【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
595 / 697
第2部 6章

23 煩悶③

しおりを挟む
 ジェーンに子を生んでもらうよう頼む。
 その障りとなるのはやはりノティスのことだ。

 ジェーンはノティスと婚約の話が出た時から、ノティスの気持ちを一番に気遣っていた。
 体に傷痕があること、父や義母が罪を犯し処罰を受けたこと、領地の運営が上手くいっていないこと。ジェーンには様々な瑕疵がある。
 そんなところへノティスを婿入りさせるのは、マルグリットや国王がノティスを疎ましく思っているからではないか。
 ノティスがそう思うのではないかと案じていたのだ。


 もしジェーンが子を生んでくれたとしたら、未婚なのに純潔ではない、という瑕疵が増えることになる。
 それにもし結婚後にジェーンの相手が異母兄だと知ったとしたら。
 異母兄の子をジェーンが生んだと知ったとしたら。

 これを企てたのはアリシアだ。国王やマルグリットに伝えるつもりはない。
 むしろ2人は一番知られてはいけない人物だ。

 だけどノティスは、2人が異母兄を守る為に企んだと――少なくとも黙認したと思うかもしれない。
 そうしたらノティスがやっと手に入れた家族との絆をズタズタに切り裂いてしまう。

 アリシアにはもうノティスを義弟として大切に思う気持ちが芽生えている。
 ノティスにそんな思いをさせるわけにはいかない……。




「妃殿下?どちらへ?」

 急に扉へ向かったアリシアにエレノアが驚いた声を上げる。
 アリシアを1人にしないようきつく言われているので、どこへ行くとしても一緒に付いて行く。エレノアと同時に数名の侍女と待機していた騎士たちが動き出した。

 
 アリシアはどこへ行こう、と具体的に決めているわけではなかった。
 ただ部屋にいると嫌なことばかり考えてしまうので、外の空気を吸って気分を変えたかっただけだ。だけど足は自然に執務棟へ向かって行く。
 レイヴンの執務室が見えるところまで来た時、執務室の前で数人の令嬢に囲まれるレイヴンが見えた。

 執務中の時間であっても執務室に籠りきりということはない。書類の受け渡しに行ったり、相談事があって誰かを訪ねたりすることもある。国王に呼ばれたのかもしれない。
 そうして部屋を出たところで待ち構えていた令嬢たちに捕まったのだ。
 
「………っ」

 アリシアはくるりと方向を変えた。

 レイヴンに疚しいところなんてない。
 にこやかに話しているように見えたが、令嬢たちへ向けられたのは王太子としての対外的な笑顔だ。

 わかっている。
 だけど見ていたくなかった。





 どれくらい歩いたのか。気が付いたらアリシアは中央庭園まで来ていた。
 ここにはいつでも大勢の貴族が訪れている。
 
 貴族たちは1人でいるアリシアに好奇の視線を向ける。
 明らかに痩せてしまったアリシアにくすくす笑う声や眉を顰めて囁き合う声が聞こえた。
 レイヴンがいては言えないことを存分に話しているのだ。
 こうなることがわかっていたから最近は近づかないようにしていたのに、冷静さを失ったアリシアはうっかり1人で来てしまった。

「……義姉上?」

 帰ろう、とアリシアが踵を返した時、後ろから遠慮がちな声が聞こえた。先ほどまで考えていた人の声だ。
 アリシアはゆっくり振り返る。

「……ノティス殿下」

 低い位置で整えられた生垣の向こうから急ぎ足て近づいて来たノティスは、アリシアへ心配そうな視線を向けていた。
 貴族たちから向けられる視線や囁き声がノティスにも聞こえているのだ。アリシアを庇わなければと思ってくれたのかもしれない。

「……殿下とお会いするのはなんだか久しぶりの様な気がしますね」

「そうですね。ご無沙汰してしまい申し訳ございません」

 真面に食事が摂れなくなってからアリシアは正殿へ行くのを控えていた。
 お茶菓子も食べられず、嘔吐感に苦しむ姿をアイビスに見せたくなかったからだ。マルグリットたちもその気持ちを尊重してくれていた。
 それでもアイビスは王太子宮に遊びに来てくれていたし、ジェイとは公務などで顔を合わせることもあった。
 だけどここひと月ほどはノティスと顔を合わせていない。

 アリシアはノティスの隣へ視線を動かした。
 そう、ノティスは1人ではなかったのだ。

「……こちらの方は?」

「学園の友人です。……本当は6人ほどが集まるはずだったのですが、皆都合が悪くなってしまって」

 ノティスと一緒にいたのは、いつかの舞踏会で見た子爵令嬢だった。
 あの後も何度も王宮へ遊びに来ているのは聞いている。ノティスが友人を招く時は、この子爵令嬢が必ずいると言われていた。

 子爵令嬢は名前で紹介されなかったことに不満そうな顔を見せた。
 だけど何も言わずに堪えるくらいの常識はあるようだ。

「そうですか。……用事があるのでこれで失礼致しますわ」

「義姉上?!」

 くるりと背中を向けたアリシアにノティスは驚いたようだ。
 だけどアリシアは立ち止まることも振り返ることもしなかった。

 
 ノティスはジェーンではなく、あの子爵令嬢を選んだのか。 
 それならもう良いのではないか。
 ジェーンにレイヴンの子を生んでもらっても――。


 
しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...