【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 6章

100 2度目の挙式

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 季節はゆるゆると変わっていく。
 冬になる頃にはカナリーから懐妊の報せがあり、王宮中が喜びに湧いた。
 年が変わるとアリシアは今年もレイヴンと一緒にマルグリット主催の宴に出席した。ノティスが参加する最後の宴だ。
 こうして宴の参加者は少しずつ減っていき、国王の孫は増えていく。

 宴でクロウはアイドルだった。普段は関わりのない側妃の子どもたちも、皆小さな甥と遊びたがる。
 人見知りが始まったクロウは興味津々で寄ってくる叔父たちに大声で泣いていたけれど、意外なことにクロウをあやしてくれたのは国王だった。結婚式の準備を口実に王太子宮へ毎日訪れる国王とマルグリットにはクロウも慣れているのだ。国王はさすが大勢の子どもたちの父親だと思わせる手付きでクロウを抱き、簡単にご機嫌を治してしまった。

 大勢が集まる大広間は賑やかで楽しい。
 だけどアリシアは今年も宴を開かずに済んだことにホッとしていた。
 レイヴンとはこのまま2人だけで年を重ねていきたい。

 宴の翌日からは王太子宮から出ることなく、親子3人だけで過ごした。
 クロウがいる為、レイヴンはアリシアと寝室に籠ることができずにちょっとだけ残念そうな顔をしていたけれど、それもクロウの顔を見るまでだ。ルクセンヌ伯爵夫人に抱かれたクロウを見ると蕩けそうな笑顔になる。きっとアリシアも同じ顔をしているのだろう。

 そうしてまた季節が過ぎ春になって、結婚式の日になった。






「とうとう結婚式だね、アリシア」

「はい、レイヴン様」

 朝、いつものようにレイヴンと同じベッドで目を覚ましたアリシアは、レイヴンと目を合わせて微笑み合った。
 既に夫婦として何年も過ごしているのに、何故か面はゆい気持ちになる。
 アリシアが頬を染めて目を伏せると、レイヴンが堪らないといった様子でぎゅっと抱き締めた。

「可愛い!アリシアっ!!」

「きゃっ!もうっレイヴン様!!」

 突然のことに驚いてアリシアが声を上げる。
 何度も繰り返された、いつもと同じ光景だった。

 
 
 世間的には休日だが、レイヴンもアリシアもゆっくりしてはいられない。
 一緒に食事を摂った後、少しだけクロウと戯れる。
 レイヴンよりも支度に時間の掛かるアリシアは、エレノアに促されてそっと席を立った。だけど傍を離れるアリシアに気づいたクロウがむずがり出す。

「やあぁーあ!まぁーあーっ!!」

「駄目だよ、クロウ!父様のところにおいで」

 泣きながら這い這いでアリシアを追いかけるクロウをレイヴンが慌てて抱き上げる。
 いつもは執務の為に離れる時でもこんなに泣かないのに、どうしたことか今日はレイヴンでも気に入らないらしく、手足をバタつかせて抵抗している。
 
「ごめんね、クロウ。今はあまり時間がないの。夜ゆっくりお話ししてちょうだい」

 アリシアがそう言うと、レイヴンは最近言葉をしゃべろうとし出したクロウがアリシアと話したいのだと思ったようだ。「今は父様とお話ししよう?」と言ってまた泣かれている。
 申し訳なく思いながらも、アリシアは浴室へ移動した。

 クロウも朝から慌ただしい様子を肌で感じているのかもしれない。いつも傍にいるマリアンが今日は子爵家へ帰っているのも落ち着かない要因だろう。
 だけどアリシアにはもう1つ思い当る理由があった。

 ここ2週間ほど、クロウがアリシアの腹に向かって話しかけたり耳を当てて何かを聞こうとするような仕草を見せていた。
 アリシアは幼い子ども特有の一人遊びだと思っていたが、何か閃いた様子のエレノアとマリアンに勧められて侍医長の診察を受けたのだ。この2人は義姉妹になってから仲が良い。
 結果は2人が予想した通りだった。

 今、このことを知っているのは診察時に控えていたエレノアとジーナ、ドナの3人と、侍医長、マリアンとルクセンヌ伯爵夫人、そしてデザイナーだけである。
 ルクセンヌ伯爵夫人にはクロウに何かあってアリシアに負担が掛からないようにとの判断から話をした。そしてデザイナーには、ウェディングドレスのウエストまわりを調整してもらうために話すしかなかったのだ。デザイナーは大喜びで、自分の発案としてウエスト周りがゆったりしたデザインに作り直してくれた。
 完成したドレスはコルセットをあまり締めなくて良いようになっている。それに靴もヒールの低いものに変えられた。

 レイヴンには結婚式が終わった後に伝えるつもりだ。
 この結婚式はレイヴンの希望でありながら、アリシアへの贈り物である。だからそのお返しにアリシアもレイヴンが特別喜ぶ報せを伝えようと思うのだ。

