42 / 142
2章 ~過去 カールとエリザベート~
19
しおりを挟む
こんな穏やかな日々が続いていくのだと思っていたエリザベートだったが、そうでもなかった。
ルイは体の弱い子どもで、すぐに熱を出す。
季節の変わり目には必ず風邪をひいて、夏の暑い時も肌寒くなった時も風邪をひく。風をこじらせて肺炎を起こすことも度々あった。
こんなに頻繁に風邪をひくなんてどこか悪いのではないかと侍医たちが熱心に調べてくれたが、特別な病名があるわけではなく虚弱体質であるようだ。
ルイが高熱を出して寝込む度にエリザベートは胸が潰れるような思いをする。
ルイの体が弱いのはエリザベートの体質を受け継いだからではないかと思うからだ。
「ごめんね、ルイ。ごめんね……」
エリザベートはいつも泣きながらルイの看病にあたった。
何より辛いのは苦しんでいるルイの傍にずっと付いていられないことだ。毎日公務へ行かなくてはならない。
「やぁ……、やっ」
母と離れたがらずに泣くルイをそっと抱き締める。
「ごめんね、ルイ……。執務が終わったらすぐに帰ってくるからね」
頭を撫で、背中を撫でて額に口づける。
母を求めて泣き叫ぶ声を振り切るようにして執務室へ向かった。
病気ばかりをしているからだろうか。ルイは同じ歳の子に比べて発育が遅かった。
1歳になっても自力で座ることができず、言葉も中々出てこない。1人で歩けるようになったのは2歳を過ぎてからだ。
だけどそれがなんだというのだろうか。
元気な時は良く動き、一生懸命おしゃべりをして良く笑う。
庭園で昆虫を見つけてはエリザベートに見せようとして、エリザベートが悲鳴を上げそうになることもあった。
そんな時はすぐにカールが間に入ってくれる。
「母様は虫が苦手なんだ。父様に見せてくれ」
「あいっ!」
ルイが歩くようになると、薔薇の宮の庭園は本当に子を育てる為の場所だと感じた。
子どもが触れて怪我をするような薔薇は遠い奥地にあり、子どもの姿を隠す生垣もない。離宮に沿った場所には花壇が作られているが、少し歩くと広い芝生になる。小さな子どもが駆けまわるには最高の場所だ。
薔薇の宮は子どもが育つべき離宮なのだ。
「日が傾いてきた。そろそろ戻ろうか」
カールに呼びかけられてエリザベートは頷いた。
木の陰にシートを敷いて、3人で食事を摂った後は芝生を駆けて遊ぶルイとカールを眺めていた。
ルイは時々エリザベートの元へ戻って来ては摘んだ花やどんぐりを渡してくれる。シートの上はルイが集めた花やどんぐりでいっぱいだ。
エリザベートが立ち上がると、侍女たちが花を束ねて渡してくれた。ルイの乳母はどんぐりを袋に詰めている。
「やぁなの!」
ルイの大きな声がしてそちらを見ると、抱き上げようとするカールに抵抗していた。
いやいやと体をねじり、腕から逃れようとする。
「なんだ、歩きたいのか?」
「あいっ!」
カールが呆れたように笑う。
そのまま好きにさせると決めたようでエリザベートへ振り向いた。
エリザベートが傍まで来ると腰を抱いて歩き出す。ルイは2人の前を先導するように歩いている。
だけどそれは長く続かなかった。元々芝生で駆けていたので疲れているのだ。
花壇の辺りまで来たところでぺたんと座り込む。
「だっこぉ」
涙目でカールを見上げるルイのなんて可愛いことか。
この子がこの世で一番可愛い。
エリザベートはその思いを新たにした。
ルイは体の弱い子どもで、すぐに熱を出す。
季節の変わり目には必ず風邪をひいて、夏の暑い時も肌寒くなった時も風邪をひく。風をこじらせて肺炎を起こすことも度々あった。
こんなに頻繁に風邪をひくなんてどこか悪いのではないかと侍医たちが熱心に調べてくれたが、特別な病名があるわけではなく虚弱体質であるようだ。
ルイが高熱を出して寝込む度にエリザベートは胸が潰れるような思いをする。
ルイの体が弱いのはエリザベートの体質を受け継いだからではないかと思うからだ。
「ごめんね、ルイ。ごめんね……」
エリザベートはいつも泣きながらルイの看病にあたった。
何より辛いのは苦しんでいるルイの傍にずっと付いていられないことだ。毎日公務へ行かなくてはならない。
「やぁ……、やっ」
母と離れたがらずに泣くルイをそっと抱き締める。
「ごめんね、ルイ……。執務が終わったらすぐに帰ってくるからね」
頭を撫で、背中を撫でて額に口づける。
母を求めて泣き叫ぶ声を振り切るようにして執務室へ向かった。
病気ばかりをしているからだろうか。ルイは同じ歳の子に比べて発育が遅かった。
1歳になっても自力で座ることができず、言葉も中々出てこない。1人で歩けるようになったのは2歳を過ぎてからだ。
だけどそれがなんだというのだろうか。
元気な時は良く動き、一生懸命おしゃべりをして良く笑う。
庭園で昆虫を見つけてはエリザベートに見せようとして、エリザベートが悲鳴を上げそうになることもあった。
そんな時はすぐにカールが間に入ってくれる。
「母様は虫が苦手なんだ。父様に見せてくれ」
「あいっ!」
ルイが歩くようになると、薔薇の宮の庭園は本当に子を育てる為の場所だと感じた。
子どもが触れて怪我をするような薔薇は遠い奥地にあり、子どもの姿を隠す生垣もない。離宮に沿った場所には花壇が作られているが、少し歩くと広い芝生になる。小さな子どもが駆けまわるには最高の場所だ。
薔薇の宮は子どもが育つべき離宮なのだ。
「日が傾いてきた。そろそろ戻ろうか」
カールに呼びかけられてエリザベートは頷いた。
木の陰にシートを敷いて、3人で食事を摂った後は芝生を駆けて遊ぶルイとカールを眺めていた。
ルイは時々エリザベートの元へ戻って来ては摘んだ花やどんぐりを渡してくれる。シートの上はルイが集めた花やどんぐりでいっぱいだ。
エリザベートが立ち上がると、侍女たちが花を束ねて渡してくれた。ルイの乳母はどんぐりを袋に詰めている。
「やぁなの!」
ルイの大きな声がしてそちらを見ると、抱き上げようとするカールに抵抗していた。
いやいやと体をねじり、腕から逃れようとする。
「なんだ、歩きたいのか?」
「あいっ!」
カールが呆れたように笑う。
そのまま好きにさせると決めたようでエリザベートへ振り向いた。
エリザベートが傍まで来ると腰を抱いて歩き出す。ルイは2人の前を先導するように歩いている。
だけどそれは長く続かなかった。元々芝生で駆けていたので疲れているのだ。
花壇の辺りまで来たところでぺたんと座り込む。
「だっこぉ」
涙目でカールを見上げるルイのなんて可愛いことか。
この子がこの世で一番可愛い。
エリザベートはその思いを新たにした。
4
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
公爵夫人は愛されている事に気が付かない
山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」
「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」
「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」
「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」
社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。
貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。
夫の隣に私は相応しくないのだと…。
冷たい王妃の生活
柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。
三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。
王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。
孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。
「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。
自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。
やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。
嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる