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第2部 6章
59 非日常なひと時①
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昼食の後は庭園へ散歩に行く。
アリシアは体力をつけなければならないのでこの散歩を最近の日課としているが、体力が落ちているのはレイヴンも同じだった。
思えばよくここまで馬から落ちずにたどり着けたものだ。不思議な力が働いたとしか思えない。
ただこの日は散歩へ出る前にひと騒動あった。
商人がドレスを山ほど持って訪れたのだ。すべて妊婦用のドレスだった。
レオナルドが王都へ発つ前に発注していたのだろう。
確かに今はそれほど腹部も目立たないので元々持っている楽なワンピースで過ごせているが、すぐにそうはいかなくなる。赤子の成長に合わせてドレスを変えていかなくてはならないのだ。
「ごめん……」
レイヴンは項垂れた。
当然わかっているはずのことなのに、少しも思い浮かばずただ駆けて来たのだ。
アリシアや子の為になるものを何も用意していなかった。
「レイヴン様は知らせを聞いてすぐに駆けつけて下さったのでしょう?私、それが何より嬉しいですわ」
それにレイヴンが妊婦用のドレスを発注し、それをアシェントまで運ばせたらすぐに噂になってしまう。アリシアの居場所がバレるのも時間の問題だ。だからレオナルドはレイヴンに任せず自分で発注したのだろう。
ドレスを運んできたのはアシェントにあるロバートの商会の商人だった。
これでロバートにアリシアの居場所や懐妊が知られているのは確実となった。
ただこれはロバートが有事の際に必ずアリシアの味方になるという信頼に基づいた措置である。だからレオナルドは敢てロバートに知られるよう動いたのだ。
「こちらは我が商会の会頭から、妃殿下へ宛てた文でございます」
「……ロイ兄様はアシェントに?」
「はい。直接お会いすることは叶いませんが、何か力になれることがあれば遠慮せずに知らせて欲しい、とのことでございます」
さすがにロバートが経営する商会の商人だけあり礼儀がしっかりしている。
恭しく差し出された文を受け取り、アリシアは胸に抱いた。
「そう……。ありがとうございます、と伝えてちょうだい」
商人は深く辞儀をすると、静かに退出していった。
アリシアの懐妊がわかってからまだ数日しか経っていない。
それなのにロバートがアシェントにいるということは、独自の情報網でアリシアがアシェントにいると知って移ってきていたのだろう。
アリシアの状態をどこまで正確に掴んでいたのかわからないが、レオナルドからの協力要請があればいつでも力になれるよう態勢を整えていたのだ。
ここでもアリシアたち4人の絆の強さを思い知らされた心地だった。
「お嬢様。折角ドレスが届いたのですから、こちらに着替えてみませんか?」
マリアンが並べられた箱の中から柔らかな草色のドレスを出して見せている。
社交用のドレスではなく、あくまでプライベートで着る為のゆったりしたドレスだ。
「そうね……。着替えてこようかしら」
マリアンに応えながら、アリシアがレイヴンの顔を窺う。
レイヴンは頷いて、支度が終わるまでここで待っていると伝えた。
アリシアがマリアンと一緒にドレッシングルームへ移っていく。
その後ろ姿を見送って、レイヴンは溜息を吐いた。
マリアンは未だにアリシアを「お嬢様」と呼んでいる。
アリシアが注意をしても変えようとせず、レイヴンを「殿下」と敬って見せてもその視線は冷たく鋭い。
マリアンは今もレイヴンをアリシアの夫と認めたくないのだろう。
アリシアは体力をつけなければならないのでこの散歩を最近の日課としているが、体力が落ちているのはレイヴンも同じだった。
思えばよくここまで馬から落ちずにたどり着けたものだ。不思議な力が働いたとしか思えない。
ただこの日は散歩へ出る前にひと騒動あった。
商人がドレスを山ほど持って訪れたのだ。すべて妊婦用のドレスだった。
レオナルドが王都へ発つ前に発注していたのだろう。
確かに今はそれほど腹部も目立たないので元々持っている楽なワンピースで過ごせているが、すぐにそうはいかなくなる。赤子の成長に合わせてドレスを変えていかなくてはならないのだ。
「ごめん……」
レイヴンは項垂れた。
当然わかっているはずのことなのに、少しも思い浮かばずただ駆けて来たのだ。
アリシアや子の為になるものを何も用意していなかった。
「レイヴン様は知らせを聞いてすぐに駆けつけて下さったのでしょう?私、それが何より嬉しいですわ」
それにレイヴンが妊婦用のドレスを発注し、それをアシェントまで運ばせたらすぐに噂になってしまう。アリシアの居場所がバレるのも時間の問題だ。だからレオナルドはレイヴンに任せず自分で発注したのだろう。
ドレスを運んできたのはアシェントにあるロバートの商会の商人だった。
これでロバートにアリシアの居場所や懐妊が知られているのは確実となった。
ただこれはロバートが有事の際に必ずアリシアの味方になるという信頼に基づいた措置である。だからレオナルドは敢てロバートに知られるよう動いたのだ。
「こちらは我が商会の会頭から、妃殿下へ宛てた文でございます」
「……ロイ兄様はアシェントに?」
「はい。直接お会いすることは叶いませんが、何か力になれることがあれば遠慮せずに知らせて欲しい、とのことでございます」
さすがにロバートが経営する商会の商人だけあり礼儀がしっかりしている。
恭しく差し出された文を受け取り、アリシアは胸に抱いた。
「そう……。ありがとうございます、と伝えてちょうだい」
商人は深く辞儀をすると、静かに退出していった。
アリシアの懐妊がわかってからまだ数日しか経っていない。
それなのにロバートがアシェントにいるということは、独自の情報網でアリシアがアシェントにいると知って移ってきていたのだろう。
アリシアの状態をどこまで正確に掴んでいたのかわからないが、レオナルドからの協力要請があればいつでも力になれるよう態勢を整えていたのだ。
ここでもアリシアたち4人の絆の強さを思い知らされた心地だった。
「お嬢様。折角ドレスが届いたのですから、こちらに着替えてみませんか?」
マリアンが並べられた箱の中から柔らかな草色のドレスを出して見せている。
社交用のドレスではなく、あくまでプライベートで着る為のゆったりしたドレスだ。
「そうね……。着替えてこようかしら」
マリアンに応えながら、アリシアがレイヴンの顔を窺う。
レイヴンは頷いて、支度が終わるまでここで待っていると伝えた。
アリシアがマリアンと一緒にドレッシングルームへ移っていく。
その後ろ姿を見送って、レイヴンは溜息を吐いた。
マリアンは未だにアリシアを「お嬢様」と呼んでいる。
アリシアが注意をしても変えようとせず、レイヴンを「殿下」と敬って見せてもその視線は冷たく鋭い。
マリアンは今もレイヴンをアリシアの夫と認めたくないのだろう。
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