影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

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2章 ~過去 カールとエリザベート~

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 家庭教師は週に3回、月曜・水曜・金曜に来てもらうことになった。
 まずは午前中の2~3時間だけで、ルイの様子を見ながら調整していく。
 慣れない内は緊張で疲れやすくなるものだ。疲れが溜まるとルイは熱を出してしまうので、限度の見極めが重要になる。

「今日からルイの先生が来てくれるのよ。先生のお話をよく聞いてお勉強を頑張りましょうね」

 エリザベートは膝に乗せたルイに優しく話し掛けた。
 2人はルイの勉強部屋で家庭教師の到着を待っている。
 執務の時間は過ぎていたが初日なので家庭教師を迎える為に執務へ向かう時間を遅らせていた。カールも気にしていたけれど、国王という立場上一緒に待つわけにもいかずに「頑張るんだぞ」とルイの頭を撫でて先に出掛けていた。
  
「おべきょ?」

 ルイがこてんと頭を傾げる。
 どんなことをするのか何度も話して聞かせているのに覚えていないようだ。
 ただいつもは出掛けてしまう時間になってもエリザベートが出掛けずに一緒にいられるのが嬉しいらしく、エリザベートのドレスをぎゅっと握ってにこにこ笑っている。
 そのふっくらした白い頬が可愛くてエリザベートは思わず口づけていた。


 だけどそんな楽しい時間は続かない。
 しばらくすると扉が叩かれ、来客が告げられる。
 お勉強の時間の始まりだ。



「おばしゃま!」

 ゾフィーの姿を見たルイは嬉しそうに声を上げた。
 ルイは優しいゾフィーが大好きなのだ。いつもゾフィーが訪れると駆け寄って抱き締めてもらう。
 だけど今日は駆け寄ろうとするルイをエリザベートが止めた。

「おかしゃま……?」

「この度王子殿下の臨時教師を拝命しましたルヴエル伯爵家のゾフィーと申します。宜しくお願い致します」

 ゾフィーが美しいカテーシーをする。
 アルバートは伯爵位を受け継いだ後、公爵領の地名からルヴエル伯爵と名乗っているのだ。いずれルヴエルは割譲されて伯爵領になると内々で決まっているのかもしれない。

「顔を上げてちょうだい、ルヴエル伯爵夫人。ご存知の通りこれは重要なお役目ですから、あなたが引き受けてくれて嬉しいわ」

 ゾフィーの挨拶にエリザベートは笑んで応える。王妃としての笑顔だ。
 ここにいるのは義理の姉妹ではなく、王妃と伯爵夫人である。
 だけどルイはまだ公私を使い分けることなど知らない。いつもと違う様子の2人に、ルイは困惑した表情で2人を見比べている。

「おかしゃま、おばしゃま……?」

 ゾフィーはルイににこっと笑いかけた。
 いつもとは違う、伯爵夫人としての笑顔で。

「殿下、私のことは伯爵夫人とお呼びください」

「おばしゃま……っ」

「伯爵夫人です、殿下」

 きっぱりと返された言葉にルイは泣きそうになった。
 大好きなゾフィーに見えるのに、まるで違う人のようだ。
 訳が分からなくて怖い。

「おかしゃまぁ」

「お勉強を教えてくれる先生よ」

 エリザベートはルイの頭を撫でた。
 エリザベートにはルイの気持ちが良くわかる。公と私を使い分けるのはある程度成長しないと理解するのが難しい。何が起こっているのか混乱しているはずだ。

 だけど伯母のままでは、ルイは甘えようとするだろう。
 ゾフィーもついつい許してしまうはずだ。
 だけどそれではルイの為にならない。
 ルイを思うからこそきっちりしなくてはいけないのだ。
 
「妃殿下は政務のお時間でしょう。どうぞお行き下さい」

 ゾフィーがエリザベートに退室を促した。
 これは予め決めていたことだ。
 初めての授業なので立ち合いたい気持ちもあるが、そうするとルイはエリザベートに甘えてしまう。

「そうね。それじゃあ私はそろそろ失礼するわ」

「おかしゃまっ!!」

 立ち去るエリザベートをルイが慌てて追いかけようとする。
 それをゾフィーが後ろから抱き締めて止めた。

「殿下、こういう時は『いってらっしゃいませ』と仰るのですよ」

「やぁあーーーっ!!おかしゃまーーーっ!!」

 ルイの絶叫が響く。
 その声を振り切るようにしてエリザベートは部屋を後にした。

 廊下を歩く間もルイの泣き声が聞こえてくる。
 今日のゾフィーの仕事はルイを宥めて泣き止ませること。そして見送り方を教えることだろうか。


 

 

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