【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 6章

48 自由時間

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「お嬢様、今日は天気も良いですし、外でお茶に致しましょうか」

「ええ、そうね。今日はとても暖かそうだわ」

 マリアンの言葉にアリシアは頷いた。
 季節が変わるのは早く、冬が近づいて来ている。もう少しすれば外へ出るのも難しくなるだろう。
 そうなる前に王太子宮へ戻らなければならない。

 ここへ来た時に比べると随分元気を取り戻していた。
 重圧から離れられたことが良かったのか、食べられること、眠れることが大きいようだ。
 同行してくれた公爵家の医師からは、体力をつける為に短時間の散歩を薦められて毎日庭園を歩いている。触れ合うことはできないが、愛らしい犬の姿を間近で見られるのも良いのかもしれない。

 そしてアリシアの食欲だが、実はすっかり元に戻っていた。
 なぜあんなにも食べられなかったのか不思議な程で、今は三食の食事とお茶の時間にお菓子も食べている。
 むしろ食べられなかった期間を取り戻すように食べ過ぎている程だ。時々食べ過ぎてもどしてしまい、マリアンに呆れられていた。
 
 ただ社交界では見た目も重要視される為、戻るにはもう少し全身に肉をつけて見栄え良くしなければならない。
 その為に無理をして食べている…と言えれば良いが、実際は食欲に突き動かされているだけだ。

 マリアンと2人で転園へ出る。
 公爵邸の庭園は広くて美しく、他の貴族と会うこともない。
 人目を気にせず歩けるのは気が楽で、マリアンとの会話を心から楽しむことができる。

 東屋に着くと侍女たちがすぐにお茶の用意をしてくれた。
 お茶菓子はプリンやゼリーといった喉越しが良いものと、生クリームを添えたシフォンケーキだ。最近はこのシフォンケーキがアリシアのお気に入りである。

 すぐに食べてしまったアリシアが、「もう少し欲しいのだけど……」と言うと、マリアンが呆れた顔をした。
「もっと食べられそうなら仰ってくださいね」と目を潤ませていた以前とはえらい違いだ。
 それでもマリアンはもう一切れ出してくれた。

 正気を失っていた頃のことはあまり覚えていないアリシアだが、少しは覚えていることもあった。
 ただ夢の中の出来事のように薄っすらした記憶である。
 その記憶の中でレイヴンは、優しく髪を撫でてくれた。何度も「愛している」と囁いてくれた。
 そしてアシェントでアリシアを迎えてくれたマリアンは、痩せ細ったアリシアの姿に強いショックを受けて倒れそうになりながらも懸命に世話を焼いてくれていた。
 結局マリアンも、あんな痩せ細った姿より少しくらい太っていた方が良いと思っているのだ。

「お嬢様、今日はもうこれだけですよ。夕食の時間は変わりませんからね」

「わかってるわ。夕食も食べられるもの」

 アリシアの答えにマリアンは益々呆れた顔をする。
 顔を見合わせて同時に笑い出した。

 マリアンは今もアリシアを「お嬢様」と呼んでいる。
 それとなく注意したこともあるが、マリアンはレイヴンを認めていないらしい。

「元々お嬢様を大切にしない殿下は気に入らなかったんです!!それが少し大事にし始めたと思ったら、こんなことに……っ!やっぱりお嬢様の夫として相応しくありませんっ!!」

 そう言って怒りを露わにするマリアンにアリシアは諦めた。
 どうせ外部の者がいる時はきちんとしているのだ。それならばここにいる間だけは好きにさせても良いだろう。

 そんなアリシアの態度が伝わったのか、この邸にアリシアを「妃殿下」と呼ぶ者はいなかった。
 思いがけず許された束の間の自由時間である。



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