45 / 142
2章 ~過去 カールとエリザベート~
22
しおりを挟む
家庭教師は週に3回、月曜・水曜・金曜に来てもらうことになった。
まずは午前中の2~3時間だけで、ルイの様子を見ながら調整していく。
慣れない内は緊張で疲れやすくなるものだ。疲れが溜まるとルイは熱を出してしまうので、限度の見極めが重要になる。
「今日からルイの先生が来てくれるのよ。先生のお話をよく聞いてお勉強を頑張りましょうね」
エリザベートは膝に乗せたルイに優しく話し掛けた。
2人はルイの勉強部屋で家庭教師の到着を待っている。
執務の時間は過ぎていたが初日なので家庭教師を迎える為に執務へ向かう時間を遅らせていた。カールも気にしていたけれど、国王という立場上一緒に待つわけにもいかずに「頑張るんだぞ」とルイの頭を撫でて先に出掛けていた。
「おべきょ?」
ルイがこてんと頭を傾げる。
どんなことをするのか何度も話して聞かせているのに覚えていないようだ。
ただいつもは出掛けてしまう時間になってもエリザベートが出掛けずに一緒にいられるのが嬉しいらしく、エリザベートのドレスをぎゅっと握ってにこにこ笑っている。
そのふっくらした白い頬が可愛くてエリザベートは思わず口づけていた。
だけどそんな楽しい時間は続かない。
しばらくすると扉が叩かれ、来客が告げられる。
お勉強の時間の始まりだ。
「おばしゃま!」
ゾフィーの姿を見たルイは嬉しそうに声を上げた。
ルイは優しいゾフィーが大好きなのだ。いつもゾフィーが訪れると駆け寄って抱き締めてもらう。
だけど今日は駆け寄ろうとするルイをエリザベートが止めた。
「おかしゃま……?」
「この度王子殿下の臨時教師を拝命しましたルヴエル伯爵家のゾフィーと申します。宜しくお願い致します」
ゾフィーが美しいカテーシーをする。
アルバートは伯爵位を受け継いだ後、公爵領の地名からルヴエル伯爵と名乗っているのだ。いずれルヴエルは割譲されて伯爵領になると内々で決まっているのかもしれない。
「顔を上げてちょうだい、ルヴエル伯爵夫人。ご存知の通りこれは重要なお役目ですから、あなたが引き受けてくれて嬉しいわ」
ゾフィーの挨拶にエリザベートは笑んで応える。王妃としての笑顔だ。
ここにいるのは義理の姉妹ではなく、王妃と伯爵夫人である。
だけどルイはまだ公私を使い分けることなど知らない。いつもと違う様子の2人に、ルイは困惑した表情で2人を見比べている。
「おかしゃま、おばしゃま……?」
ゾフィーはルイににこっと笑いかけた。
いつもとは違う、伯爵夫人としての笑顔で。
「殿下、私のことは伯爵夫人とお呼びください」
「おばしゃま……っ」
「伯爵夫人です、殿下」
きっぱりと返された言葉にルイは泣きそうになった。
大好きなゾフィーに見えるのに、まるで違う人のようだ。
訳が分からなくて怖い。
「おかしゃまぁ」
「お勉強を教えてくれる先生よ」
エリザベートはルイの頭を撫でた。
エリザベートにはルイの気持ちが良くわかる。公と私を使い分けるのはある程度成長しないと理解するのが難しい。何が起こっているのか混乱しているはずだ。
だけど伯母のままでは、ルイは甘えようとするだろう。
ゾフィーもついつい許してしまうはずだ。
だけどそれではルイの為にならない。
ルイを思うからこそきっちりしなくてはいけないのだ。
「妃殿下は政務のお時間でしょう。どうぞお行き下さい」
ゾフィーがエリザベートに退室を促した。
これは予め決めていたことだ。
初めての授業なので立ち合いたい気持ちもあるが、そうするとルイはエリザベートに甘えてしまう。
「そうね。それじゃあ私はそろそろ失礼するわ」
「おかしゃまっ!!」
立ち去るエリザベートをルイが慌てて追いかけようとする。
それをゾフィーが後ろから抱き締めて止めた。
「殿下、こういう時は『いってらっしゃいませ』と仰るのですよ」
「やぁあーーーっ!!おかしゃまーーーっ!!」
ルイの絶叫が響く。
その声を振り切るようにしてエリザベートは部屋を後にした。
廊下を歩く間もルイの泣き声が聞こえてくる。
今日のゾフィーの仕事はルイを宥めて泣き止ませること。そして見送り方を教えることだろうか。
