664 / 697
第2部 6章
92 旧友①
しおりを挟む
2度目の結婚式を行うと決めた数日後、マルセルが王太子宮を訪れた。
来訪を告げるフランクの言葉に、アリシアは驚いてレイヴンを見る。学生時代あんなに一緒に過ごしていたのに、マルセルが王太子宮を訪れるのはこれが初めてだった。
それはレイヴンがマルセルを避けていたからだ。
学生時代、アリシアはマルセルを想っていた。
アリシアがそれを表に出すことはなかったし、その気持ちも既に昇華されてしまったようだが、それでもレイヴンは2人が一緒のところを見ると昔の気持ちが蘇って不安になってしまう。
だからマルセルは優秀な成績で学園を卒業し、かつ「王太子のご学友」という立場を得ながらも、レイヴンの側近に取り立てられていなかった。
最もマルセルは元から貴族議員になりたいと望んでいたようで活き活きと活動している。
たまに議会で見かけるその姿が眩しく感じられて、またアリシアに近づけたくないと思ってしまうのだ。
だけどレイヴンはこの数年の内に考えを変えていた。
それはアリシアがレイヴンを思ってくれていると、自信が持てるようになったからかもしれない。
だからレイヴンは数日前、ある話をする為にマルセルを執務室へ呼び出していた。今日はその返答を持ってきてくれたのだ。
「僕の部屋で会う。……アリシアも来てくれる?」
「……はい」
それでもアリシアの部屋に入れたくないと思ってしまうのは仕方がない。
レイヴンが手を差し出すとアリシアは躊躇いながらその手を取った。
レイヴンがマルセルと会うのを嫌がると知っているので本当に同席して良いのか悩んでいるようだ。
「大丈夫だよ。それに今後はよく顔を出すようになると思う」
「……え?」
アリシアが怪訝な顔をする。
レイヴンはそれに答えず、意味ありげに笑うと自室へ向かった。
「マルセル、よく来てくれた」
「王太子殿下、妃殿下。本日は突然お邪魔しまして申し訳ございません」
「構わない。いつでも来てくれと言ったのは僕だ。楽にして良い」
レイヴンの言葉に合わせてマルセルが頭を上げる。
そのやり取りだけでアリシアは2人の間で何か約束があったとわかっただろう。内心では驚いているだろうが、それを見せずに優雅に微笑む。
「こうしてお話するのは随分と久しぶりですね」
「はい。ご無沙汰をしてしまい、申し訳ございません」
そうしてアリシアとマルセルは当たり障りなく挨拶を交わす。
その後3人はソファで向かい合い、久しぶりの会話を楽しんだ。
マルセルが本題を切り出したのは、1杯目のお茶がなくなろうとする頃だった。
「ところで殿下。あのお話ですが、お受けしようと思います」
「そうか!それは有難い」
「そんなことをおっしゃいますが、わたしの答えはわかっていたでしょう?」
レイヴンとマルセルが顔を見合わせ笑みを交わす。
レイヴンもマルセルと3年間一緒に過ごした友人なのだ。気が合うから3年間一緒にいられた。例えアリシアの気持ちを奪った恋敵でも、だ。
だからこうして話せるのはやはり嬉しい。
「何のお話です?」
1人だけわからないのがアリシアだ。
笑い合う2人をきょとんとした顔で見ている。
アリシアがその目にマルセルを映していても、もう胸は痛まない。
そのことにホッとしながらレイヴンは口を開いた。
「マルセルに側近として仕えてもらえないか打診していたんだ」
来訪を告げるフランクの言葉に、アリシアは驚いてレイヴンを見る。学生時代あんなに一緒に過ごしていたのに、マルセルが王太子宮を訪れるのはこれが初めてだった。
それはレイヴンがマルセルを避けていたからだ。
学生時代、アリシアはマルセルを想っていた。
アリシアがそれを表に出すことはなかったし、その気持ちも既に昇華されてしまったようだが、それでもレイヴンは2人が一緒のところを見ると昔の気持ちが蘇って不安になってしまう。
だからマルセルは優秀な成績で学園を卒業し、かつ「王太子のご学友」という立場を得ながらも、レイヴンの側近に取り立てられていなかった。
最もマルセルは元から貴族議員になりたいと望んでいたようで活き活きと活動している。
たまに議会で見かけるその姿が眩しく感じられて、またアリシアに近づけたくないと思ってしまうのだ。
だけどレイヴンはこの数年の内に考えを変えていた。
それはアリシアがレイヴンを思ってくれていると、自信が持てるようになったからかもしれない。
だからレイヴンは数日前、ある話をする為にマルセルを執務室へ呼び出していた。今日はその返答を持ってきてくれたのだ。
「僕の部屋で会う。……アリシアも来てくれる?」
「……はい」
それでもアリシアの部屋に入れたくないと思ってしまうのは仕方がない。
レイヴンが手を差し出すとアリシアは躊躇いながらその手を取った。
レイヴンがマルセルと会うのを嫌がると知っているので本当に同席して良いのか悩んでいるようだ。
「大丈夫だよ。それに今後はよく顔を出すようになると思う」
「……え?」
アリシアが怪訝な顔をする。
レイヴンはそれに答えず、意味ありげに笑うと自室へ向かった。
「マルセル、よく来てくれた」
「王太子殿下、妃殿下。本日は突然お邪魔しまして申し訳ございません」
「構わない。いつでも来てくれと言ったのは僕だ。楽にして良い」
レイヴンの言葉に合わせてマルセルが頭を上げる。
そのやり取りだけでアリシアは2人の間で何か約束があったとわかっただろう。内心では驚いているだろうが、それを見せずに優雅に微笑む。
「こうしてお話するのは随分と久しぶりですね」
「はい。ご無沙汰をしてしまい、申し訳ございません」
そうしてアリシアとマルセルは当たり障りなく挨拶を交わす。
その後3人はソファで向かい合い、久しぶりの会話を楽しんだ。
マルセルが本題を切り出したのは、1杯目のお茶がなくなろうとする頃だった。
「ところで殿下。あのお話ですが、お受けしようと思います」
「そうか!それは有難い」
「そんなことをおっしゃいますが、わたしの答えはわかっていたでしょう?」
レイヴンとマルセルが顔を見合わせ笑みを交わす。
レイヴンもマルセルと3年間一緒に過ごした友人なのだ。気が合うから3年間一緒にいられた。例えアリシアの気持ちを奪った恋敵でも、だ。
だからこうして話せるのはやはり嬉しい。
「何のお話です?」
1人だけわからないのがアリシアだ。
笑い合う2人をきょとんとした顔で見ている。
アリシアがその目にマルセルを映していても、もう胸は痛まない。
そのことにホッとしながらレイヴンは口を開いた。
「マルセルに側近として仕えてもらえないか打診していたんだ」
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる