【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 6章

78 密か事①

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 扉はまたすぐに叩かれた。
 レイヴンが許可を出し、扉が開かれる。

「ロイ兄様……」

 レオナルドが呼んだのはロバートだった。
 ロバートはアリシアの従兄であり、これまでの関係を考えれば祝いの席に駆けつけてもおかしくない。国王夫妻が臨席する席ではあるが、国王はロバートを身近に置きたがっているので寧ろ嬉しそうである。
 だけどマリアンとの繋がりがわからない。

「殿下、妃殿下、ご無沙汰をしておりました。また皆様、このような席に突然お邪魔を致しまして申し訳ございません」

 ロバートが優雅に頭を下げる。
 突然来訪した無礼を詫びるが、ルトビア公爵家側は皆知っていたのだ。形として謝罪を聞いているが、アダムもオレリアも楽しそうに見える。

「年が明けた頃でしょうか。モルガン子爵…、ロバートより相談を受けまして。当家の侍女であるマリアンと婚約を結びたい、と」

「婚約?!」

「マリアンとロイ兄様が?!」

 レオナルドの言葉にレイヴンとアリシアが同時に声を上げた。
 考えもしなかったことである。

 確かにアリシアはマリアンともロバートとも親しかった。よく一緒に遊んだ思い出がある。
 だけどマリアンと遊んでいたのは領地に帰っている時で、ライアンはルトビア公爵家と距離を置いているのでロバートが公爵領に来たことはない。王都に来たマリアンがロバートと顔を合わせることはあったが、その時にはもうアリシアの侍女となっていたので一緒に遊ぶことはなかった。
 軽々しい立場の相手として侍女に手を出す者もいるが、ロバートはそういったことを嫌う質だ。

「実は昨年から度々ロバート様と文を交わすことがありました。初めの内は本当に必要なことをやり取りするだけだったのですが、いつの頃からか少しずつ悩み事や心配事を聞いていただくようになって……。いけないことだと思いながら、惹かれてしまっていたのです」

 それまで静かに控えていたマリアンが口を開いた。
 言葉を濁しているのは、文のやり取りを始める切っ掛けとなったのがアリシアの療養だからだろう。ここにはアリシアがアシェントにいたことを知らない者もいる。

 確かにあの頃は、何度もロバートからお菓子が届いたり茶葉が届いたりしていた。寝付いたアリシアに代わってマリアンが受け取りと礼の文を書いていたのは容易に想像がつく。そのマリアンに対して、労りや労いの文があったのかもしれない。
 レオナルドがロバートにアリシアの状態を教えていたとは思わないが、ロバートが独自のルートで情報を掴んでいるのはわかっていた。その中でアリシアに忠誠を誓うマリアンが心を痛めていることも知っていたのだろう。実際アリシアが正気を取り戻した時、泣いて喜ぶマリアンは随分細くなっていた。

 アリシアが王領マリブへ移った後もそうだ。
 アリシアの回復と懐妊を心から喜んでくれていたが、それだけで全て安心というわけではない。どこかで無理がたたっていないか、体調を崩していないかと気が気ではなかっただろう。特に王領マリブへ移った後は、アリシアや子に何かあってもマリアンにはわからないのだ。

 そんな不安を話せる相手はロバートしかいなかったのだろう。
 他の使用人たちもアリシアを案じてくれていたけれど、それだけに不吉なことは口にできない空気があった。
 レオナルドはロバートへアリシアの懐妊を伝えていたので、何か情報を得られないかと打算もあったのかもしれない。

 だけどマリアンにどんな思惑があったとしても、アリシアを案じていることは事実である。
 そしてそれはロバートも同じだった。
 同じ不安や恐怖を抱えた2人が、気持ちを共有することで惹かれ合ったとしてもおかしくない。
 
「わたしもマリアンのことは以前から知っていましたが、そういった意味で意識したことはありませんでした。ですがこの数か月、事務的なことから個人的なことまで文を交わすようになり、その人柄に惹かれたのです。彼女が献身的な想いを向ける、その1人にわたしも入りたいと」

 ロバートがマリアンへ向ける視線には愛情が籠っていた。
 マリアンが恥ずかしそうに視線を伏せる。だけどその頬は薔薇色に色づいていて、口元が綻んでいる。
 そんな幸せそうなマリアンを見て、アリシアは震えるような喜びを感じていた。



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