【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 6章

49 動揺

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 それから更に1週間が経ち、アリシアは悩みを抱えていた。
 なんだか太ったような気がするのだ。
 いや、全体的に丸みを帯びてきたというなら良い。だけど手足はまだまだ細いままだ。それなのに腹だけが出てきている。

 実は前々からそんな気はしていたのだ。
 だけど湯浴みを手伝う侍女たちは何も言わない。だからきっと気のせいなのだと思うようにしていた。
 だけど考えてみればそれは当然のことだ。使用人たちが主人に「お腹が出てきましたね」なんて言うはずがない。

「どうしましょう……。これじゃあレイヴン様に会えないわ……」

 レイヴンはこれから側妃を迎えることになる。
 美しい女性とレイヴンの寵を競い合わねばならないのに、こんな姿では幻滅されてしまう。

 痩せなければ。
 そう思うが、腹以外はまだ細いままなのだ。だからこそ余計に不格好なのである。
 全身に肉をつけながら、腹だけ痩せるように。
 そんな都合の良い方法があるのだろうか。

 最近はずっと食べ過ぎていたもの。マリアンが呆れた時にやめておけば良かったのよ……。

 今更後悔しても後の祭りである。
 療養中だからと、コルセットをつけずにふんわりしたワンピースばかり着ていたのも悪かったのかもしれない。
 こんな姿を見られたら、きっとレイヴンの気持ちは離れてしまう……。

「そんなの嫌よ……っ!どうすれば良いの……?」

 ぽろぽろと涙が溢れてくる。
 どうすれば良いのかわからないまま、アリシアは涙を流し続けた。





「お嬢様。私です、マリアンです。入りますよ」

 昼を過ぎた頃、マリアンはアリシアの寝室を訪れた。
「今日は体調が思わしくないから1日休むわ」「ゆっくり休みたいから、誰も寝室に入らないで」
 そんな言葉を信じて傍を離れていたが、そっとしておくにも限度がある。
 アリシアは朝も昼もまだ食べてないのだ。食欲がないとしても何かを食べてもらわなくてはならない。
 
 アリシアから入室を許可する言葉はなかったが、マリアンは扉を開けた。
 不敬だと怒られても仕方ないが、これまでの経験で許されるとわかっている。

 ベッドサイドまで来たマリアンはギョッとした。
 シーツを被ったアリシアが泣いているのだ。

「お、お嬢様っ?!どうなさったのですか?!」

 慌てたマリアンの言葉にアリシアは答えない。
 いやいや、と頭を振り、そのまま泣き続けた。





 王都の公爵邸にアシェントからの早馬が着いたのは、ちょうどレオナルドが帰宅した時だった。
 差し出された文に目を通したレオナルドが慌てて立ち上がる。

 文にはアリシアが寝室に籠って1日中泣いていると書かれていた。
 食事も最近は沢山食べていると聞いていたのに、また食べなくなってしまったらしい。
 
『何か嫌なことでも思い出してしまったのでしょうか』

 それを読むと居ても立ってもいられなかった。

「アシェントへ行ってくる」

 そう言うと、レオナルドは邸を飛び出した。
 周りの目を誤魔化すために、馬ではなく馬車を使わなくてはならない。
 それが酷くもどかしかった。

 アシェントまで馬で2日。
 早馬なら1日半で来ただろうか。

 アリシアは今も泣いているのかもしれない。
 逸る気持ちを抑えようと、レオナルドは両手を握り締めた。
 



 
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