれなければ、側妃を迎えるよう働きかけるのが側近の役目であり、宰相の役目でもあった。
それを理解しながらこれまで動かなかったのは、親心であり、2人がどこまでやれるのか見届けたい気持ちがあったからだ。周りも正妃の父親として複雑な立場を慮ってくれていた。
だけどそれももう限界に来ている。
アダムが動くと決めたのは、その役目をレオナルドにさせたくなかったからだ。
仕方のないことだと理解していても、レオナルドが動けばアリシアとの間に蟠りが残るだろう。デミオンと上手くいかなかったアダムとしては、互いを大切に思い合う2人の関係を壊したくない。
アダムが薦めようとしているのは、アリシアのはとこに当たる令嬢だった。
名前をユニファという。
アダムの母である前公爵夫人には伯爵家へ嫁いだ妹がいる。現当主となっているアダムの従兄は子沢山で、2人の息子と4人の娘がいた。
その3番目の娘がユニファで、今年学園の3年生なのだ。
ユニファに婚約者はいない。
元々ユニファはアダムが側妃候補として見込んでいた令嬢だった。
レイヴンとアリシアの仲が上手くいっていなかった婚約時代、結婚後もこのままでは後継を授かるのは難しいと思われた。だからその時の為に婚約者を作らないよう従兄へ言い含めていたのだ。
従兄の方でも4人分の嫁ぎ先を見つけるのは骨が折れる。それが上手くいけば国王の外戚になれるかもしれないというのだ。側妃の話が駄目になってもルトビア公爵家が責任を持って嫁ぎ先を見つけると確約すれば、喜んで話しに乗ってくれた。
ただ現在の状況は、想定していたものと違っている。
今の2人は不仲ではなく、レイヴンは側妃を拒んでいる。
レイヴンも役目は理解しているので、観念して側妃を迎え入れれば宣言したように白い結婚を貫くということはないだろうが、渡りは極端に少なくなるだろう。
アダムはユニファのはにかむような笑顔を思い出した。
ルトビア公爵家の血族らしく、栗色の髪と緑色の瞳の少女だ。
控え目で大人しく、礼儀正しい娘である。側妃となり先に子を生んだとしてもアリシアを正妃として立てるだろうと、そんなところが気に入っていた。
ルトビア公爵派からの側妃なので、また周りはとやかく言うのだろうが、まずは側妃を娶らせることだ。
1人側妃を迎えてしまえば「側妃はいらない」というレイヴンの主張を崩すことになる。
そうしたらそれを足掛かりにして2人目、3人目を娶らせれば良い。
貴族とはそうした計算をするものである。
ただアダムからの推薦を受け入れたとなると些か厄介なことになるので、体裁は整えなければならない。
舞踏会か何かでレイヴンがユニファを見初めたことにすれば良いのだ。
理由は髪の色や瞳の色がアリシアと似ている、でもなんでも良い。
だけどきっとユニファは幸せになれない。
表面だけを取り繕われたまま、本心ではレイヴンにもアリシアにも疎まれて過ごすのだ。ユニファもそれがわからないほど鈍感ではないだろう。
アダムは大きく息を吐いた。
宰相として優先されるのは、レイヴンに側妃を娶らせ、後継を作ることだ。
後でアリシアに子が生まれれば臣下に下らせれば良い。公爵にはなれる。
その時は全力で王子の後ろ盾になろう。
アダムはもう一度大きく息を吐いた。
頭を振って雑念を払う。
課せられたのは嫌な役回りである。
それでもそれが宰相として、そして公爵家当主としての役目だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,708
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる