影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
36 / 142
2章 ~過去 カールとエリザベート~

13

しおりを挟む
 それから約1ヶ月後、エリザベートは無事に出産を果たした。
 生まれたのはエリザベートが思っていた通り可愛い男の子だ。
 男性は近づけない薔薇の宮の一角にある子を生むための部屋で、生まれたばかりの息子を抱いたエリザベートはその愛らしい姿に涙を止めることができなかった。

「ありがとう。生まれてきてくれてありがとう……」

 何度もそう呟きながら柔らかい額に口づけを落とす。
 まだ何もわかっていないだろう赤子は、それでも嬉しそうに見えた。

 カールが子に会えたのは、子がエリザベートと共に寝室へ移ってから。
 今か今かとそわそわしながら待っていたカールは、侍女に抱かれた子を見た途端に涙を溢した。

「ありがとう、リーザ。ありがとう……」

 エリザベートがベッドで横になると、傍に座ったカールへ侍女が赤子を手渡す。
 おっかなびっくり赤子を抱いたカールは、その軽いけれど確かな重みに一度止まっていたはずの涙をまた溢れさせた。
 抱いているのは一度は諦めたこともある我が子だ。

「可愛い。可愛いよ……っ」

 カールはふわふわの産毛に何度も頬擦りをする。
 その姿を見ていると、幸せな気持ちと一緒に、子を抱かせてあげられて良かったという安堵が込み上げてきた。





 赤子はルイと名付けられた。
 まだ綿菓子みたいにふわふわの髪は金色で、青色の目をしている。
 金色の髪も青色の目も王家に受け継がれる色で、カールは勿論、数代前の王弟の血を引くエリザベートも同じ色をしている。親子3人同じ色だ。
 以前はお互いに相手の色を纏っていても自分の色を着ているようで残念に思うこともあったけれど、3人お揃いだと思うと凄く特別な色のように思えた。




「リーザ、具合はどうだ?辛くないか?」

「そんなに心配なさらなくても大丈夫ですわ。随分良くなりましたし……、幸せですもの」

 無事に出産を終えたエリザベートだが、やはり体の負担は大きかったようでその日の夜から寝込んでいた。
 だけど熱が高い時も、体がだるくて寝返りを打つのが辛い時でも、ルイの姿を見れば体の辛さは消えていき、幸せに満たされる。
 
 貴族の家の子どもは生まれた時から子ども部屋で過ごすものだ。面倒を見るのは乳母で、両親は手の空いた時に少しだけ様子を見に行く。母親が病気で寝込んでいれば互いに顔を見ることもままならないだろう。
 そうして大抵の子どもは母親より乳母に懐いていく。

 だけどルイは違っていた。カールの発案で子ども部屋の他にエリザベートの寝室にもベビーベッドが置かれ、明るい間はそこで過ごしている。
 これはエリザベートが人に感染る病ではないからできることだ。ベビーベッドはエリザベートの目線の高さに合されているので、体勢を変えなくても横を見ればルイを見ることができる。
 時にはルイの泣き声で起こされることもあったが、少しも不快だとは感じなかった。

「こんなにルイとのんびり過ごせるのは今のうちだけですもの。楽しみますわ」

 出産してしばらくは高熱が続いていたが、体調は順調に回復してきている。体を動かせるようになれば王妃としての職務に戻らなければならない。
 只でさえ妊娠してから長く休んでしまっているのだ。カールに大きな負担を掛けているのもわかっている。
 
「カール様こそお疲れでしょう?少しお休みになってください」

 エリザベートはカールにベッドへ入るよう促した。
 少しでも仮眠を取ればと思ったのだ。
 だけどカールは笑って首を振る。

「そんなことは気にしなくて良い。リーザとルイがいてくれれば幸せなんだ」

 そう言ってカールはエリザベートの額に口づけると、ベビーベッドのルイを抱き上げた。
 カールはこうして何度も様子を見に来てくれるが、すぐに執務へ戻らなくてはならないのでルイと長い時間を過ごせずにいるのだ。

 今は眠るよりルイと触れ合っていたいのだろう。
 そう思ったエリザベートは、それ以上何も言わずに微笑ましい父子の姿を眺めることにした。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

ここまであまり更新できていませんが、恋愛大賞にエントリーしています。
応援よろしくお願いしますm(_ _)m


 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...