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第2部 6章
51 吉報
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扉を叩く音がして、レイヴンはゆらりと顔を上げた。
すっかり痩せてしまった力ない動きは「ゆらり」という表現がぴったりである。
アリシアが王都を出て以来、アリシアの体調を案じながら淋しさに耐えていたレイヴンだったが、最近はまた出口のない悩みに取りつかれていた。
側妃は絶対に迎えたくない。アリシアをジェイに託すのも嫌だ。
それなら王太子位を降りるしかないと覚悟を決めたのに、アリシアは王太子妃としての職務を手放したくないようだ。
確かにアリシアが建てた医師の学校からは今年初めての生徒が巣立ち、各所で診療所を開いている。
これはアリシアが王太子妃として始めた初めての大事業だが、待望の医師を迎えた村人たちからの評判は鰻登りだ。それを一時的なものとはせず、また医師たちの不正が横行しないよう監督する体制も作り上げた。
成果を上げ出したばかりの施策を投げ出したくはないだろう。
レイヴンだってアリシアから王太子妃の地位を取り上げたくはない。
アリシアが王太子妃として相応しくある為にどれだけ努力しているのか痛い程理解している。
それではどうしたら良いのだろうか。
考えれば考えるほど思考は内に籠り、出口が見えなくなっていく。
最近はもう酒を飲んでもほとんど眠れることはなく、食事も喉を通らない。
やつれた体に生気のない顔。
レイヴンの目に留まろうと躍起になっていた令嬢たちもいつの間にか姿を消していた。舞踏会に出ていても皆遠巻きに見ているだけだ。
いっそ清々する、とレイヴンは思っていた。
レイヴンが入室を許可すると、入って来たのはアダムだった。
珍しいな、と思う。
公務の上で宰相であるアダムと顔を合わせることは当然あるが、アダムがレイヴンの執務室を訪れることはあまりなかった。何かあれば間にレオナルドを挟むのがいつものことである。
そこでレイヴンは、この数日レオナルドが休んでいることを思い出した。
緊急の用事で領地へ戻ると聞いているが、詳しいことは聞いていない。最近はレオナルドが領地へ戻ることも度々あったので深く考えずに休暇の許可を出していた。
レオナルドがいないから直接来たのだろうか。アダムはしかつめらしい顔をしている。
「人払いを」
一言告げられた言葉を怪訝に思いながらも、レイヴンは素直に従った。すぐにフランクが部屋を出ていく。
扉が閉まるのを待ってアダムがずいっと身を乗り出した。
「アリシアが懐妊致しました」
「………………………なに?」
「あちらにいるレオナルドから報せがありました。医師の診察も受け、間違いないと」
「ーーーーーーっ!!」
何かを考えるより先にレイヴンは駆け出していた。
アダムの慌てた声が追いかけてくる。それでもレイヴンは止まることなく厩舎に駆け込んだ。
「馬を用意しろ!!」
突然飛び込んできた王太子に厩舎係が驚いているが、それどころではない。
鞍が付けられるのを待つのももどかしく、引き出されてきた馬に飛び乗るとそのまま駆け出した。
慌てた騎士たちの声、止めようとする動き。それらを振り切るようにレイヴンは王宮内を駆け抜ける。
そもそも騎士たちが付いてきたらアリシアの居場所がバレてしまうではないか。
誰もついて来させてはいけないのだ。
そういえば、あの夢でもこんな場面があった。
だけど夢の中でレイヴンが向かったのは、王都の公爵邸だった。
レイヴンに愛想を尽かして出ていったアリシアを連れ戻そうと公爵邸へ駆けたのだ。
あの夢とは違う。
レイヴンが今向かっているのはアシェントの公爵邸である。
子を宿した妻に、会いに行くのだ。
レイヴンは脇目もふらずに街道を駆け抜けた。
すっかり痩せてしまった力ない動きは「ゆらり」という表現がぴったりである。
アリシアが王都を出て以来、アリシアの体調を案じながら淋しさに耐えていたレイヴンだったが、最近はまた出口のない悩みに取りつかれていた。
側妃は絶対に迎えたくない。アリシアをジェイに託すのも嫌だ。
それなら王太子位を降りるしかないと覚悟を決めたのに、アリシアは王太子妃としての職務を手放したくないようだ。
確かにアリシアが建てた医師の学校からは今年初めての生徒が巣立ち、各所で診療所を開いている。
これはアリシアが王太子妃として始めた初めての大事業だが、待望の医師を迎えた村人たちからの評判は鰻登りだ。それを一時的なものとはせず、また医師たちの不正が横行しないよう監督する体制も作り上げた。
成果を上げ出したばかりの施策を投げ出したくはないだろう。
レイヴンだってアリシアから王太子妃の地位を取り上げたくはない。
アリシアが王太子妃として相応しくある為にどれだけ努力しているのか痛い程理解している。
それではどうしたら良いのだろうか。
考えれば考えるほど思考は内に籠り、出口が見えなくなっていく。
最近はもう酒を飲んでもほとんど眠れることはなく、食事も喉を通らない。
やつれた体に生気のない顔。
レイヴンの目に留まろうと躍起になっていた令嬢たちもいつの間にか姿を消していた。舞踏会に出ていても皆遠巻きに見ているだけだ。
いっそ清々する、とレイヴンは思っていた。
レイヴンが入室を許可すると、入って来たのはアダムだった。
珍しいな、と思う。
公務の上で宰相であるアダムと顔を合わせることは当然あるが、アダムがレイヴンの執務室を訪れることはあまりなかった。何かあれば間にレオナルドを挟むのがいつものことである。
そこでレイヴンは、この数日レオナルドが休んでいることを思い出した。
緊急の用事で領地へ戻ると聞いているが、詳しいことは聞いていない。最近はレオナルドが領地へ戻ることも度々あったので深く考えずに休暇の許可を出していた。
レオナルドがいないから直接来たのだろうか。アダムはしかつめらしい顔をしている。
「人払いを」
一言告げられた言葉を怪訝に思いながらも、レイヴンは素直に従った。すぐにフランクが部屋を出ていく。
扉が閉まるのを待ってアダムがずいっと身を乗り出した。
「アリシアが懐妊致しました」
「………………………なに?」
「あちらにいるレオナルドから報せがありました。医師の診察も受け、間違いないと」
「ーーーーーーっ!!」
何かを考えるより先にレイヴンは駆け出していた。
アダムの慌てた声が追いかけてくる。それでもレイヴンは止まることなく厩舎に駆け込んだ。
「馬を用意しろ!!」
突然飛び込んできた王太子に厩舎係が驚いているが、それどころではない。
鞍が付けられるのを待つのももどかしく、引き出されてきた馬に飛び乗るとそのまま駆け出した。
慌てた騎士たちの声、止めようとする動き。それらを振り切るようにレイヴンは王宮内を駆け抜ける。
そもそも騎士たちが付いてきたらアリシアの居場所がバレてしまうではないか。
誰もついて来させてはいけないのだ。
そういえば、あの夢でもこんな場面があった。
だけど夢の中でレイヴンが向かったのは、王都の公爵邸だった。
レイヴンに愛想を尽かして出ていったアリシアを連れ戻そうと公爵邸へ駆けたのだ。
あの夢とは違う。
レイヴンが今向かっているのはアシェントの公爵邸である。
子を宿した妻に、会いに行くのだ。
レイヴンは脇目もふらずに街道を駆け抜けた。
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