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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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この日、王宮には重苦しい空気が流れていた。
集まった重臣たちは固唾を飲んで国王へ視線を向ける。
国王は苦痛に満ちた顔で、それでも頷いた。
「……わかった。側妃を娶ろう」
「……ありがとうございます」
重臣たちが一斉に頭を下げる。
これが国王にとって苦渋の決断であることはみんなわかっていた。
「兄上、決断下さったのですね!」
国王が玉座を降りると御前会議終了の合図だ。
マクロイド公爵が喜色を浮かべて国王へ声を掛ける。だけどすぐに口を噤んだ。
一瞬だけこちらへ向けられた視線に、隠しきれない憎悪と殺意を感じ取ったからだ。
側妃を娶りたくないと、退位して王妃と2人で静かに暮らしたいからと、王籍への復帰と即位を乞われたのに断ったことを恨んでいるのだろう。
だけど国王は一言も何も言わずに部屋を出て行った。
国王カールと王妃エリザベートは政略で結ばれた婚姻だった。
だけど2人は出会った瞬間から互いに恋に落ちていた。
互いに支え合い、高め合う2人の姿に、貴族の子息子女たちは憧れの視線を向けた。
政略で結ばれることがほどんどの貴族たちにとって、政略であっても互いに敬意を持ち、尊重し合うことができれば幸せな関係を築くことができるのだと、将来の希望となったのだ。
実際に2人に近い年代の貴族たちは、他の年代の者たちに比べて良好な夫婦関係を築いている。
だけど2人の間に問題がなく順風満帆だったわけではない。
学園生活2年目となった17の秋、エリザベートが病に倒れたのだ。
原因は中々特定されず、他国との交易が盛んなダシェンボード公爵家なので、他国から新しい病が持ち込まれたのではないかと噂された。
高い熱が何日も続き、エリザベートは半年もの間をベッドから降りることもままならず過ごした。ほとんど意識を失うように眠り、目が覚めていても意識が朦朧として話すこともできない。
原因がわからないのでカールは見舞いに行くこともできず、時折届けられる公爵家からの手紙でエリザベートの様子を知るしかなかった。
その半年をどう過ごしていたのかカールは思い出すことができない。
記録が残っているので学園に通い、公務に臨んでいたのは間違いないだろう。
だけどカールの心はエリザベートのことだけで占められていた。
エリザベートの体調が回復し、以前のように笑い合える日が来ることだけを願い祈ってこの辛い日々を過ごしたのだ。
その裏で両親や重臣たちが新しい婚約者を選んでいることをカールは知っていた。
新しい婚約者に妃教育を始めるなら早い方が良い。王家としては回復するのかわからないエリザベートをいつまでも待っていることはできないのだ。
また、回復したとしても長期間熱に侵された体が妃としての役目を果たせるのか誰もが疑問に思っていた。
それを一番恐れていたのはエリザベート自身である。
結果的にエリザベートの熱は下がり、意識を取り戻した。
すぐに傍へ駆け付けたいのを大事を取る為にと押し留められ、直接会えたのは10日も経った後だ。
エリザベートの自室に通され、痩せ細った青白い顔のエリザベートと目を合わせた時、エリザベートをこの世に留まられてくれた神にカールは心から感謝した。
ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます……っ!
そう繰り返しながら泣き崩れるカールに、同席していた公爵夫妻もリチャードもそっと涙を拭っていた。
集まった重臣たちは固唾を飲んで国王へ視線を向ける。
国王は苦痛に満ちた顔で、それでも頷いた。
「……わかった。側妃を娶ろう」
「……ありがとうございます」
重臣たちが一斉に頭を下げる。
これが国王にとって苦渋の決断であることはみんなわかっていた。
「兄上、決断下さったのですね!」
国王が玉座を降りると御前会議終了の合図だ。
マクロイド公爵が喜色を浮かべて国王へ声を掛ける。だけどすぐに口を噤んだ。
一瞬だけこちらへ向けられた視線に、隠しきれない憎悪と殺意を感じ取ったからだ。
側妃を娶りたくないと、退位して王妃と2人で静かに暮らしたいからと、王籍への復帰と即位を乞われたのに断ったことを恨んでいるのだろう。
だけど国王は一言も何も言わずに部屋を出て行った。
国王カールと王妃エリザベートは政略で結ばれた婚姻だった。
だけど2人は出会った瞬間から互いに恋に落ちていた。
互いに支え合い、高め合う2人の姿に、貴族の子息子女たちは憧れの視線を向けた。
政略で結ばれることがほどんどの貴族たちにとって、政略であっても互いに敬意を持ち、尊重し合うことができれば幸せな関係を築くことができるのだと、将来の希望となったのだ。
実際に2人に近い年代の貴族たちは、他の年代の者たちに比べて良好な夫婦関係を築いている。
だけど2人の間に問題がなく順風満帆だったわけではない。
学園生活2年目となった17の秋、エリザベートが病に倒れたのだ。
原因は中々特定されず、他国との交易が盛んなダシェンボード公爵家なので、他国から新しい病が持ち込まれたのではないかと噂された。
高い熱が何日も続き、エリザベートは半年もの間をベッドから降りることもままならず過ごした。ほとんど意識を失うように眠り、目が覚めていても意識が朦朧として話すこともできない。
原因がわからないのでカールは見舞いに行くこともできず、時折届けられる公爵家からの手紙でエリザベートの様子を知るしかなかった。
その半年をどう過ごしていたのかカールは思い出すことができない。
記録が残っているので学園に通い、公務に臨んでいたのは間違いないだろう。
だけどカールの心はエリザベートのことだけで占められていた。
エリザベートの体調が回復し、以前のように笑い合える日が来ることだけを願い祈ってこの辛い日々を過ごしたのだ。
その裏で両親や重臣たちが新しい婚約者を選んでいることをカールは知っていた。
新しい婚約者に妃教育を始めるなら早い方が良い。王家としては回復するのかわからないエリザベートをいつまでも待っていることはできないのだ。
また、回復したとしても長期間熱に侵された体が妃としての役目を果たせるのか誰もが疑問に思っていた。
それを一番恐れていたのはエリザベート自身である。
結果的にエリザベートの熱は下がり、意識を取り戻した。
すぐに傍へ駆け付けたいのを大事を取る為にと押し留められ、直接会えたのは10日も経った後だ。
エリザベートの自室に通され、痩せ細った青白い顔のエリザベートと目を合わせた時、エリザベートをこの世に留まられてくれた神にカールは心から感謝した。
ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます……っ!
そう繰り返しながら泣き崩れるカールに、同席していた公爵夫妻もリチャードもそっと涙を拭っていた。
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