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1章 ~現在 王宮にて~
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「私からもお伺いしたいことがあるのですが……。よろしいでしょうか」
シェリルが国王へ声を掛けた。
国王もルイザに「不実」と言われたことが堪えたようで項垂れている。
但し国王には自身の行いが不実であるという自覚があった。ただルイザが不満を口にしないので目を逸らしていただけだ。だから落ち込む資格などないことも理解していた。
顔を上げるとシェリルに話すよう促す。
「恐れながら、王妃殿下のお加減はいかがなのでしょうか」
「!!」
息を呑む国王をシェリルはじっと見ていた。
王妃の体調について正式な発表はもう何年もされていない。それどころか話題にしてはいけないような雰囲気がずっと流れていた。それはシェリルがギデオンの婚約者だったことと関係ないだろう。
先程侍従が手渡したのは、王妃の様子を知らせるメモだ。国王は30分ごとに王妃の様子を報告させている。
何ともなければそれで良いが、熱を出したり具合が悪くて侍医を呼んだと言われれば慌てて王妃の元へ駆けつけるのだ。
だけど王妃の体調について疑問に思っているのはシェリルだけではないはずだ。
体調不良で療養中と言われる王妃は、シェリルが物心ついた時にはもう公の場に出ることはなくなっていた。
だけど薔薇の宮の庭園を国王と2人で歩く姿は度々目撃されている。エドワードの学校行事にも毎回参加しているのだ。王立学園の卒業式より数日早く行われた騎士学校の卒業式にも国王と2人で参席していた。
だけど公務を行わない王妃を非難する声はほとんど聞こえてこない。
騎士学校の行事で顔を合わせた貴族も、「久しぶりにお姿を見れて良かった」「少し窶れておられたが、お元気そうでホッとした」と言うばかりで、「そろそろ公務を……」と言う者はいないのだ。
何かシェリルの知らない事情があるのかと思うのが普通だろう。
「王妃の体調は……、良い時と悪い時の境目が難しい。心の病というのはそういうものだそうだ」
「え……?」
シェリルは驚いた。
ギデオンが生まれた時に、子を産めなかった王妃が精神的に追い詰められていたと聞いたことはあった。
だからエドワードが養子として迎えられたのだ。
その不調が今も続いているというのだろうか。
「シェリル、やめなさい」
「そうよ。必ずしもすべてを知らなくてはならないわけではないの」
「いや、良い」
アンダーソン公爵夫妻がシェリルを止める。
それを抑えたのは国王だった。
「ギデオンももうすぐ19になる……。事情を知らない者たちが成長しているのだな」
国王が僅かに笑う。
その顔は苦しそうであり、若者の成長を喜ぶものでもあった。
「そなたたちは王妃が子を産めぬので側妃を迎えたと聞いているだろう。だが実際には子を産んでいるのだ。ただ生まれた子は弱く……、育つことができなかった」
「ええっ?!」
シェリルが驚いて声を上げる。
だけど驚いているのはシェリルだけではなかった。
ルイザもシェリルと同じくらい驚いている。ルイザも知らなかったということだ。
そしてそれが、ルイザが側妃に選ばれた理由でもあった。
シェリルが国王へ声を掛けた。
国王もルイザに「不実」と言われたことが堪えたようで項垂れている。
但し国王には自身の行いが不実であるという自覚があった。ただルイザが不満を口にしないので目を逸らしていただけだ。だから落ち込む資格などないことも理解していた。
顔を上げるとシェリルに話すよう促す。
「恐れながら、王妃殿下のお加減はいかがなのでしょうか」
「!!」
息を呑む国王をシェリルはじっと見ていた。
王妃の体調について正式な発表はもう何年もされていない。それどころか話題にしてはいけないような雰囲気がずっと流れていた。それはシェリルがギデオンの婚約者だったことと関係ないだろう。
先程侍従が手渡したのは、王妃の様子を知らせるメモだ。国王は30分ごとに王妃の様子を報告させている。
何ともなければそれで良いが、熱を出したり具合が悪くて侍医を呼んだと言われれば慌てて王妃の元へ駆けつけるのだ。
だけど王妃の体調について疑問に思っているのはシェリルだけではないはずだ。
体調不良で療養中と言われる王妃は、シェリルが物心ついた時にはもう公の場に出ることはなくなっていた。
だけど薔薇の宮の庭園を国王と2人で歩く姿は度々目撃されている。エドワードの学校行事にも毎回参加しているのだ。王立学園の卒業式より数日早く行われた騎士学校の卒業式にも国王と2人で参席していた。
だけど公務を行わない王妃を非難する声はほとんど聞こえてこない。
騎士学校の行事で顔を合わせた貴族も、「久しぶりにお姿を見れて良かった」「少し窶れておられたが、お元気そうでホッとした」と言うばかりで、「そろそろ公務を……」と言う者はいないのだ。
何かシェリルの知らない事情があるのかと思うのが普通だろう。
「王妃の体調は……、良い時と悪い時の境目が難しい。心の病というのはそういうものだそうだ」
「え……?」
シェリルは驚いた。
ギデオンが生まれた時に、子を産めなかった王妃が精神的に追い詰められていたと聞いたことはあった。
だからエドワードが養子として迎えられたのだ。
その不調が今も続いているというのだろうか。
「シェリル、やめなさい」
「そうよ。必ずしもすべてを知らなくてはならないわけではないの」
「いや、良い」
アンダーソン公爵夫妻がシェリルを止める。
それを抑えたのは国王だった。
「ギデオンももうすぐ19になる……。事情を知らない者たちが成長しているのだな」
国王が僅かに笑う。
その顔は苦しそうであり、若者の成長を喜ぶものでもあった。
「そなたたちは王妃が子を産めぬので側妃を迎えたと聞いているだろう。だが実際には子を産んでいるのだ。ただ生まれた子は弱く……、育つことができなかった」
「ええっ?!」
シェリルが驚いて声を上げる。
だけど驚いているのはシェリルだけではなかった。
ルイザもシェリルと同じくらい驚いている。ルイザも知らなかったということだ。
そしてそれが、ルイザが側妃に選ばれた理由でもあった。
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