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第2部 6章
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アリシアが寝付いたあの日、知らせを受けたアダムとオレリアは朝も早い時間から王太子宮へ駆けつけて来た。
公爵と公爵夫人としていつもぱりっと身なりを整え、威厳ある態度を崩さない2人にしては珍しく、服装も髪型も崩れている。
2人が寝室へ案内された時、アリシアは眠っていた。
細く小さくなってしまった娘は、大きなベッドの中でシーツに埋もれてしまいそうだ。
青白い顔は目を瞑っていることもあって嫌な予感を掻き立てた。
オレリアが声を上げて泣き崩れる。そんな妻の肩を抱いてアダムがベッドサイドまで足を進めた。
「傍へ来て手を握ってあげて」
臣下の礼をとろうとするアダムを手で制してマルグリットが告げる。
その心遣いを有難く受け入れ、オレリアはマルグリットと入れ替わってアリシアの枕元へ腰を下ろした。
「ああ、なんてことなの……っ!」
オレリアの慟哭を誰も何も言えずにただ聞いていた。
ただこれによってユニファを側妃に推す計画はなくなった。
幸いだったのは、アダムがまだ伯爵家へ正式な話を通していなかったことだ。
この状況でレイヴンがアリシアに似た令嬢と運命的な出会いを果たしたというのは無理があるし、家柄的にもアダムの関与が疑われる。
アダムは体調を崩して世継ぎを生む可能性が低くなった娘を切り捨て、別の娘を宛がったのだと言われるだろう。
それを防ぐ為にもアダムは早急にユニファの嫁ぎ先を探すことになった。
この日以来、オレリアは1日毎に王太子宮を訪れている。
貴族たちは常に王太子宮の様子を窺っているので、実母が入り浸っていれば余程具合が悪いのかと邪推されてしまう。それはアリシアにとって良いことではない。
だからぎりぎりまで妥協して、1日毎ということになったのだ。
それに伴い、アリシアは王太子妃の部屋に併設されている個人の寝室を使うことになった。
王太子夫妻の寝室とは反対側にある部屋で、アリシアは嫁いでから1度もこの部屋を使ったことがない。
マルグリットにそちらへ移すように言われたレイヴンは、「絶対に嫌だ!!」と激しく抵抗をした。アリシアと別の部屋で休むなんて考えられないことだった。
だけど例えアリシアの肉親であっても、アダムやオレリア、レオナルドが王太子夫妻の寝室へ立ち入るのは好ましくない。
「それではオレリア様が付き添うこともできないのよ」と言われて、渋々ながら昼の間はそちらの寝室へ移すことを受け入れた。侍女のケイトが「昼と夜で部屋を変えていただいた方が、掃除やシーツの交換をし易くて清潔さを保てます」と使用人の観点から説得してくれたのも良かったのかもしれない。
それ以来、レイヴンが執務へ出掛ける前にアリシアを個人の寝室へ移し、執務から戻った後に夫婦の寝室へ移すようになった。
レイヴンは今もアリシアを抱き締めて毎晩眠っている。
話すことも表情を変えることもなくなったアリシアだが、レイヴンが優しく髪を撫でると僅かながら表情を緩めるという。
アリシアはもうレオナルドが髪を撫でても何の反応も返してくれない。
レオナルドはアリシアの信頼を失ったのだ。
自室のソファに座り込んだレオナルドは掻き上げた前髪をグシャッと握り潰した。
公爵と公爵夫人としていつもぱりっと身なりを整え、威厳ある態度を崩さない2人にしては珍しく、服装も髪型も崩れている。
2人が寝室へ案内された時、アリシアは眠っていた。
細く小さくなってしまった娘は、大きなベッドの中でシーツに埋もれてしまいそうだ。
青白い顔は目を瞑っていることもあって嫌な予感を掻き立てた。
オレリアが声を上げて泣き崩れる。そんな妻の肩を抱いてアダムがベッドサイドまで足を進めた。
「傍へ来て手を握ってあげて」
臣下の礼をとろうとするアダムを手で制してマルグリットが告げる。
その心遣いを有難く受け入れ、オレリアはマルグリットと入れ替わってアリシアの枕元へ腰を下ろした。
「ああ、なんてことなの……っ!」
オレリアの慟哭を誰も何も言えずにただ聞いていた。
ただこれによってユニファを側妃に推す計画はなくなった。
幸いだったのは、アダムがまだ伯爵家へ正式な話を通していなかったことだ。
この状況でレイヴンがアリシアに似た令嬢と運命的な出会いを果たしたというのは無理があるし、家柄的にもアダムの関与が疑われる。
アダムは体調を崩して世継ぎを生む可能性が低くなった娘を切り捨て、別の娘を宛がったのだと言われるだろう。
それを防ぐ為にもアダムは早急にユニファの嫁ぎ先を探すことになった。
この日以来、オレリアは1日毎に王太子宮を訪れている。
貴族たちは常に王太子宮の様子を窺っているので、実母が入り浸っていれば余程具合が悪いのかと邪推されてしまう。それはアリシアにとって良いことではない。
だからぎりぎりまで妥協して、1日毎ということになったのだ。
それに伴い、アリシアは王太子妃の部屋に併設されている個人の寝室を使うことになった。
王太子夫妻の寝室とは反対側にある部屋で、アリシアは嫁いでから1度もこの部屋を使ったことがない。
マルグリットにそちらへ移すように言われたレイヴンは、「絶対に嫌だ!!」と激しく抵抗をした。アリシアと別の部屋で休むなんて考えられないことだった。
だけど例えアリシアの肉親であっても、アダムやオレリア、レオナルドが王太子夫妻の寝室へ立ち入るのは好ましくない。
「それではオレリア様が付き添うこともできないのよ」と言われて、渋々ながら昼の間はそちらの寝室へ移すことを受け入れた。侍女のケイトが「昼と夜で部屋を変えていただいた方が、掃除やシーツの交換をし易くて清潔さを保てます」と使用人の観点から説得してくれたのも良かったのかもしれない。
それ以来、レイヴンが執務へ出掛ける前にアリシアを個人の寝室へ移し、執務から戻った後に夫婦の寝室へ移すようになった。
レイヴンは今もアリシアを抱き締めて毎晩眠っている。
話すことも表情を変えることもなくなったアリシアだが、レイヴンが優しく髪を撫でると僅かながら表情を緩めるという。
アリシアはもうレオナルドが髪を撫でても何の反応も返してくれない。
レオナルドはアリシアの信頼を失ったのだ。
自室のソファに座り込んだレオナルドは掻き上げた前髪をグシャッと握り潰した。
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