649 / 697
第2部 6章
77 クロウの侍女頭
しおりを挟む
わいわいとした雰囲気の中、話がクロウ付きの侍女の話になった。
出産に先立ち、クロウに仕える侍女やメイドは選んである。だけど責任者となる侍女頭がまだ決められていなかった。
時としてレイヴンもアリシアも公務で不在になる時がある。そんな時に安心して任せられる人物が良い。主としてクロウの世話をする乳母が今も隅で控えているが、乳母とはまた違う使用人の責任者だ。
今は信用できる者として、アリシアの侍女であるジーナを一時的に異動させていた。だけどアリシアとしてはいずれ自分の侍女へ戻したいと思っている。
国王やマルグリットもアリシアの権限の範疇なので口出ししないが、孫に仕える責任者なので誰を任命するのか気になっているようだ。
いつまでも決まらないのもまたあらぬ噂を招く。
「妃殿下、僭越ながらよろしいでしょうか」
そんな中で声を上げたのはエレノアだった。
エレノアは普段決して主一家の話に口を挟んだりしない。アリシアは驚いたが、それだけ重要な話があるのだろうと聞くことにした。
アリシアが話すように促すと、エレノアは頭を深く下げてから口を開く。
「殿下の侍女頭として、推薦したい者がいるのです。実はその者を今日呼んでおりまして……」
「まあ!」
アリシアは目を見開いた。
王太子宮で働く者に、訪問者との面会を認めている応接間がある。そこで待たせているというのだ。
「……信頼できる者なの?」
「それは間違いありません。お目通りいただければ、妃殿下にもご納得いただけると存じます」
アリシアはレイヴンと目を見かわした。
エレノアがここまで言うのだから、よほど信頼できる者なのだろう。アリシアが知る人物かもしれない。
それに国王や王妃も集まるこの場に、謂わば許可なく呼んでいるのだ。場合によっては不興を買い、エレノア自身が罷免されるかもしれない。
そんな危険を冒しても推薦したい人物なのだろうか。
アリシアと視線を合わせていたレイヴンが頷くとエレノアに向き直る。
「……良いだろう。ここへ呼ぶといい」
「ありがとうございます!」
エレノアが顔を輝かせた。
すぐに応接間へ人を遣り、客人を呼ぶよう指示を出す。
それ程待つことなく扉が叩かれ、客人の到着を告げられた。
レイヴンが許可を出し、扉が開かれる。
その向こうにいる人物が見えた瞬間、アリシアは声を上げていた。
「マリアン?!」
マリアンだった。
王領の城で別れたきりの、公爵家の侍女である。
だけどマリアンは貴族の生まれではなく、王宮に入ることはできないはずだ。
「マリアンがどうしてここに……」
呆然とするアリシアに、マリアンが綺麗なカテーシーをした。
良く見慣れた、ルトビア公爵家の教えを受けたカテーシーである。
「リンメル子爵家の五女、マリアンと申します」
「……リンメル子爵家?」
「実は先日、父が養女を迎えまして」
答えたのはエレノアだった。
確かにリンメル子爵家はエレノアの生家である。エレノアはリンメル子爵家の四女なのだ。
つまりエレノアは義妹を侍女頭として推薦したことになる。
だけど……、養女?
アリシアがレオナルドへ視線を向けると、レオナルドは笑って肩を竦めた。アダムとオレリアも楽しそうに笑っている。ルトビア公爵家の者は皆知っていたということだ。
いや、子爵家の養女になったのなら、今はもう公爵邸で勤めていないのかもしれない。
「……マリアン嬢、のことは、僕も知っている。確かに信頼できる人物だろう」
アリシアと同じく呆然としていたレイヴンだったが、アリシアより先に気を取り直したようだ。訳がわからないまま見守る国王やマルグリットへ頷いて見せている。
2人の視線を受けてアリシアも頷いた。
「……公爵家での、私の侍女でございます」
「まあ、まあ、まあ!」
声を上げたのはマルグリットだ。
マルグリットも、レイヴンがアリシアの侍女頭にルトビア公爵家の侍女を据えようとしていたことを知っている。
だけどその侍女は貴族の生まれではなく、王宮に連れてくることができなかったのだ。
その侍女が子爵家の養女になったのなら、王宮で勤めることができる。
信頼できるというのも、アリシアに忠誠を誓っているのも本当だろう。
「だけど……、何故養女に?」
まだ上手く飲み込めないのはアリシアだ。
確かにマリアンの生家は爵位を持っていない。
だけど公爵家一族の重鎮として財政を支える重要な役割を担っている。マリアンはそんな家の生まれであることに誇りを持っていた。
アリシアが嫁ぐ時も、どこかの家の養女となってついてくるという話もあった。分家筋の子爵家や男爵家なら喜んで養女に迎えただろう。
だけどマリアンがそれを望んでいないと知っていたから、アリシアは何も言わずに嫁いだのである。
今更アリシアやその子に仕える為に、養女に入ったというのだろうか。
「それについてですが、わたしも1人、客人を呼んでもよろしいでしょうか?」
片手を挙げ、応えたのはレオナルドだった。
どうやら他にも隠し事があるらしい。
レイヴンが許可を出すと、エレノアが客人を呼ぶよう指示を出す。
すっかり共犯者のようである。
