82 / 142
3章 〜過去 正妃と側妃〜
17
しおりを挟む
ひとしきり泣いたエリザベートはまた眠ってしまった。
侍医長が言うには、これまでの疲労と薬の影響で体が弱り切っているらしい。これから睡眠と覚醒を繰り返し、徐々に回復するだろうとのことだった。
侍医長の言葉通りエリザベートはそれから半日ほど眠り続け、また少し起きて、また眠った。
何度もそれを繰り返す内に徐々に眠る時間が短くなり、起きている時間が増えていく。
それがエリザベートにとって良いことなのかはわからない。
エリザベートは目覚める度にルイを探し、ルイがいないことに絶望をする。眠る時間が短くなるということは、ルイと過ごせる時間が短くなるということだ。
絶望を繰り返すエリザベートは笑わなくなっていく。生還を喜ぶカールを恨んでいると感じることもあった。
「妃殿下は気鬱の病なのでしょう……。辛いことが重なり、その気持ちを心の中で処理しきれなかったのですね」
最近の様子から、侍医長たちもエリザベートが眠れなかった理由に気付いたようだ。更には側妃の輿入れもあり、カールがルイザの元へ通うようになった。
これまでカールに浮いた話の1つでもあればまた違ったかもしれない。だけどカールは幼い時からエリザベートだけを愛し続け、婚約の継続が危ぶまれた時でも他の女性を拒み続けた。
そんなカールが唯一受け入れた――受け入れざるを得なかった――女性がルイザだ。平静を装い、歓迎したように見せていても、心の中では違ったのだろう。エリザベートが薬を飲んだのは、カールとルイザが夫婦としてお披露目された夜だった。
「……リーザの本心には気がついていた。だが俺が側妃を拒むほど、側妃のところへ行くよう薦められた」
「……妃殿下は真面目なお人柄ですからね」
真面目な人柄であり、王妃としての務めを果たせていないという罪悪感を抱えていた。だから一層カールに世継ぎができることを望み、それを成し遂げさせることが自分の使命だと思い込んでいた。
カールがどれだけエリザベートを愛していると伝えても意味がなかったのだ。
侍医長はエリザベートの意識が戻ると同時に退職することを申し出ていた。薬がきちんと使用されているか確認を取らずに処方し続けたことを重く受け止めているのだ。元々彼はルイを助けられなかったことにも強い責任を感じていた。侍医長の職から退いた後はエリザベートが作った小児医療の研究所へ行くという。
カールがエリザベートの傍に付いていられたのは、エリザベートが目覚めてから3日までだった。もう長い間執務も何もかも放り投げていたのだ。エリザベートの容態が落ち着いた以上いつまでも放置していられない。マクロイド公爵に促され、後ろ髪を引かれながらもカールは執務に戻った。
カールが傍にいられない間、エリザベートに付いていたのはダシェンボード前公爵夫妻やアンヌ、ゾフィーだ。すっかり塞ぎ込んでしまったエリザベートに彼女たちは明るく話し掛け、気持ちを引き立たせようとする。目を覚ましたエリザベートがルイを探して泣き叫んだ時はエリザベートを抱き締め一緒に泣いていた。
そうして以前と変わらない生活に戻ったようなカールだったが、ルイザのところへ行くことだけは拒んでいた。
いくらエリザベートが目を覚ましたといっても未だ不安定で、こんな時にルイザの元へ行けば何が起こるかわからない。
「側妃を迎えは以上は」と世継ぎを儲けるよう求める大臣たちの言葉を突っぱねる度に、国王といえども種馬に過ぎないのだという憤りと無力感に襲われた。
侍医長が言うには、これまでの疲労と薬の影響で体が弱り切っているらしい。これから睡眠と覚醒を繰り返し、徐々に回復するだろうとのことだった。
侍医長の言葉通りエリザベートはそれから半日ほど眠り続け、また少し起きて、また眠った。
何度もそれを繰り返す内に徐々に眠る時間が短くなり、起きている時間が増えていく。
それがエリザベートにとって良いことなのかはわからない。
エリザベートは目覚める度にルイを探し、ルイがいないことに絶望をする。眠る時間が短くなるということは、ルイと過ごせる時間が短くなるということだ。
絶望を繰り返すエリザベートは笑わなくなっていく。生還を喜ぶカールを恨んでいると感じることもあった。
「妃殿下は気鬱の病なのでしょう……。辛いことが重なり、その気持ちを心の中で処理しきれなかったのですね」
最近の様子から、侍医長たちもエリザベートが眠れなかった理由に気付いたようだ。更には側妃の輿入れもあり、カールがルイザの元へ通うようになった。
これまでカールに浮いた話の1つでもあればまた違ったかもしれない。だけどカールは幼い時からエリザベートだけを愛し続け、婚約の継続が危ぶまれた時でも他の女性を拒み続けた。
そんなカールが唯一受け入れた――受け入れざるを得なかった――女性がルイザだ。平静を装い、歓迎したように見せていても、心の中では違ったのだろう。エリザベートが薬を飲んだのは、カールとルイザが夫婦としてお披露目された夜だった。
「……リーザの本心には気がついていた。だが俺が側妃を拒むほど、側妃のところへ行くよう薦められた」
「……妃殿下は真面目なお人柄ですからね」
真面目な人柄であり、王妃としての務めを果たせていないという罪悪感を抱えていた。だから一層カールに世継ぎができることを望み、それを成し遂げさせることが自分の使命だと思い込んでいた。
カールがどれだけエリザベートを愛していると伝えても意味がなかったのだ。
侍医長はエリザベートの意識が戻ると同時に退職することを申し出ていた。薬がきちんと使用されているか確認を取らずに処方し続けたことを重く受け止めているのだ。元々彼はルイを助けられなかったことにも強い責任を感じていた。侍医長の職から退いた後はエリザベートが作った小児医療の研究所へ行くという。
カールがエリザベートの傍に付いていられたのは、エリザベートが目覚めてから3日までだった。もう長い間執務も何もかも放り投げていたのだ。エリザベートの容態が落ち着いた以上いつまでも放置していられない。マクロイド公爵に促され、後ろ髪を引かれながらもカールは執務に戻った。
カールが傍にいられない間、エリザベートに付いていたのはダシェンボード前公爵夫妻やアンヌ、ゾフィーだ。すっかり塞ぎ込んでしまったエリザベートに彼女たちは明るく話し掛け、気持ちを引き立たせようとする。目を覚ましたエリザベートがルイを探して泣き叫んだ時はエリザベートを抱き締め一緒に泣いていた。
そうして以前と変わらない生活に戻ったようなカールだったが、ルイザのところへ行くことだけは拒んでいた。
いくらエリザベートが目を覚ましたといっても未だ不安定で、こんな時にルイザの元へ行けば何が起こるかわからない。
「側妃を迎えは以上は」と世継ぎを儲けるよう求める大臣たちの言葉を突っぱねる度に、国王といえども種馬に過ぎないのだという憤りと無力感に襲われた。
5
あなたにおすすめの小説
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる