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第2部 6章
82 宝物①
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湯浴みを終えて寝室へ入ったレイヴンはピシリと固まった。
いつもと同じ寝室なのに、いつもと違う空間になっている。
部屋の中には仄かに甘い香が焚かれ、いつもは戸棚に仕舞われているワインとグラスが用意されている。
そして天蓋付きのベッドには紗のカーテンが掛けられ、その向こうに女性の姿があった。
王太子宮の侍女が他の女性の手引きをするはずがない。
ということは、あそこで待っているのはアリシアである。
そしてこの演出が何を表しているのか、流石のレイヴンにも察せられた。
これは不味い。
アリシアの希望を察しただけで、体の中心に熱が集まってくる。
そもそもアリシアを抱いたのは、アリシアがキトラへ向かう前だ。あれからもう1年以上が経っている。
最近アリシアが求めていることを、レイヴンは気がついていた。
レイヴンだってアリシアを求めている。
アリシアが懐妊している時は、そしてクロウを生んでからも、しばらくは処理をする手伝いをしてくれていた。だけどアリシアが求める素振りを見せるようになってからは、処理をしてもらうわけにはいかずに浴室で1人で慰めていた。
だけどそんなことで本当に満足できるはずがない。
「レイヴン様……?」
ベッドでレイヴンを待っていたアリシアは、レイヴンが寝室へ入って来たことに気がついていた。
だけどレイヴンが動く様子はなく、近づいてきた気配もない。
レイヴンはどうしてしまったのか。アリシアは意を決して姿を隠すカーテンを持ち上げた。
「あ、アリシア……」
レイヴンはアリシアの姿を見てビクリと体を震わせる。
その瞬間アリシアは後悔した。
レイヴンはアリシアを抱きたいと思っていないのだ。
アリシアがこのまま迫ればきっと抱いてくれるだろう。だけどそれはレイヴンが望んですることではない。
望まれていないのにこんな姿で待っているなんて、まるで娼婦になったようだ。
アリシアはカッと顔に熱が集まるのを感じて目を伏せた。
「申し訳ありません……」
小さな声で謝ると、カーテンの中へ身を隠そうとする。
そこで慌てたのはレイヴンだ。
アリシアが勘違いしたことは容易に想像がつく。
「待って、アリシア!嫌な訳じゃないんだ!!」
レイヴンは慌てて駆け寄ると、しょんぼり俯いてしまったアリシアを抱き締めた。
アリシアの身体は硬く強張っていて、レイヴンに拒絶されたと思い込んでいるとわかる。
「ごめん、アリシア……っ!本当に違うんだ……っ」
「良いのです。お気になさらないで下さい」
アリシアから出る弱々しい声は完全に諦めのものだ。
このままでは誤解されたまま、二度と閨は受け入れて貰えないだろう。
そう思ったレイヴンは恐る恐る口を開いた。
「アリシアを抱きたくない訳じゃないよ。寧ろ凄く抱きたい。ずっと我慢してたんだ!だけどアリシアを抱いたら、子ができるかもしれないだろう……?」
「え……?」
ぽかんとして見上げるアリシアからレイヴンは視線を逸らす。
アリシアが次の子を望んでいるのはわかっているのだ。
だけど。
「クロウを生む時、アリシアは凄く辛そうだった。アリシアがあんな痛い思いをするなんて、知らなかったんだ……っ!」
あの時のことを思い出すとレイヴンは今でも恐ろしくなる。
痛み苦しむアリシアの為に、レイヴンは何もすることができなかった。
アリシアに辛い思いはさせたくない。そう思っているのに、アリシアは子を生む度にあんな思いをしなければならないのだ。
レイヴンもスペアとなる王子が求められることはわかっている。
側妃を娶るつもりがない以上、少なくともあと1人は生んでもらわなければならない。
だけど出産の度にアリシアが苦しむのかと思うと、積極的に子を作ろうとは思えなかった。
「アリシアに辛い思いはさせたくない。僕たちにはクロウがいる。クロウだけで十分だよ。ジェイだってこれから結婚して子を作るだろうし……」
辛そうに顔を歪めるレイヴンをアリシアは呆然として見ていた。
