影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
37 / 142
2章 ~過去 カールとエリザベート~

14

しおりを挟む
 ルイが魅了したのはカールとエリザベートだけではなかった。
 乳母は元より、薔薇の宮で働く使用人たちは皆ルイの愛らしさに惹きつけられていく。
 それはダシェンボード公爵家の者たちも皆同じだ。
 公爵や2人の兄は王宮で職務に就いているので普段は中々顔を出せないが、休日になると妻と共にやってくる。公爵夫人と2人の義姉は普段から何かと理由をつけて来ているので、薔薇の宮にすっかり馴染んで使用人たちとも仲良くなっていた。
 公爵夫人たちは、薔薇の宮を訪れるたびにルイへ手土産を持ってくる。公爵領で有名なのはレース編みだが、彼女たちは刺繍も縫い物も編み物も貴婦人が嗜むものは何でも得意なのだ。
 日に日に増えていくベビー服や靴下、帽子や手袋、涎掛けにエリザベートは笑うしかない。

「しばらくルイちゃまのお買い物はしなくて良さそうね」

 エリザベートがそう呼び掛けると、ルイは嬉しそうに声を上げた。



 エリザベートの出産は貴族の間でも広まっていた。元々エリザベートの懐妊はお茶会に呼ばれた貴婦人たちから広められているのだ。
 そのお茶会が開かれなくなり、「もしや」と思っているところに隙間時間を縫って薔薇の宮へ文字通り駆けていくカールの姿が見られるようになったのだ。これはもう間違いない。そうなると次に重要なのは生まれたのが王子か王女かである。
 貴族たちはこぞって薔薇の宮を探らせ、下働きに金を掴ませて王子だと聞き出すと我先に贈り物を届けさせた。
 第一王子の存在は王都の貴族を中心にして広く知られたのだ。


 
 ルイの誕生から2月後、離宮へ移った前国王夫妻が薔薇の宮を訪れた。
 勿論初孫に会う為だ。
 カールはルイが生まれてすぐに離宮へ知らせていた。このタイミングで訪れたのは、体調を崩して寝込んだエリザベートを慮ったからである。前国王夫妻を迎えるのは精神的に重圧が掛かるとわかっているのだ。

 そしてエリザベートはこの日に床上げをした。
 寝室で横になったまま前国王夫妻を迎えるわけにはいかない。
 長く休んだ公務に戻る良い切っ掛けとなった。



「まあまあまあ!可愛いわねぇ」

 前王妃はルイを見るなり声を上げた。
 今日ルイがいるのは子ども部屋のベッドの上だ。初めて見る知らない大人をきょとんとして見返している。
 知らない大人でも父親に似たところがあるからだろうか。抱き上げられても少しも嫌がる素振りを見せなかった。

「まあ、可愛い。なんて良い子なのでしょう」

 前王妃は嬉しそうにルイをあやす。涎のついた手でドレスを触られても気にならないようだ。
 その隣から前国王が恐る恐る頭を撫でる。

「……赤子とはこんなに小さいのだな」

「まあ!あなたには3人も子がいるでしょう」

「……時間ときが経ち過ぎて忘れてしまったのだ」

 そんな夫婦のやり取りに思わず笑ってしまう。
 ルイは祖父も気に入った様子で「きゃ~あ!」と手を振り回した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?

山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

処理中です...