まずは午前中の2~3時間だけで、ルイの様子を見ながら調整していく。
慣れない内は緊張で疲れやすくなるものだ。疲れが溜まるとルイは熱を出してしまうので、限度の見極めが重要になる。
「今日からルイの先生が来てくれるのよ。先生のお話をよく聞いてお勉強を頑張りましょうね」
エリザベートは膝に乗せたルイに優しく話し掛けた。
2人はルイの勉強部屋で家庭教師の到着を待っている。
執務の時間は過ぎていたが初日なので家庭教師を迎える為に執務へ向かう時間を遅らせていた。カールも気にしていたけれど、国王という立場上一緒に待つわけにもいかずに「頑張るんだぞ」とルイの頭を撫でて先に出掛けていた。
「おべきょ?」
ルイがこてんと頭を傾げる。
どんなことをするのか何度も話して聞かせているのに覚えていないようだ。
ただいつもは出掛けてしまう時間になってもエリザベートが出掛けずに一緒にいられるのが嬉しいらしく、エリザベートのドレスをぎゅっと握ってにこにこ笑っている。
そのふっくらした白い頬が可愛くてエリザベートは思わず口づけていた。
だけどそんな楽しい時間は続かない。
しばらくすると扉が叩かれ、来客が告げられる。
お勉強の時間の始まりだ。
「おばしゃま!」
ゾフィーの姿を見たルイは嬉しそうに声を上げた。
ルイは優しいゾフィーが大好きなのだ。いつもゾフィーが訪れると駆け寄って抱き締めてもらう。
だけど今日は駆け寄ろうとするルイをエリザベートが止めた。
「おかしゃま……?」
「この度王子殿下の臨時教師を拝命しましたルヴエル伯爵家のゾフィーと申します。宜しくお願い致します」
ゾフィーが美しいカテーシーをする。
アルバートは伯爵位を受け継いだ後、公爵領の地名からルヴエル伯爵と名乗っているのだ。いずれルヴエルは割譲されて伯爵領になると内々で決まっているのかもしれない。
「顔を上げてちょうだい、ルヴエル伯爵夫人。ご存知の通りこれは重要なお役目ですから、あなたが引き受けてくれて嬉しいわ」
ゾフィーの挨拶にエリザベートは笑んで応える。王妃としての笑顔だ。
ここにいるのは義理の姉妹ではなく、王妃と伯爵夫人である。
だけどルイはまだ公私を使い分けることなど知らない。いつもと違う様子の2人に、ルイは困惑した表情で2人を見比べている。
「おかしゃま、おばしゃま……?」
ゾフィーはルイににこっと笑いかけた。
いつもとは違う、伯爵夫人としての笑顔で。
「殿下、私のことは伯爵夫人とお呼びください」
「おばしゃま……っ」
「伯爵夫人です、殿下」
きっぱりと返された言葉にルイは泣きそうになった。
大好きなゾフィーに見えるのに、まるで違う人のようだ。
訳が分からなくて怖い。
「おかしゃまぁ」
「お勉強を教えてくれる先生よ」
エリザベートはルイの頭を撫でた。
エリザベートにはルイの気持ちが良くわかる。公と私を使い分けるのはある程度成長しないと理解するのが難しい。何が起こっているのか混乱しているはずだ。
だけど伯母のままでは、ルイは甘えようとするだろう。
ゾフィーもついつい許してしまうはずだ。
だけどそれではルイの為にならない。
ルイを思うからこそきっちりしなくてはいけないのだ。
「妃殿下は政務のお時間でしょう。どうぞお行き下さい」
ゾフィーがエリザベートに退室を促した。
これは予め決めていたことだ。
初めての授業なので立ち合いたい気持ちもあるが、そうするとルイはエリザベートに甘えてしまう。
「そうね。それじゃあ私はそろそろ失礼するわ」
「おかしゃまっ!!」
立ち去るエリザベートをルイが慌てて追いかけようとする。
それをゾフィーが後ろから抱き締めて止めた。
「殿下、こういう時は『いってらっしゃいませ』と仰るのですよ」
「やぁあーーーっ!!おかしゃまーーーっ!!」
ルイの絶叫が響く。
その声を振り切るようにしてエリザベートは部屋を後にした。
廊下を歩く間もルイの泣き声が聞こえてくる。
今日のゾフィーの仕事はルイを宥めて泣き止ませること。そして見送り方を教えることだろうか。
4
あなたにおすすめの小説
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる