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第2部 6章
33 暗闇の中で①
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レオナルドは執務の間に毎日アリシアの元を訪れている。
だけどアリシアがレオナルドの呼びかけに応えてくれたことはない。
本当なら今も傍で付き添いたいところではあるが、執務中傍を離れなければならないレイヴンがアリシアと2人きりで過ごせるのは夜しかない。
その2人きりの時間を邪魔することはできなかった。
アリシアがこうなってしまったのは僕のせいだ。
レオナルドはあの日から自分を責め続けている。
キトラへ行きたいと聞いた時、アリシアの目的はすぐに分かった。
だけど協力することはとてもできない。
レオナルドにとってアリシアは大切な妹だ。だけどジェーンのことも妹だと思っている。
アリシアの為に犠牲になってくれとはとても言えなかった。
特にレオナルドは昔、妃教育で疲れ切ったアリシアを優先し、ジェーンが暴力を振るわれていることを見逃している。あの時、これからは何があってもジェーンを守ると誓ったのだ。
誰もあの企みを口に出さず、なかったことにする為にはああするしかないと思った。
だけどもっと違うやり方があったのだろうか。
キトラへ行くことに許可を出さず、企みに気付かない振りをして、のらりくらりと躱していれば今もアリシアは希望に縋って笑っていただろうか。
レオナルドはまた前髪を握り潰した。
どこかに頭を打ち付けたくなる。その衝動を寸でのところで押し殺して大きく息を吐きだした。
今、王都であの日のことを知っているのはレオナルドだけだ。
当然レイヴンからは何があったのか何度も詰問を受けた。
だけどレオナルドはあの日と同じように答えるしかない。あの企みをレイヴンに知られるわけにはいかなかった。
手を動かすとカサッという音がして紙に触れた。
アリシアが寝付いてからまだ1週間しか経っていないのに、王都から程近いキトラには既に情報が届いたようだ。
ジェーンからアリシアを案じる言葉と、『私がいけなかったのでしょうか』という文が届いていた。
そうではない、と、ジェーンが気に病む必要はないのだと、文を書いて安心させてやらないといけないのに、その気力が湧いてこない。
案外自分は弱いのだと思い知った。
それからどれくらいたっただろうか。
扉を叩く音がしてレオナルドは顔を上げる。
「誰だ?」と物憂げに問い掛けると、「ディアナ嬢をお連れしました」と返事があった。
そこでレオナルドは思い出す。今日は公爵夫人としてのマナーを学ぶ為にディアナが来ていたのだ。終わったので帰る前に挨拶に来たのだろう。
「入っていいよ」
応えてから、婚約者とはいえ未婚の令嬢を自室に招くのは相応しくないと思い出した。
だけど体が鉛のように重くて動けない。
そのまま扉を見つめていると扉が開かれディアナが姿を見せた。
案内してきた侍女は、「扉はこのまま開いていて下さい」と言って戻っていく。
ディアナは少し躊躇った後、部屋の中へ入って来た。
「ご挨拶に伺ったのですが……。灯りをつけておられないのですか?」
外はすっかり暗くなっているのに、明るいところにいたくなくてレオナルドは灯りを消したままだった。
そんなことにも気づかなかったが、ますます未婚の令嬢を招き入れるのに相応しくない。
灯りをつけようと重い腰を上げたレオナルドだったが、ディアナが素早く傍まで来て隣へ腰を下ろした。
呆然とするレオナルドを見て柔らかく微笑む。
「たまにはこういうのもよろしいですね」
その笑顔に押されるようにしてレオナルドはまた腰を下ろした。
だけどアリシアがレオナルドの呼びかけに応えてくれたことはない。
本当なら今も傍で付き添いたいところではあるが、執務中傍を離れなければならないレイヴンがアリシアと2人きりで過ごせるのは夜しかない。
その2人きりの時間を邪魔することはできなかった。
アリシアがこうなってしまったのは僕のせいだ。
レオナルドはあの日から自分を責め続けている。
キトラへ行きたいと聞いた時、アリシアの目的はすぐに分かった。
だけど協力することはとてもできない。
レオナルドにとってアリシアは大切な妹だ。だけどジェーンのことも妹だと思っている。
アリシアの為に犠牲になってくれとはとても言えなかった。
特にレオナルドは昔、妃教育で疲れ切ったアリシアを優先し、ジェーンが暴力を振るわれていることを見逃している。あの時、これからは何があってもジェーンを守ると誓ったのだ。
誰もあの企みを口に出さず、なかったことにする為にはああするしかないと思った。
だけどもっと違うやり方があったのだろうか。
キトラへ行くことに許可を出さず、企みに気付かない振りをして、のらりくらりと躱していれば今もアリシアは希望に縋って笑っていただろうか。
レオナルドはまた前髪を握り潰した。
どこかに頭を打ち付けたくなる。その衝動を寸でのところで押し殺して大きく息を吐きだした。
今、王都であの日のことを知っているのはレオナルドだけだ。
当然レイヴンからは何があったのか何度も詰問を受けた。
だけどレオナルドはあの日と同じように答えるしかない。あの企みをレイヴンに知られるわけにはいかなかった。
手を動かすとカサッという音がして紙に触れた。
アリシアが寝付いてからまだ1週間しか経っていないのに、王都から程近いキトラには既に情報が届いたようだ。
ジェーンからアリシアを案じる言葉と、『私がいけなかったのでしょうか』という文が届いていた。
そうではない、と、ジェーンが気に病む必要はないのだと、文を書いて安心させてやらないといけないのに、その気力が湧いてこない。
案外自分は弱いのだと思い知った。
それからどれくらいたっただろうか。
扉を叩く音がしてレオナルドは顔を上げる。
「誰だ?」と物憂げに問い掛けると、「ディアナ嬢をお連れしました」と返事があった。
そこでレオナルドは思い出す。今日は公爵夫人としてのマナーを学ぶ為にディアナが来ていたのだ。終わったので帰る前に挨拶に来たのだろう。
「入っていいよ」
応えてから、婚約者とはいえ未婚の令嬢を自室に招くのは相応しくないと思い出した。
だけど体が鉛のように重くて動けない。
そのまま扉を見つめていると扉が開かれディアナが姿を見せた。
案内してきた侍女は、「扉はこのまま開いていて下さい」と言って戻っていく。
ディアナは少し躊躇った後、部屋の中へ入って来た。
「ご挨拶に伺ったのですが……。灯りをつけておられないのですか?」
外はすっかり暗くなっているのに、明るいところにいたくなくてレオナルドは灯りを消したままだった。
そんなことにも気づかなかったが、ますます未婚の令嬢を招き入れるのに相応しくない。
灯りをつけようと重い腰を上げたレオナルドだったが、ディアナが素早く傍まで来て隣へ腰を下ろした。
呆然とするレオナルドを見て柔らかく微笑む。
「たまにはこういうのもよろしいですね」
その笑顔に押されるようにしてレオナルドはまた腰を下ろした。
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