【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 6章

93 旧友②

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「えっ……?!」

 アリシアが驚くと、マルセルが不思議そうな顔をする。

「おや、妃殿下には秘密でしたか」

「驚かせようと思ったんだよ」

 レイヴンとマルセルが顔を見合わせ笑い合う。
 それは教室でふざけて笑い合っていた頃と同じ表情だった。

「ごめんね、アリシア。きちんと説明すると、やっぱり側近がレオナルド1人だけじゃ少なすぎるんだ。執務はこれからも増えていくし、ルトビア公爵家に権力が集中するというのも間違いじゃない」

 そこでアリシアは思い出した。
 議会は「王家がルトビア公爵家ばかりを優遇している」と言って、レイヴンに公爵家の対立派閥から側妃を娶るよう要求していた。だけどその話はレイヴンが体調を崩したこと、そしてアリシアが王子を生んだことで一時中断している。
 その間にノティスとジェーンの婚約が発表された。
 キャンベル侯爵家は紛れもなくルトビア公爵派閥だ。「また王家はルトビア公爵家を…」という声が出たのも無理のない話だった。

「ですが、議会はコリンズ伯爵家もルトビア公爵派だと……」

 実際のコリンズ伯爵家はどちらの派閥にも属していない中立派だ。
 だけど議会は次期伯爵であるマルセルが学生時代レイヴンやアリシアと親しかったのでルトビア公爵派と変わらないと主張していた。レイヴンに何とかして側妃を迎えさせようというこじつけだが、側妃を諦めていない貴族たちが納得するとは思えない。

「議会の連中が何と言ってもコリンズ伯爵家は中立派ですよ。少なくとも表向きは…ね」

 マルセルが黒い笑みを浮かべる。
 同じ議員であるマルセルにも議会のやり方には思うことがあるようだ。

「殿下や妃殿下と親しいことでルトビア公爵派と変わらないと言うのなら、本当に公爵派に移ろうかと思いまして」

 あの騒動の間中マルセルは議会の中で居心地の悪い思いをしていた。
 公爵派に属している事実はなく、その恩恵を受けていないのに公爵派として扱われて意見を受け入れられない。マルセルが不当に優遇されて今の地位を築いたと信じる者も出て来て嫌味や当て擦りを言われる。
 それくらいなら本当に公爵派になってやろうと思ったのだ。

 だけど表向きはこれまで通り中立派である。
 中立派の振りをしながら、所々でルトビア公爵家の有利になるように動く。法案を通す時、また反対する時など、コリンズ伯爵家は今後ルトビア公爵家の意向に従うことを決めた。
 既にルトビア公爵家とは話をつけ、アダムやレオナルドには挨拶済みだという。
 この分ではコリンズ伯爵が引退するのも早そうだ。

「次の春で任期が開けます。そこで議員生活には見切りをつけ、殿下の元でお世話になろうかと」

 アリシアは頷いた。
 アリシアは以前からマルセルにレイヴンの側近となって、レオナルドと共にレイヴンを支えて欲しいと思っていたのだ。
 だけどアリシアの過去の想いが邪魔になって実現していなかった。
 2人の間に蟠りがないのなら願ってもない話である。

 レイヴンとマルセルはがっちり握手を交わした。
 その後マルセルはクロウに会い、しばらく遊び相手を務めてから帰っていった。
 既に二児の父になっているマルセルは赤子の扱いが上手く、クロウはすっかり気に入ったようだ。
 その平和な光景にアリシアはホッと胸を撫でおろした。



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