【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 6章

38 出発

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 アリシアはマルグリットの計画通りアシェントへ移ることになった。
 レイヴンは「嫌だ!アリシアと離れたくない!!」と強固に反対していたが、アリシアが目覚めた後、ゆっくりとマルグリットの計画を話して聞かせた。
 優しい声で「アシェントへ帰りたい?」と訊くレイヴンに、これまで何事にも反応を示さなかったアリシアが、「アシェント……」と呟いて涙を流したという。
 
 これでレイヴンの心は決まった。
 アリシアの願いはどんなことであっても必ず叶えると決めているのだ。

 レイヴンが視察へ出掛ける日、アリシアはレイヴンの手で馬車へ乗せられた。
 レイヴンは何度も何度もアリシアの髪を撫でながら「愛してる」と囁く。
 フランクに車外から遠慮がちな声で、「そろそろこちらの馬車へ移っていただかなくては出発に間に合いません」と言われてレイヴンは渋々アリシアから手を離した。

「愛してるよ、アリシア。無事に着くよう祈ってる」

 レイヴンはそう言うと、もう一度だけアリシアの頬へ口づけを落して立ち上がった。
 馬車から出るとレオナルドとフランクが沈痛な面持ちでこちらを見ている。

「アリシアは必ず守るとお約束致します」

「……ああ、頼んだ」

 レイヴンとレオナルドはがっちりと握手を交わす。
 レオナルドが付いているのだから、アリシアは必ず無事にアシェントへたどり着けるだろう。
 無事に・・・というのは、人に知られず、という意味でもある。
 何も知らないフランクは2人に知られないようそっと袖で涙を押さえた。

 この計画を知る者は少なければ少ないほどいい。だからフランクにも教えられていない。知っているのはアリシア側の侍女や護衛騎士の数人だけだ。
 計画を知る者も知らない者も、思うことは同じだった。

 殿下の為にも妃殿下が早く回復されますように――。

 アリシアのマリブ行きが決まってからレイヴンの顔色は更に悪くなった。目の下の隈も濃くなっている。
 王太子であるレイヴンは簡単に王都を離れることができない。アリシアが離宮へ移ってしまえば次に会えるのはアリシアが回復して戻って来た時だ。それがいつになるのかは誰にもわからない。
 自身の馬車へ向かうレイヴンを見送りながら、使用人たちは痛む胸を押さえていた。 



 定刻になり、馬車がそれぞれの目的地へ向けて走っていく。
 レイヴンはアリシアが刺繍を刺してくれたハンカチーフを取り出し、何度も口づける。

「愛している、アリシア。必ず帰って来て……」

 レイヴンの呟きを聞く者はいなかった。


 
 一方アリシアが乗る馬車では異変が起きていた。
 レイヴンが愛を囁いても、頬や髪に口づけても反応のなかったアリシアが、東門を抜けたところで涙を流し出したのだ。

 悲壮な顔で別れを告げるレイヴンに、走り出した馬車。
 どこまで状況を理解しているかわからないけれど、何かを感じたのかもしれない。

「レ…ヴン、様…」

「大丈夫だよ、アリシア。殿下とはすぐにまた会えるよ」

 レイヴンの名を呼びながら涙を流すアリシアにレオナルドは声を掛ける。
 アリシアがレオナルドの言葉に反応することはない。

 それでも良かった。
 アリシアが言葉を話したこと、感情を見せてくれたことが何より嬉しかった。



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