【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
609 / 697
第2部 6章

37 療養計画③

しおりを挟む
 マルグリットの計画はこうだ。

 レイヴンが視察に出掛ける日、アリシアは病気療養の為に離宮へ移ると公表する。
 そしてレイヴンの出立と同じ日同じ時間にアリシアは東門から王領―マリブ―にある離宮へ向かう。
 東門も正式な通用門だが、レイヴンが正門から出掛ける以上注目を集めるのは正門の方だ。

 アリシアの乗る馬車は王家の紋章がついた馬車だが、それほど派手なものでなくて良い。病人を移送する用の横になれる馬車だ。
 そこに警備責任者としてレオナルドが同乗する。

 王都からマリブまでは普通に馬車で移動すれば4日の距離だ。アリシアの様子を見ながらになるので5日は掛かるだろう。
 馬車は途中ウィンディという町で宿を取る。
 重要なのは、ここがマルグリットの生家である侯爵家が治める領地ということだ。
 できる限り外部の者には知られたくないが、どうしても中継地での協力者が必要なので仕方がない。

 宿でアリシアを出迎え、面倒を見るのはマルグリットの両親、そして兄夫婦ということになる。
 そこで一泊した後、馬車はマリブへ向かう。但しアリシアは馬車に乗らない。アリシアはそのまま宿でもう一泊し、翌日迎えに来た公爵家の馬車でアシェントへ向かう。
 アシェント――。
 アリシアが持つ扇に、そしてジェーンが持つブローチに描かれたルトビア公爵家の要地だ。

「公爵家からの馬車はできるだけ地味な、紋章のないものを用意してちょうだい。王家の馬車が発った後、宿に注意している者がいるとは思わないけれど、できる限り慎重にね」

 アリシアの安全を守るのも勿論大切なことだが、一番重要なのはアリシアがマリブへ移ったと疑わせないことだ。
 その為にもレオナルドは出発時と同じ様に王家の馬車に乗り、マリブへ向かわなければならない。

 アリシアの療養先にマリブが選ばれたのは、マリブとアシェントがウィンディから1日の距離にあるからだ。朝の内に宿を発つと夕方までにマリブの離宮にもアシェントのマナーハウスにも着くことができる。

「どちらにせよ内部に協力者は必要よ。口が堅くアリシアの為に動ける者を数名選んでちょうだい」

 馬車にアリシアが乗っていないことを誤魔化す者が必要だ。
 馬車での面倒はレオナルドがみるとしても、侍女が一度も様子を覗かないのは不自然である。宿で用意された食事はレオナルドが代わりに食べたとしても、それを運び、片付けるのは侍女の役目だ。クッションを丸めて人が寝ているように見せた戸板を離宮へ運び込む者もいる。
 戸板に付き従う者、護る騎士、離宮のベッドへ移されたアリシアの面倒をみる者……。この辺りの者には事情を伝えておくしかない。

「オレリア殿は心配でしょうが、しばらく王都で耐えてちょうだい。用心に用心を重ねなければ」

 オレリアは夫も息子も王宮で役職に就いているのでほとんどの時間を王都で過ごす。そのオレリアが急に領地へ戻ったとなるとその理由に興味を持つ者がいるかもしれない。妙な疑いを持たれる可能性があることは控えるべきだ。

「3日も経てば私がお茶会を開くわ。領地へ帰るのはそれからに」

 お茶会ではオレリアに同情の声が集まるだろう。
 跡継ぎを生むことなく病に倒れ、離宮へ移されたアリシアへの憐れみと嘲笑の声が。
 娘を案じる母親へ向けられる容赦ない貴婦人たちの声。
 心労の祟ったオレリアが体調を崩して領地へ静養に向かってもおかしくはない。
 つまりオレリアの役目はそのお茶会まで変わらない生活を続けることだ。

「勿論、私はやりますわ……っ!」

 オレリアは静かに闘志を燃やしていた。
 公爵夫人として、どんなにアリシアを案じていても顔に出さずに過ごす自信はある。無礼に振る舞う貴婦人たちを返り討ちにする自信も。
 同時にアリシアを侮辱され屈辱に震えながら心を痛める演技だってお手の物だ。
 それでアリシアの元へ行けるのなら完璧に演じてみせる。

 マルグリットは頷いた。ルトビア公爵家の面々が協力的なのは初めからわかっていたことだ。
 この計画で一番難しいのは、国王の協力を、黙認という形でも良いから引き出すことだった。
 それは既に達成している。
 あとの課題は唇を噛みしめ震えるレイヴンを納得させることだった。



しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...