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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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ひとしきり泣いたエリザベートはまた眠ってしまった。
侍医長が言うには、これまでの疲労と薬の影響で体が弱り切っているらしい。これから睡眠と覚醒を繰り返し、徐々に回復するだろうとのことだった。
侍医長の言葉通りエリザベートはそれから半日ほど眠り続け、また少し起きて、また眠った。
何度もそれを繰り返す内に徐々に眠る時間が短くなり、起きている時間が増えていく。
それがエリザベートにとって良いことなのかはわからない。
エリザベートは目覚める度にルイを探し、ルイがいないことに絶望をする。眠る時間が短くなるということは、ルイと過ごせる時間が短くなるということだ。
絶望を繰り返すエリザベートは笑わなくなっていく。生還を喜ぶカールを恨んでいると感じることもあった。
「妃殿下は気鬱の病なのでしょう……。辛いことが重なり、その気持ちを心の中で処理しきれなかったのですね」
最近の様子から、侍医長たちもエリザベートが眠れなかった理由に気付いたようだ。更には側妃の輿入れもあり、カールがルイザの元へ通うようになった。
これまでカールに浮いた話の1つでもあればまた違ったかもしれない。だけどカールは幼い時からエリザベートだけを愛し続け、婚約の継続が危ぶまれた時でも他の女性を拒み続けた。
そんなカールが唯一受け入れた――受け入れざるを得なかった――女性がルイザだ。平静を装い、歓迎したように見せていても、心の中では違ったのだろう。エリザベートが薬を飲んだのは、カールとルイザが夫婦としてお披露目された夜だった。
「……リーザの本心には気がついていた。だが俺が側妃を拒むほど、側妃のところへ行くよう薦められた」
「……妃殿下は真面目なお人柄ですからね」
真面目な人柄であり、王妃としての務めを果たせていないという罪悪感を抱えていた。だから一層カールに世継ぎができることを望み、それを成し遂げさせることが自分の使命だと思い込んでいた。
カールがどれだけエリザベートを愛していると伝えても意味がなかったのだ。
侍医長はエリザベートの意識が戻ると同時に退職することを申し出ていた。薬がきちんと使用されているか確認を取らずに処方し続けたことを重く受け止めているのだ。元々彼はルイを助けられなかったことにも強い責任を感じていた。侍医長の職から退いた後はエリザベートが作った小児医療の研究所へ行くという。
カールがエリザベートの傍に付いていられたのは、エリザベートが目覚めてから3日までだった。もう長い間執務も何もかも放り投げていたのだ。エリザベートの容態が落ち着いた以上いつまでも放置していられない。マクロイド公爵に促され、後ろ髪を引かれながらもカールは執務に戻った。
カールが傍にいられない間、エリザベートに付いていたのはダシェンボード前公爵夫妻やアンヌ、ゾフィーだ。すっかり塞ぎ込んでしまったエリザベートに彼女たちは明るく話し掛け、気持ちを引き立たせようとする。目を覚ましたエリザベートがルイを探して泣き叫んだ時はエリザベートを抱き締め一緒に泣いていた。
そうして以前と変わらない生活に戻ったようなカールだったが、ルイザのところへ行くことだけは拒んでいた。
いくらエリザベートが目を覚ましたといっても未だ不安定で、こんな時にルイザの元へ行けば何が起こるかわからない。
「側妃を迎えは以上は」と世継ぎを儲けるよう求める大臣たちの言葉を突っぱねる度に、国王といえども種馬に過ぎないのだという憤りと無力感に襲われた。
侍医長が言うには、これまでの疲労と薬の影響で体が弱り切っているらしい。これから睡眠と覚醒を繰り返し、徐々に回復するだろうとのことだった。
侍医長の言葉通りエリザベートはそれから半日ほど眠り続け、また少し起きて、また眠った。
何度もそれを繰り返す内に徐々に眠る時間が短くなり、起きている時間が増えていく。
それがエリザベートにとって良いことなのかはわからない。
エリザベートは目覚める度にルイを探し、ルイがいないことに絶望をする。眠る時間が短くなるということは、ルイと過ごせる時間が短くなるということだ。
絶望を繰り返すエリザベートは笑わなくなっていく。生還を喜ぶカールを恨んでいると感じることもあった。
「妃殿下は気鬱の病なのでしょう……。辛いことが重なり、その気持ちを心の中で処理しきれなかったのですね」
最近の様子から、侍医長たちもエリザベートが眠れなかった理由に気付いたようだ。更には側妃の輿入れもあり、カールがルイザの元へ通うようになった。
これまでカールに浮いた話の1つでもあればまた違ったかもしれない。だけどカールは幼い時からエリザベートだけを愛し続け、婚約の継続が危ぶまれた時でも他の女性を拒み続けた。
そんなカールが唯一受け入れた――受け入れざるを得なかった――女性がルイザだ。平静を装い、歓迎したように見せていても、心の中では違ったのだろう。エリザベートが薬を飲んだのは、カールとルイザが夫婦としてお披露目された夜だった。
「……リーザの本心には気がついていた。だが俺が側妃を拒むほど、側妃のところへ行くよう薦められた」
「……妃殿下は真面目なお人柄ですからね」
真面目な人柄であり、王妃としての務めを果たせていないという罪悪感を抱えていた。だから一層カールに世継ぎができることを望み、それを成し遂げさせることが自分の使命だと思い込んでいた。
カールがどれだけエリザベートを愛していると伝えても意味がなかったのだ。
侍医長はエリザベートの意識が戻ると同時に退職することを申し出ていた。薬がきちんと使用されているか確認を取らずに処方し続けたことを重く受け止めているのだ。元々彼はルイを助けられなかったことにも強い責任を感じていた。侍医長の職から退いた後はエリザベートが作った小児医療の研究所へ行くという。
カールがエリザベートの傍に付いていられたのは、エリザベートが目覚めてから3日までだった。もう長い間執務も何もかも放り投げていたのだ。エリザベートの容態が落ち着いた以上いつまでも放置していられない。マクロイド公爵に促され、後ろ髪を引かれながらもカールは執務に戻った。
カールが傍にいられない間、エリザベートに付いていたのはダシェンボード前公爵夫妻やアンヌ、ゾフィーだ。すっかり塞ぎ込んでしまったエリザベートに彼女たちは明るく話し掛け、気持ちを引き立たせようとする。目を覚ましたエリザベートがルイを探して泣き叫んだ時はエリザベートを抱き締め一緒に泣いていた。
そうして以前と変わらない生活に戻ったようなカールだったが、ルイザのところへ行くことだけは拒んでいた。
いくらエリザベートが目を覚ましたといっても未だ不安定で、こんな時にルイザの元へ行けば何が起こるかわからない。
「側妃を迎えは以上は」と世継ぎを儲けるよう求める大臣たちの言葉を突っぱねる度に、国王といえども種馬に過ぎないのだという憤りと無力感に襲われた。
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