出産に先立ち、クロウに仕える侍女やメイドは選んである。だけど責任者となる侍女頭がまだ決められていなかった。
時としてレイヴンもアリシアも公務で不在になる時がある。そんな時に安心して任せられる人物が良い。主としてクロウの世話をする乳母が今も隅で控えているが、乳母とはまた違う使用人の責任者だ。
今は信用できる者として、アリシアの侍女であるジーナを一時的に異動させていた。だけどアリシアとしてはいずれ自分の侍女へ戻したいと思っている。
国王やマルグリットもアリシアの権限の範疇なので口出ししないが、孫に仕える責任者なので誰を任命するのか気になっているようだ。
いつまでも決まらないのもまたあらぬ噂を招く。
「妃殿下、僭越ながらよろしいでしょうか」
そんな中で声を上げたのはエレノアだった。
エレノアは普段決して主一家の話に口を挟んだりしない。アリシアは驚いたが、それだけ重要な話があるのだろうと聞くことにした。
アリシアが話すように促すと、エレノアは頭を深く下げてから口を開く。
「殿下の侍女頭として、推薦したい者がいるのです。実はその者を今日呼んでおりまして……」
「まあ!」
アリシアは目を見開いた。
王太子宮で働く者に、訪問者との面会を認めている応接間がある。そこで待たせているというのだ。
「……信頼できる者なの?」
「それは間違いありません。お目通りいただければ、妃殿下にもご納得いただけると存じます」
アリシアはレイヴンと目を見かわした。
エレノアがここまで言うのだから、よほど信頼できる者なのだろう。アリシアが知る人物かもしれない。
それに国王や王妃も集まるこの場に、謂わば許可なく呼んでいるのだ。場合によっては不興を買い、エレノア自身が罷免されるかもしれない。
そんな危険を冒しても推薦したい人物なのだろうか。
アリシアと視線を合わせていたレイヴンが頷くとエレノアに向き直る。
「……良いだろう。ここへ呼ぶといい」
「ありがとうございます!」
エレノアが顔を輝かせた。
すぐに応接間へ人を遣り、客人を呼ぶよう指示を出す。
それ程待つことなく扉が叩かれ、客人の到着を告げられた。
レイヴンが許可を出し、扉が開かれる。
その向こうにいる人物が見えた瞬間、アリシアは声を上げていた。
「マリアン?!」
マリアンだった。
王領の城で別れたきりの、公爵家の侍女である。
だけどマリアンは貴族の生まれではなく、王宮に入ることはできないはずだ。
「マリアンがどうしてここに……」
呆然とするアリシアに、マリアンが綺麗なカテーシーをした。
良く見慣れた、ルトビア公爵家の教えを受けたカテーシーである。
「リンメル子爵家の五女、マリアンと申します」
「……リンメル子爵家?」
「実は先日、父が養女を迎えまして」
答えたのはエレノアだった。
確かにリンメル子爵家はエレノアの生家である。エレノアはリンメル子爵家の四女なのだ。
つまりエレノアは義妹を侍女頭として推薦したことになる。
だけど……、養女?
アリシアがレオナルドへ視線を向けると、レオナルドは笑って肩を竦めた。アダムとオレリアも楽しそうに笑っている。ルトビア公爵家の者は皆知っていたということだ。
いや、子爵家の養女になったのなら、今はもう公爵邸で勤めていないのかもしれない。
「……マリアン嬢、のことは、僕も知っている。確かに信頼できる人物だろう」
アリシアと同じく呆然としていたレイヴンだったが、アリシアより先に気を取り直したようだ。訳がわからないまま見守る国王やマルグリットへ頷いて見せている。
2人の視線を受けてアリシアも頷いた。
「……公爵家での、私の侍女でございます」
「まあ、まあ、まあ!」
声を上げたのはマルグリットだ。
マルグリットも、レイヴンがアリシアの侍女頭にルトビア公爵家の侍女を据えようとしていたことを知っている。
だけどその侍女は貴族の生まれではなく、王宮に連れてくることができなかったのだ。
その侍女が子爵家の養女になったのなら、王宮で勤めることができる。
信頼できるというのも、アリシアに忠誠を誓っているのも本当だろう。
「だけど……、何故養女に?」
まだ上手く飲み込めないのはアリシアだ。
確かにマリアンの生家は爵位を持っていない。
だけど公爵家一族の重鎮として財政を支える重要な役割を担っている。マリアンはそんな家の生まれであることに誇りを持っていた。
アリシアが嫁ぐ時も、どこかの家の養女となってついてくるという話もあった。分家筋の子爵家や男爵家なら喜んで養女に迎えただろう。
だけどマリアンがそれを望んでいないと知っていたから、アリシアは何も言わずに嫁いだのである。
今更アリシアやその子に仕える為に、養女に入ったというのだろうか。
「それについてですが、わたしも1人、客人を呼んでもよろしいでしょうか?」
片手を挙げ、応えたのはレオナルドだった。
どうやら他にも隠し事があるらしい。
レイヴンが許可を出すと、エレノアが客人を呼ぶよう指示を出す。
すっかり共犯者のようである。
1
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる