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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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カールとエリザベートにとって誰より可愛く大切な息子だったが、重臣たちはルイを3歳の誕生日にお披露目することに難色を示した。
エリザベートとしては受け入れがたいことだが、重臣たちの気持ちもわかる。
ルイは同じ歳の子に比べてひと回り体が小さく、まだ言葉もはっきりしていない。体力もなく、すぐに熱を出して寝込んでしまう。
この子が王太子だと言われたら皆不安になるだろう。
だけど宮廷に近い貴族ほどルイの生まれた時を知っているのだ。それなのにお披露目されなかったらどう思うだろうか。
いいえ、親しい人はルイが病気がちなのも発育が遅れていることも知っているもの。
きっとそういうことだと納得するわ。
不安に苛まれるエリザベートだったが、カールは思い悩んだ末に4歳の誕生日でお披露目すると決めた。
「昨夜の風は凄かったですわね。朝起きてみたら庭園の草木がなぎ倒されてしまっていて」
「こちらも同じですわ。今日は朝から庭師が大わらわでしてよ」
エリザベートのお茶会で貴婦人たちが笑う。
エリザベートはルイのお披露目が延期されてからお茶会を頻繁に開いていた。
ここに招かれる人たちはルイの存在を知っている。特に紹介はしていないが、母に甘えようとするルイの姿を見た人もいた。ルイの存在を印象付ける為にエリザベートが敢て部屋へ入れたのだ。
「本当に酷い風でしたわね。ルイったらすっかり怯えてしまって。昨日は一緒に寝ましたの」
昨夜のことを思い出すと自然と笑みが浮かんでしまう。
昼間は何ともなかったのに、夜遅い時間になってから強い風が吹き出した。
ルイが怯えているかもしれない。そう思った頃に寝室の扉が叩かれた。
「陛下、妃殿下。申し訳ありません」
入って来たのはルイを連れた乳母だった。
貴族の子どもは自立心を養う為に幼い頃から1人で寝る。特にルイは王太子になるべき王子だ。両親のところへ行きたがるルイを、乳母は何とか留めようとしたのだろう。
だけどいくら宥めても泣きじゃくるルイに根負けしたようだ。
「おとしゃま、おかしゃまぁ」
泣きながらカールとエリザベートに駆け寄るルイをエリザベートは優しく抱きとめる。
怯えているのは可哀想だが、胸が痛くなる程可愛い。
「大きな音がしているものね。今日は一緒に寝ましょうか」
エリザベートの胸に顔を埋めたままルイがこくこく頷く。
背中をさすって宥めながら、エリザベートはルイを抱き上げた。
「大丈夫よ、ルイ。もう怖くないわ。お父様とお母様がいるでしょう?」
そうしてルイをベッドの真中へ降ろす。
今日はカールと並んで川の字だ。
「大丈夫だよ。何も悪いことが起こらないよう傍にいるから安心して眠りなさい」
「おとしゃまぁ」
しがみ付くルイをカールが優しく抱き寄せる。
可愛い寝息が聞こえるまでそうして髪を撫でていた。
「まあまあまあ、王子殿下の可愛らしいこと!」
「それに陛下も、随分可愛がっておられるのですね」
「ええ、本当に……。可愛くて仕方がないようですわ」
しがみ付かれたままでは寝づらいだろうに、カールはルイを離そうとせず、抱き込んだまま眠ってしまった。
きっと人は過保護に育てられていると思うだろう。
だけど病気がちでしんどい思いをすることが多い子なのだ。少しくらい甘やかしたっていいじゃないか。
それに王太子教育が始まれば甘えてばかりいられなくなる。
「……うちの子も、昨夜は一緒に寝ましたわ」
「……ええ、うちもです」
話を聞いていた貴婦人たちがあちらこちらで声を上げる。
エリザベートと同年代で、ルイと同じ年頃の子を持つ者たちだ。
政略結婚が主な貴族家では義務として跡継ぎの子を作り、本当に愛する人は外に作るのが通常だった。愛情のない相手との子どもなので、生まれた子に愛情を注ぐ者は少なく、風や雷に怯えていても親が傍にいてくれることなどなかった。
ここにいる人たちの中でもそんな育ち方をした人は少なくない。
だけどカールとエリザベートに憧れて婚約者との仲を育んだ者たちは、政略結婚であっても互いに尊重し合い、想い合っている。自然と子どもにも愛情を注ぎ、家族仲も良好だ。
「時々なら、一緒に寝てもよろしいですわよね」
「私もそう思います。暖かくて幸せな気持ちになりますわ」
幸せそうに笑い合う女性たちの向こうで年配の女性が眉をひそめているのが見える。
だけどその表情には羨む気持ちが滲み出ていた。
エリザベートとしては受け入れがたいことだが、重臣たちの気持ちもわかる。
ルイは同じ歳の子に比べてひと回り体が小さく、まだ言葉もはっきりしていない。体力もなく、すぐに熱を出して寝込んでしまう。
この子が王太子だと言われたら皆不安になるだろう。
だけど宮廷に近い貴族ほどルイの生まれた時を知っているのだ。それなのにお披露目されなかったらどう思うだろうか。
いいえ、親しい人はルイが病気がちなのも発育が遅れていることも知っているもの。
きっとそういうことだと納得するわ。
不安に苛まれるエリザベートだったが、カールは思い悩んだ末に4歳の誕生日でお披露目すると決めた。
「昨夜の風は凄かったですわね。朝起きてみたら庭園の草木がなぎ倒されてしまっていて」
「こちらも同じですわ。今日は朝から庭師が大わらわでしてよ」
エリザベートのお茶会で貴婦人たちが笑う。
エリザベートはルイのお披露目が延期されてからお茶会を頻繁に開いていた。
ここに招かれる人たちはルイの存在を知っている。特に紹介はしていないが、母に甘えようとするルイの姿を見た人もいた。ルイの存在を印象付ける為にエリザベートが敢て部屋へ入れたのだ。
「本当に酷い風でしたわね。ルイったらすっかり怯えてしまって。昨日は一緒に寝ましたの」
昨夜のことを思い出すと自然と笑みが浮かんでしまう。
昼間は何ともなかったのに、夜遅い時間になってから強い風が吹き出した。
ルイが怯えているかもしれない。そう思った頃に寝室の扉が叩かれた。
「陛下、妃殿下。申し訳ありません」
入って来たのはルイを連れた乳母だった。
貴族の子どもは自立心を養う為に幼い頃から1人で寝る。特にルイは王太子になるべき王子だ。両親のところへ行きたがるルイを、乳母は何とか留めようとしたのだろう。
だけどいくら宥めても泣きじゃくるルイに根負けしたようだ。
「おとしゃま、おかしゃまぁ」
泣きながらカールとエリザベートに駆け寄るルイをエリザベートは優しく抱きとめる。
怯えているのは可哀想だが、胸が痛くなる程可愛い。
「大きな音がしているものね。今日は一緒に寝ましょうか」
エリザベートの胸に顔を埋めたままルイがこくこく頷く。
背中をさすって宥めながら、エリザベートはルイを抱き上げた。
「大丈夫よ、ルイ。もう怖くないわ。お父様とお母様がいるでしょう?」
そうしてルイをベッドの真中へ降ろす。
今日はカールと並んで川の字だ。
「大丈夫だよ。何も悪いことが起こらないよう傍にいるから安心して眠りなさい」
「おとしゃまぁ」
しがみ付くルイをカールが優しく抱き寄せる。
可愛い寝息が聞こえるまでそうして髪を撫でていた。
「まあまあまあ、王子殿下の可愛らしいこと!」
「それに陛下も、随分可愛がっておられるのですね」
「ええ、本当に……。可愛くて仕方がないようですわ」
しがみ付かれたままでは寝づらいだろうに、カールはルイを離そうとせず、抱き込んだまま眠ってしまった。
きっと人は過保護に育てられていると思うだろう。
だけど病気がちでしんどい思いをすることが多い子なのだ。少しくらい甘やかしたっていいじゃないか。
それに王太子教育が始まれば甘えてばかりいられなくなる。
「……うちの子も、昨夜は一緒に寝ましたわ」
「……ええ、うちもです」
話を聞いていた貴婦人たちがあちらこちらで声を上げる。
エリザベートと同年代で、ルイと同じ年頃の子を持つ者たちだ。
政略結婚が主な貴族家では義務として跡継ぎの子を作り、本当に愛する人は外に作るのが通常だった。愛情のない相手との子どもなので、生まれた子に愛情を注ぐ者は少なく、風や雷に怯えていても親が傍にいてくれることなどなかった。
ここにいる人たちの中でもそんな育ち方をした人は少なくない。
だけどカールとエリザベートに憧れて婚約者との仲を育んだ者たちは、政略結婚であっても互いに尊重し合い、想い合っている。自然と子どもにも愛情を注ぎ、家族仲も良好だ。
「時々なら、一緒に寝てもよろしいですわよね」
「私もそう思います。暖かくて幸せな気持ちになりますわ」
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だけどその表情には羨む気持ちが滲み出ていた。
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