レイヴンがまさかそんなことを考えているなんて、思っていなかったのだ。
いつもと同じ寝室なのに、いつもと違う空間になっている。
部屋の中には仄かに甘い香が焚かれ、いつもは戸棚に仕舞われているワインとグラスが用意されている。
そして天蓋付きのベッドには紗のカーテンが掛けられ、その向こうに女性の姿があった。
王太子宮の侍女が他の女性の手引きをするはずがない。
ということは、あそこで待っているのはアリシアである。
そしてこの演出が何を表しているのか、流石のレイヴンにも察せられた。
これは不味い。
アリシアの希望を察しただけで、体の中心に熱が集まってくる。
そもそもアリシアを抱いたのは、アリシアがキトラへ向かう前だ。あれからもう1年以上が経っている。
最近アリシアが求めていることを、レイヴンは気がついていた。
レイヴンだってアリシアを求めている。
アリシアが懐妊している時は、そしてクロウを生んでからも、しばらくは処理をする手伝いをしてくれていた。だけどアリシアが求める素振りを見せるようになってからは、処理をしてもらうわけにはいかずに浴室で1人で慰めていた。
だけどそんなことで本当に満足できるはずがない。
「レイヴン様……?」
ベッドでレイヴンを待っていたアリシアは、レイヴンが寝室へ入って来たことに気がついていた。
だけどレイヴンが動く様子はなく、近づいてきた気配もない。
レイヴンはどうしてしまったのか。アリシアは意を決して姿を隠すカーテンを持ち上げた。
「あ、アリシア……」
レイヴンはアリシアの姿を見てビクリと体を震わせる。
その瞬間アリシアは後悔した。
レイヴンはアリシアを抱きたいと思っていないのだ。
アリシアがこのまま迫ればきっと抱いてくれるだろう。だけどそれはレイヴンが望んですることではない。
望まれていないのにこんな姿で待っているなんて、まるで娼婦になったようだ。
アリシアはカッと顔に熱が集まるのを感じて目を伏せた。
「申し訳ありません……」
小さな声で謝ると、カーテンの中へ身を隠そうとする。
そこで慌てたのはレイヴンだ。
アリシアが勘違いしたことは容易に想像がつく。
「待って、アリシア!嫌な訳じゃないんだ!!」
レイヴンは慌てて駆け寄ると、しょんぼり俯いてしまったアリシアを抱き締めた。
アリシアの身体は硬く強張っていて、レイヴンに拒絶されたと思い込んでいるとわかる。
「ごめん、アリシア……っ!本当に違うんだ……っ」
「良いのです。お気になさらないで下さい」
アリシアから出る弱々しい声は完全に諦めのものだ。
このままでは誤解されたまま、二度と閨は受け入れて貰えないだろう。
そう思ったレイヴンは恐る恐る口を開いた。
「アリシアを抱きたくない訳じゃないよ。寧ろ凄く抱きたい。ずっと我慢してたんだ!だけどアリシアを抱いたら、子ができるかもしれないだろう……?」
「え……?」
ぽかんとして見上げるアリシアからレイヴンは視線を逸らす。
アリシアが次の子を望んでいるのはわかっているのだ。
だけど。
「クロウを生む時、アリシアは凄く辛そうだった。アリシアがあんな痛い思いをするなんて、知らなかったんだ……っ!」
あの時のことを思い出すとレイヴンは今でも恐ろしくなる。
痛み苦しむアリシアの為に、レイヴンは何もすることができなかった。
アリシアに辛い思いはさせたくない。そう思っているのに、アリシアは子を生む度にあんな思いをしなければならないのだ。
レイヴンもスペアとなる王子が求められることはわかっている。
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だけど出産の度にアリシアが苦しむのかと思うと、積極的に子を作ろうとは思えなかった。
「アリシアに辛い思いはさせたくない。僕たちにはクロウがいる。クロウだけで十分だよ。ジェイだってこれから結婚して子を作るだろうし……」
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レイヴンがまさかそんなことを考えているなんて、思っていなかったのだ。
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