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1章 ~現在 王宮にて~
閑話
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ギデオンはこの世に生まれ落ちたその瞬間から王太子になることが決まっていた。
国王カールが世継ぎを生ませる為だけに娶った側妃が生んだ王子なのだ。暗黙の了解ではあったが、誰もが当然のこととして受け入れていた。
この時ばかりはカールもギデオンの誕生を喜んでいたという。
幼い頃のギデオンは、それなりに幸せだった。
周りの大人たちは幼いギデオンに丁重に接していたし、我儘はなんでも叶えられた。
まだ王太子の位は与えられていなかったけれど、周りの態度から自分は特別な存在なのだとぼんやり理解していた。
この国では王家に子が生まれても、3歳になるまでその存在を隠される。
幼いうちは病に罹りやすく、儚くなるのも珍しくないからだ。また大勢の側妃がいる時は、妃たちの間で幼い命を奪い合うこともあった。
だけど実際には妃の懐妊をまったく知られないなど有り得ないのだ。
正妃であれば受け持つ公務があるし、貴族との交流を大切にしている。舞踏会で踊れなくても、国王の隣で貴族たちの挨拶を受けるのも重要な役目だ。
側妃にも交友関係があるので親しい友人たちとお茶会を開くこともあれば、サロンに顔を出すこともある。野心の強い側妃であれば、味方に引き入れたい貴族を密かに集めているだろう。
だから本当に妃の懐妊を知らないのは宮廷に繋がりのない一部の地方貴族や下位貴族、それに民衆だけで、大方の貴族の間では暗黙の了解となっているのだ。
だからギデオンが3歳になり、その存在が公表された時はちょっとした騒ぎになった。
ギデオンの存在を――、ルイザの懐妊を知っている者がほとんどいなかったからだ。
知っていたのは国王と王妃、宰相や大臣たちといった一握りの人間だけで、あとは百合の宮で2人の身の回りの世話をしている使用人だけだった。
それにはルイザの育ち方が関係している。
ルイザの実家であるヴィラント伯爵家は王宮と繋がりの薄い地方の田舎貴族だ。更にルイザが幼い頃に領地が大規模な災害に見舞われていた。少しずつ復興しているものの何年も財政難に苦しんでおり、子どもたちを王都の学園へ通わせることができなかった。
要するにルイザは王都に1人も知り合いがいない状態で嫁いだのである。
その後の友人作りもうまくいかなかった。
国王がルイザに一欠片の愛情も持っていないことが知れ渡っていたからである。
嫁いで半月ほど経つと新しく迎えた側妃を披露する為の舞踏会が開かれた。
だけど国王がエスコートをしたのはルイザではなく王妃である。国王は舞踏会の間中王妃に寄り添い、ルイザの方を見ようともしない。
国王と王妃の後ろでポツンと佇むルイザに、王妃の方が気遣い、話しかけたり国王とルイザの間を取り持とうとしていた程だった。
今にして思えば国王は幼い子を亡くしたばかりで夫の新しい妻を迎え入れなければならない王妃が気がかりだったのだろう。出席していた貴族たちも王妃に同情的だったのだと思う。
だけど事情を知らないルイザの目には王妃の振る舞いが偽善的に映り、やつれたような青白い顔もわざとらしく思えた。
結局舞踏会はルイザの中に不満と憤りだけを残して終わったのである。
存在が公表されるとギデオンはすぐに立太子した。3歳の幼い王太子である。
授けられた剣は重く、着慣れない豪華な式典用の軍服も動きづらくて嫌いだったが、母方の祖父母が祝いに駆けつけてくれた。これがギデオンとヴィラント伯爵夫妻の初対面だ。
そして何より嬉しかったのは、普段滅多に会うことができない父と食事を共にしたことである。
立太子を祝う昼餐会に過ぎなかったが、ギデオンにそんなことがわかるはずなく、食事の間中はしゃぎながら喋っていた。
百合の宮には立太子を祝うたくさんの贈り物が届けられ、訪ねてくる人も1人、2人と増えてくる。
ギデオンやルイザに取り入り、甘い汁を吸おうとする者たちだったが、初めてできた友人に浮かれたまま数年を過ごすことになった。
国王カールが世継ぎを生ませる為だけに娶った側妃が生んだ王子なのだ。暗黙の了解ではあったが、誰もが当然のこととして受け入れていた。
この時ばかりはカールもギデオンの誕生を喜んでいたという。
幼い頃のギデオンは、それなりに幸せだった。
周りの大人たちは幼いギデオンに丁重に接していたし、我儘はなんでも叶えられた。
まだ王太子の位は与えられていなかったけれど、周りの態度から自分は特別な存在なのだとぼんやり理解していた。
この国では王家に子が生まれても、3歳になるまでその存在を隠される。
幼いうちは病に罹りやすく、儚くなるのも珍しくないからだ。また大勢の側妃がいる時は、妃たちの間で幼い命を奪い合うこともあった。
だけど実際には妃の懐妊をまったく知られないなど有り得ないのだ。
正妃であれば受け持つ公務があるし、貴族との交流を大切にしている。舞踏会で踊れなくても、国王の隣で貴族たちの挨拶を受けるのも重要な役目だ。
側妃にも交友関係があるので親しい友人たちとお茶会を開くこともあれば、サロンに顔を出すこともある。野心の強い側妃であれば、味方に引き入れたい貴族を密かに集めているだろう。
だから本当に妃の懐妊を知らないのは宮廷に繋がりのない一部の地方貴族や下位貴族、それに民衆だけで、大方の貴族の間では暗黙の了解となっているのだ。
だからギデオンが3歳になり、その存在が公表された時はちょっとした騒ぎになった。
ギデオンの存在を――、ルイザの懐妊を知っている者がほとんどいなかったからだ。
知っていたのは国王と王妃、宰相や大臣たちといった一握りの人間だけで、あとは百合の宮で2人の身の回りの世話をしている使用人だけだった。
それにはルイザの育ち方が関係している。
ルイザの実家であるヴィラント伯爵家は王宮と繋がりの薄い地方の田舎貴族だ。更にルイザが幼い頃に領地が大規模な災害に見舞われていた。少しずつ復興しているものの何年も財政難に苦しんでおり、子どもたちを王都の学園へ通わせることができなかった。
要するにルイザは王都に1人も知り合いがいない状態で嫁いだのである。
その後の友人作りもうまくいかなかった。
国王がルイザに一欠片の愛情も持っていないことが知れ渡っていたからである。
嫁いで半月ほど経つと新しく迎えた側妃を披露する為の舞踏会が開かれた。
だけど国王がエスコートをしたのはルイザではなく王妃である。国王は舞踏会の間中王妃に寄り添い、ルイザの方を見ようともしない。
国王と王妃の後ろでポツンと佇むルイザに、王妃の方が気遣い、話しかけたり国王とルイザの間を取り持とうとしていた程だった。
今にして思えば国王は幼い子を亡くしたばかりで夫の新しい妻を迎え入れなければならない王妃が気がかりだったのだろう。出席していた貴族たちも王妃に同情的だったのだと思う。
だけど事情を知らないルイザの目には王妃の振る舞いが偽善的に映り、やつれたような青白い顔もわざとらしく思えた。
結局舞踏会はルイザの中に不満と憤りだけを残して終わったのである。
存在が公表されるとギデオンはすぐに立太子した。3歳の幼い王太子である。
授けられた剣は重く、着慣れない豪華な式典用の軍服も動きづらくて嫌いだったが、母方の祖父母が祝いに駆けつけてくれた。これがギデオンとヴィラント伯爵夫妻の初対面だ。
そして何より嬉しかったのは、普段滅多に会うことができない父と食事を共にしたことである。
立太子を祝う昼餐会に過ぎなかったが、ギデオンにそんなことがわかるはずなく、食事の間中はしゃぎながら喋っていた。
百合の宮には立太子を祝うたくさんの贈り物が届けられ、訪ねてくる人も1人、2人と増えてくる。
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