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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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今エリザベートが頭を悩ませているのが、ルイの教育についてだ。
通常であれば3歳になった時点で存在が公表され、ルイの為の予算が割り当てられる。その中から教師の招へいなど教育に必要な費用も賄われるが、ルイはまだお披露目されていない。
いくら中央の貴族に認識されているとはいってもまだ非公式な立場なのだ。
存在しない王子の為に予算は割り当てられない。
ルイに教育を施そうとするなら、エリザベートの私財で行う必要があった。
エリザベートは王太子妃の頃から相応な予算を割り当てられている。その中には自由に使える金額もあり、エリザベートはそれほど贅沢をしないので結構な金額が繰り越されて残っていた。
だからルイの為の予算がなくてもすぐに困ることはないが、非公式な立場では評判の良い教師を招くのは難しいと思われた。
だけどルイは通常より1年遅れてのスタートになるのだ。
歳を偽るわけではないので、4歳の子として見られる。
何もできない子だと侮られたくない。
「せめて基礎的ことだけでも学ばせたいのですが、教育係をつけるのは難しいでしょうね」
エリザベートの悩みを聞いているのはアンヌとゾフィーである。
重要な悩みを打ち明けられるのは気心の知れた家族しかいない。お披露目の延期が決定してから2人はよく話を聞いてくれている。
アンヌはプレストンも一緒に連れて来ていた。
今はルイと一緒に庭園へ出ているはずだ。
プレストンは今年12歳になった。
ルイを守る騎士になりたいという意思は変わらず、毎日公爵家の騎士に交じって鍛錬を続けているそうだ。
熱を出して寝込むルイの話を聞く度に、守ってやらなければという気持ちが強くなっているらしい。
「そうね、評判の良い方は引く手あまただし……。経歴に空白の期間を作るのは嫌がられるでしょうね」
アンヌの言う通り、ルイの存在は公表されていないので、教育係を雇っても書類上記録を残すことができない。結果としてその期間の経歴は空白となってしまう。
この年代は子が多いので幼児教育ができる教師は引っ張りだこだ。わざわざ条件の悪い相手を選ぶ必要はない。
「……それじゃあ私がしましょうか。高度なことはできなくても、基礎的なことだけなら私でも教えられるでしょう」
「ゾフィー義姉様」
外部の人を雇えないなら身内で解決するしかない。
王子として必要な高度な教育はできないが、今のルイに必要なのは挨拶や身の回りのものの名前を覚えるといったことである。それならゾフィーでも教えられるだろう。
エリザベートとしてはゾフィーに頼めるのなら有難い。
ゾフィーには子がたくさんいるので幼児の扱いも慣れている。それに何より心から信頼できる。
「我が伯爵家は守るべき領地もないし、比較的自由になる時間はあるのよ。その代わりダシェンボード公爵家の領地については手伝える時間が少し減ってしまうけれど」
「それは構わないわ。元々私の仕事を手伝ってもらっているだけだもの。今度はリズを助けるのね」
「アンヌ義姉様。――2人とも、ありがとうございます」
エリザベートが頭を下げる。
実際に頼むにはカールの許可が必要になるが、きっと駄目とは言わないだろう。カールもルイのことを考えてくれている。
「1年なんてあっという間よ。すぐに笑い話になるわ」
ゾフィーの言葉にエリザベートは微笑んで頷いた。
通常であれば3歳になった時点で存在が公表され、ルイの為の予算が割り当てられる。その中から教師の招へいなど教育に必要な費用も賄われるが、ルイはまだお披露目されていない。
いくら中央の貴族に認識されているとはいってもまだ非公式な立場なのだ。
存在しない王子の為に予算は割り当てられない。
ルイに教育を施そうとするなら、エリザベートの私財で行う必要があった。
エリザベートは王太子妃の頃から相応な予算を割り当てられている。その中には自由に使える金額もあり、エリザベートはそれほど贅沢をしないので結構な金額が繰り越されて残っていた。
だからルイの為の予算がなくてもすぐに困ることはないが、非公式な立場では評判の良い教師を招くのは難しいと思われた。
だけどルイは通常より1年遅れてのスタートになるのだ。
歳を偽るわけではないので、4歳の子として見られる。
何もできない子だと侮られたくない。
「せめて基礎的ことだけでも学ばせたいのですが、教育係をつけるのは難しいでしょうね」
エリザベートの悩みを聞いているのはアンヌとゾフィーである。
重要な悩みを打ち明けられるのは気心の知れた家族しかいない。お披露目の延期が決定してから2人はよく話を聞いてくれている。
アンヌはプレストンも一緒に連れて来ていた。
今はルイと一緒に庭園へ出ているはずだ。
プレストンは今年12歳になった。
ルイを守る騎士になりたいという意思は変わらず、毎日公爵家の騎士に交じって鍛錬を続けているそうだ。
熱を出して寝込むルイの話を聞く度に、守ってやらなければという気持ちが強くなっているらしい。
「そうね、評判の良い方は引く手あまただし……。経歴に空白の期間を作るのは嫌がられるでしょうね」
アンヌの言う通り、ルイの存在は公表されていないので、教育係を雇っても書類上記録を残すことができない。結果としてその期間の経歴は空白となってしまう。
この年代は子が多いので幼児教育ができる教師は引っ張りだこだ。わざわざ条件の悪い相手を選ぶ必要はない。
「……それじゃあ私がしましょうか。高度なことはできなくても、基礎的なことだけなら私でも教えられるでしょう」
「ゾフィー義姉様」
外部の人を雇えないなら身内で解決するしかない。
王子として必要な高度な教育はできないが、今のルイに必要なのは挨拶や身の回りのものの名前を覚えるといったことである。それならゾフィーでも教えられるだろう。
エリザベートとしてはゾフィーに頼めるのなら有難い。
ゾフィーには子がたくさんいるので幼児の扱いも慣れている。それに何より心から信頼できる。
「我が伯爵家は守るべき領地もないし、比較的自由になる時間はあるのよ。その代わりダシェンボード公爵家の領地については手伝える時間が少し減ってしまうけれど」
「それは構わないわ。元々私の仕事を手伝ってもらっているだけだもの。今度はリズを助けるのね」
「アンヌ義姉様。――2人とも、ありがとうございます」
エリザベートが頭を下げる。
実際に頼むにはカールの許可が必要になるが、きっと駄目とは言わないだろう。カールもルイのことを考えてくれている。
「1年なんてあっという間よ。すぐに笑い話になるわ」
ゾフィーの言葉にエリザベートは微笑んで頷いた。
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