 ただ何も言っていないのに、マルグリットには気づかれたようである。
 ぎりぎりになってドレスのサイズが調整されたことや、靴が替えられたことで気づいたらしい。「あら、まあ……」と呟いたマルグリットの目が、すべてを見透かすように煌めいていた。

 レイヴンもアリシアの体調変化にはすぐに気がつく。
 だから気づかれないように慎重に慎重に過ごしながら、ようやく迎えた当日だった。
 




「妃殿下、とてもお綺麗ですわ」

「本当に……。ドレスがとても良く似合っておられて」

「以前の時もお美しかったですが、今日はまた一段と輝くようでいらっしゃいます」

「お幸せなのですね」とカロリーナ、イリーナ、ジョアニーは声を揃えて感嘆の息を吐いた。

 結婚式前の花嫁の控室である。
 今日はレイヴンもアリシアも同じ王太子宮から教会へ向かうので、それぞれの部屋で支度をして一緒に向かっても良いのだが、レイヴンが形式に拘った。
 だから教会近くの離宮を花嫁の控室として、アリシアは早い内に移ってきた。レイヴンも今頃は教会の反対側にある離宮の一室で友人に囲まれていることだろう。

「本当にお義姉様は美しいわ。お兄様はお義姉様と結婚できた幸せにもっと感謝するべきね」

 腰に手を当て、カナリーがそう口にする。
 カナリーのお腹も随分と大きくなった。アリシアは座るよう勧めたけれど、「お客様が沢山いらっしゃるのですから長居はしませんわ」とカナリーは首を振る。ただカナリーはそう言いながらも部屋に留まり、マリアンとカロリーナたちの橋渡しをしてくれている。

 マリアンが貴族として催しに参加するのはこれが初めてだ。カロリーナたちとも初対面になる。
 侯爵令嬢や伯爵令嬢として育ち、次期侯爵、伯爵の夫人であるカロリーナたちと、子爵家の養女になったとはいえ平民として育ち、子爵の婚約者であるマリアンでは大きな差がある。
 カロリーナたちが身分の低い相手を馬鹿にするような人物ではないと信じているけれど、マリアンが溶け込めるのか、アリシアにも不安があった。カナリーも同じことを考えてくれていたようで、アリシアが何も言わなくてもマリアンが上手く馴染めるように努めてくれているのだ。

 思えばディアナがレオナルドの婚約者候補になった時も同じだった。
 カナリーは因縁のあるアリシアとディアナが上手く馴染めるよう間に立ってくれていたのだ。ほとんど社交界に出たことのなかったディアナは心強く感じただろう。
 アリシアはカナリーに随分と世話になっている。

「ありがとうございます、カナリー様」

「カナリーですわ!お義姉様!!」

 未だに自然と「カナリー」と呼べないアリシアに、すかさずカナリーから指摘が飛ぶ。
 控室はどっと笑いに湧いた。






「………美しいですわ、お嬢様」

 カナリーたちが教会へ向かった後、1人残ったマリアンが感慨深く息を吐く。
 正式な結婚式の時、王宮に来ることができないマリアンは大聖堂へ向かうアリシアを公爵邸で見送った。
 あの時はあれが今生の別れだと思っていたのだ。
 結婚式後のパレードで、マリアンはアリシアの花嫁姿を遠くからでも見ることできたその喜びで胸を一杯にしながら力いっぱい手を振っていた。
 それがあの時のマリアンに許された精一杯のことだった。
 それなのにこうしてアリシアの花嫁姿を近くで見ることができている。

「王太子殿下に感謝しなくてはいけませんね」

 マリアンがアリシアの花嫁姿を見れたのは、レイヴンがもう一度結婚式を、と望んでくれたからだ。
 以前のことを思うとまだ許せない気持ちはあるが、今はアリシアを大切にしているようだし、少しくらいは認めても良いだろう。

「本当にレイヴン様には感謝しているわ」

 マリアンの言葉にアリシアは頷いた。
 マリアンのことだけではなく、今日の結婚式は前回と違うことばかりである。

 カロリーナたちは前回の結婚式にも参列していたが、いち貴族として参列していただけで、アリシアの控室に訪れることはなかった。
 カナリーやアイビスはレイヴンの妹として挨拶に来てくれたけれど、本当に挨拶を交わしただけで親しく言葉を交わすことはなかった。それはパトリシアも同じことである。

 今日はマルグリットもオレリアも控室を訪れて、わいわいと話していった。アリシアの友人が訪れてからは、「あとは若い人たちだけで」と教会へ移っていったけれど、オレリアの顔に以前のような心配そうな陰はなかった。

 みんなみんな、レイヴンのおかげである。
 それを思えばジェーンのいない淋しさなんて、見ないふりをして耐えるべきことだった。







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お気づきの方もいるかもしれませんが、100話で最終話にするつもりでした…。
ですが書いても書いても終わりません(;´∀`)
諦めて2話に分けます…。





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