影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
22 / 142
1章 ~現在 王宮にて~

21

しおりを挟む
「私からもお伺いしたいことがあるのですが……。よろしいでしょうか」

 シェリルが国王へ声を掛けた。
 国王もルイザに「不実」と言われたことが堪えたようで項垂れている。
 但し国王には自身の行いが不実であるという自覚があった。ただルイザが不満を口にしないので目を逸らしていただけだ。だから落ち込む資格などないことも理解していた。
 顔を上げるとシェリルに話すよう促す。

「恐れながら、王妃殿下のお加減はいかがなのでしょうか」

「!!」

 息を呑む国王をシェリルはじっと見ていた。 
 王妃の体調について正式な発表はもう何年もされていない。それどころか話題にしてはいけないような雰囲気がずっと流れていた。それはシェリルがギデオンの婚約者だったことと関係ないだろう。

 先程侍従が手渡したのは、王妃の様子を知らせるメモだ。国王は30分ごとに王妃の様子を報告させている。
 何ともなければそれで良いが、熱を出したり具合が悪くて侍医を呼んだと言われれば慌てて王妃の元へ駆けつけるのだ。

 だけど王妃の体調について疑問に思っているのはシェリルだけではないはずだ。
 体調不良で療養中と言われる王妃は、シェリルが物心ついた時にはもう公の場に出ることはなくなっていた。
 だけど薔薇の宮の庭園を国王と2人で歩く姿は度々目撃されている。エドワードの学校行事にも毎回参加しているのだ。王立学園の卒業式より数日早く行われた騎士学校の卒業式にも国王と2人で参席していた。

 だけど公務を行わない王妃を非難する声はほとんど聞こえてこない。
 騎士学校の行事で顔を合わせた貴族も、「久しぶりにお姿を見れて良かった」「少し窶れておられたが、お元気そうでホッとした」と言うばかりで、「そろそろ公務を……」と言う者はいないのだ。
 何かシェリルの知らない事情があるのかと思うのが普通だろう。

「王妃の体調は……、良い時と悪い時の境目が難しい。心の病というのはそういうものだそうだ」

「え……?」

 シェリルは驚いた。
 ギデオンが生まれた時に、子を産めなかった王妃が精神的に追い詰められていたと聞いたことはあった。
 だからエドワードが養子として迎えられたのだ。
 その不調が今も続いているというのだろうか。

「シェリル、やめなさい」

「そうよ。必ずしもすべてを知らなくてはならないわけではないの」

「いや、良い」

 アンダーソン公爵夫妻がシェリルを止める。
 それを抑えたのは国王だった。

「ギデオンももうすぐ19になる……。事情を知らない者たちが成長しているのだな」

 国王が僅かに笑う。
 その顔は苦しそうであり、若者の成長を喜ぶものでもあった。

「そなたたちは王妃が子を産めぬので側妃を迎えたと聞いているだろう。だが実際には子を産んでいるのだ。ただ生まれた子は弱く……、育つことができなかった」

「ええっ?!」

 シェリルが驚いて声を上げる。
 だけど驚いているのはシェリルだけではなかった。
 ルイザもシェリルと同じくらい驚いている。ルイザも知らなかったということだ。
 そしてそれが、ルイザが側妃に選ばれた理由でもあった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

処理中です...