【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 6章

29 重苦しい朝

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 眠ってしまったアリシアをベッドへ運んだレオナルドは部屋を出た。
 最近はあまり眠れないようだと聞いていたが、1日馬車に揺られたこともあって疲れているのだろう。きっとこのまま朝まで眠れるはずだ。

 自分に与えられた客間へ戻ろうとしたレオナルドだが、すぐに足を止めた。
 廊下の暗がりにジェーンが立っている。

「アリシア様は……?」

「眠ってしまったよ。朝までもう起きないだろうね」

「そうですか……」

 幸せそうにノティスと寄り添っていたジェーンだが、アリシアの様子がおかしいことに気がついていたようだ。
 ジェーンが婚約の話を打ち明けたのは、アリシアに喜んでもらえる明るい話題だと思ったからだが、結果としてはアリシアの希望を打ち砕くことになってしまった。
 
 結局アリシアはここへ来た本当の目的を口にしていない。
 だけどジェーンはアリシアの置かれた状況、側妃と世継ぎを求める周りの声、そしてノティスが姿を現した時にアリシアが一瞬だけ見せた絶望的な表情から何かを悟ってしまったようだ。

 だけどレオナルドもジェーンも決定的なことは口にできない。
 口にして確かめても、ジェーンもアリシアも傷つくだけで良いことなどひとつもないのだ。
 今回のことはアリシアが非現実的な夢を見た。ただそれだけのこと。
 それだけで良い。
 
「私はアリシア様を傷つけてしまったのでしょうか……」

 レオナルドは静かに首を振る。

「そんなことはないよ。ジェーンも自分の幸せを求めて構わないんだ」

 ジェーンがアリシアを大切に思っていることも、これまでのことでルトビア公爵家に恩を感じていることもわかっている。アリシアの力になれなくて心苦しく思っていることも。
 だけどジェーンが自分の人生を犠牲にする必要はないのだ。
 それは友を裏切ったことにならない。

 ジェーンは「そうですね」と弱弱しく微笑んだ。
 そうしてレオナルドに促され、自分の部屋へ戻っていった。




 翌朝は重々しい雰囲気に包まれていた。

 アリシアの目が覚めるまで寝かせておくよう言われていたマーサだが、アリシアはいつもと変わらない時間に起きていた。
 アリシアはマーサに手伝われ、いつもと同じように支度をし、いつもと同じ表情で会話をする。
 それなのに張り詰めた空気を感じるのは何故なのか。

 それにジェーンの様子もおかしかった。
 明るくいつも通りに振舞っているが、子どもの頃からジェーンを見ているマーサには、ジェーンが無理に笑っているのが良くわかる。マーサがわかっているのだから、レオナルドもアリシアもわかっているはずだ。
 それなのに誰も何も言わない。

 張り詰めた笑顔のアリシアと無理に明るく振る舞うジェーン、そしていつもと変わらないレオナルド。
 和やかに朝食を摂る3人が何故かマーサには薄氷の上に座っているように見えた。 

 昼になるとノティスが訪ねてきた。
 今日は休日なのでジェーンもノティスも執務を休んでいる。アリシアとレオナルドが滞在できるのは2日だけなので、ノティスも一緒に過ごそうとジェーンが予め誘っていたのだ。
 ノティスはここで妙な雰囲気の2人に戸惑うことになる。

「……もしかして義姉上は僕たちの婚約に反対なのでしょうか。まさか2人は喧嘩を……?」
 
 2人の目を盗んでそう囁かれたレオナルドは、申し訳なく思いながらも首を振るしかなかった。 
 これはアリシアが1人で乗り越えなければならないことだ。
 本当のことは口に出せない。
 
 結局奇妙な雰囲気のまま、だけど表面上は穏やかに、アリシアの侯爵邸訪問は幕を閉じた。






「アリシア!良かった無事で!心配したんだよ」

 王太子宮に戻るとレイヴンが待ち構えていた。
 落ち着かず、部屋の中をうろうろしていたのがわかる。

「ただいま戻りました、レイヴン様」

 いつもと変わらない様子で挨拶を返したアリシアだが、レイヴンはすぐに様子がおかしいと気がついた。
 アリシアを湯浴みさせて休ませるようエレノアに言いつけるとレオナルドに向き直る。

「何があった?」

「特に何も。あちらでノティス殿下にお会いしました」

「そうか。アリシアも2人のことを知ったのか」

 だけどそれで何故アリシアがあんな顔をするのかわからない。
 2人の仲が上手くいったのは喜ばしいことのはずだ。

 2人の仲が気に入らない?
 ノティスでは不安なのか?
 
 ぶつぶつ呟くレイヴンをレオナルドは黙って見つめていた。 
 レイヴンが本当のことを知る必要はないのだ。

 
 そして翌朝、異変が起きた。



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