【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 6章

24 キトラへ①

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「ジェーンに会いに行きたいのです」

 そう言われたレイヴンは困った顔をした。
 王族が貴族の元を訪ねるのは簡単なことではない。
 特定の貴族とだけ懇意になるのを避ける為であり、公平性を保つためにも国王や王妃、そして王太子と王太子妃の行動は制限されている。だからこそ国王夫妻や王太子夫妻を招くことができれば一族の名誉となり価値があるのだ。
 アリシアがそれを知らないはずがなかった。

「ジェーン嬢に会いたい気持ちはわかるよ。だけどアリシアが会いに行くのは許可できない」

 レイヴンが優しく言い聞かせるとアリシアは哀しそうな顔で俯いた。
 見えている首も肩もすっかり細くなってしまった。綺麗に化粧をして隠しているが、目の下には濃い隈ができている。食事を摂れなくなってから栄養が不足しているとみえて、綺麗な栗色の髪も今は艶を失ってパサついてしまっている。エレノアたちがオイルやクリーム、髪飾りやリボンを使って誤魔化しているが、夜を一緒に過ごすレイヴンにはわかってしまうのだ。
 
 ジェーンに会わせてあげたい気持ちはレイヴンにもあった。ジェーンならアリシアの精神的な支えになってくれるだろう。
 だけどジェーンは領地へ戻っているのだ。王都の邸を訪ねるだけでも大変なことなのに、侯爵家の領地まで行けるはずがない。
 それに数日掛かる道程に今のアリシアが耐えられるとは思えなかった。

「ジェーン嬢に会いたいのなら文を出そう。王宮に来てもらえばいい」

 レイヴンたちが誰かと会いたいと思った時は、相手を呼び出すのが通常だ。
 ジェーンが拒否するとは思えないが、難色を示すようなら召喚状を出してもいい。

「いいえ、駄目です!ジェーンは今、領地を復興させようと忙しくしているのですから、邪魔はできません!」
 
 アリシアからしてみれば、レイヴンの子を生んでくれるようジェーンを説得しなければならないのだ。
 そんな話を王宮ですることはできない。人目の少ない領地だからこそできる話である。

「ジェーンは最近キトラに滞在しているようなのです。どうかお願い致します。キトラまで行かせてください」

 アリシアは今もジェーンと文のやり取りをしている。滞在地を変える時はジェーンの方から知らせて来ていた。
 キトラはキャンベル侯爵家の領地の中で最も王都に近い町だ。朝王都を出発すれば日が暮れる頃にはキトラへ着ける。

「キトラか……」

 呟いたレイヴンだったが、やはり許可をすることはできなかった。遠い、近いの問題ではないのだ。
 2人の話し合いは長い時間続いた。


 
 翌日レオナルドに相談してみたレイヴンだったが、レオナルドも同じ意見だった。
 レオナルドとしてはアリシアの体調を案じる気持ちが一番の理由だったが、王太子妃が王宮を離れる重大性も理解している。
 2人でアリシアの説得にあたったが、アリシアは頑なだった。
 
 アリシアはジェーンを呼び出すのではなく、自分が会いに行きたいと言う。
 辛いことの多い王宮から逃げ出したい気持ちがあるのかもしれない。


「……わかった。どうしてもと言うなら僕が同行する」

「レオ?!」
 
 先に折れたのはレオナルドだった。
 アリシアの様子から説得するのは無理だと諦めたのか、キトラまで一緒に行くと言う。
 レオナルドはレイヴンを振り返ると小さく頭を振った。

「こうなるとアリシアは諦めませんよ。密かに王宮を出てキトラへ行き、すぐに戻ります。……それでいいね?アリシア」

「勿論です、お兄様!レイヴン様、お願い致します」

 レオナルドの言葉に目を輝かせたアリシアがレイヴンに頭を下げる。
 その嬉しそうな顔を見ると、レイヴンはこれ以上駄目とは言えなかった。

 最近では見ることができなくなった嬉しそうな顔だ。
 
 結局押し切られる形でレイヴンは許可することになった。


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