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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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「………どういうこと?」
置き去りにされたルイザは呆然と呟いた。
カールの第一子を懐妊したのだ。当然喜んでくれると思っていた。
ルイザは愛されていないのかもしれないが、愛しているエリザベートを差し置いても世継ぎを望み、ルイザを娶ったのではなかったのか。
まだ性別はわからないが、腹にいる子は世継ぎになり得る子どもである。
それなのにカールからは喜んでいる様子が少しも感じられなかった。
「陛下は動揺されているようですね」
「………動揺?」
イーネはカールが初めての子に動揺してあんな態度を取ったと言いたいのだろうか。
とても信じられなく苛立ちが声に滲む。だけどイーネも本当にそう思っているわけではなく、ルイザを慰めようとしているのだろう。そう気づいて唇を噛む。
ルイザは侍女に同情されるような存在なのだ。
それもこれもカールがもっと大切にしてくれていればーー。
だけど悲観する必要はない。
ルイザは間違いなくカールの子を身籠っているのだ。
今は王妃への愛が勝っているのかもしれないが、いずれルイザの重要性に気がつくはずだ。
カールの子を産めるのはルイザしかいない。今までのように無視することはできないだろう。
会いに来て欲しいとお願いすれば、会いに来てくれるはず。
初めは嫌々でも、何度も会っていればルイザの良さに気がついてくれるだろう。
腹が目立ってくれば父親になる実感も湧いて、腹に触れたいと思うはずだ。
子が腹を蹴るのを一緒に感じたり、一緒に子の名前を考えたり。
そうして笑い合っている内に本当の家族になっていく。
これはエリザベートにはできないことだ。
これでエリザベートの上に立てる。
ルイザに同情した振りをして、カールの愛情を見せつけ、孤立したルイザを人前で晒し者にしたあの女から、その愛情を奪い取ってやる。
「ねえ、商人を呼んでドレスを買いましょう。ウエストのゆったりしたドレスをね。すぐにお腹が大きくなるはずだから、マタニティドレスも作りたいわ。デザイナーはすぐに来てくれるかしら」
「妃殿下のお好きなデザイナーがいらっしゃればすぐに予約を取りましょう。宮廷デザイナーでよろしければ明日には来られるはずです」
「……宮廷デザイナーで良いわ。デザイナーはよく知らないから」
「かしこまりました」
深く腰を折ったイーネが部屋を出ていくのを見送りながら、ルイザは胸が高鳴るのを感じていた。
王宮に来て、初めて楽しいと思える買い物ができる。
妊婦用のドレスを作ろう。
腹の膨らみがよくわかるようなドレスが良い。
ルイザはこみ上げてくる喜びにニンマリ笑った。
一方廊下を歩くイーネは複雑な気持ちを抱えていた。
カールが動揺しているのだろうと言ったのは出鱈目ではない。
事情を知っているイーネは、ルイザの子がカールの第一子ではないことを当然知っている。
世継ぎが生まれることを望みながら、エリザベートのことを思うと素直に喜べないだろう。
今はエリザベートにどう伝えようかと悶々としているはずだ。
本来妃が宮廷デザイナーを呼べば当日中にやってくる。
それを「明日には」と誤魔化したのは、カールがエリザベートに話す前に噂になるのを避けるためだ。今の宮廷デザイナーはエリザベートと親しいので不穏な噂を広めるとは思えないが念には念を入れたのである。
王妃殿下は大丈夫かしら。
心を痛めるだろう主を思い、イーネは窓から薔薇の宮の方角へ視線を向けた。
置き去りにされたルイザは呆然と呟いた。
カールの第一子を懐妊したのだ。当然喜んでくれると思っていた。
ルイザは愛されていないのかもしれないが、愛しているエリザベートを差し置いても世継ぎを望み、ルイザを娶ったのではなかったのか。
まだ性別はわからないが、腹にいる子は世継ぎになり得る子どもである。
それなのにカールからは喜んでいる様子が少しも感じられなかった。
「陛下は動揺されているようですね」
「………動揺?」
イーネはカールが初めての子に動揺してあんな態度を取ったと言いたいのだろうか。
とても信じられなく苛立ちが声に滲む。だけどイーネも本当にそう思っているわけではなく、ルイザを慰めようとしているのだろう。そう気づいて唇を噛む。
ルイザは侍女に同情されるような存在なのだ。
それもこれもカールがもっと大切にしてくれていればーー。
だけど悲観する必要はない。
ルイザは間違いなくカールの子を身籠っているのだ。
今は王妃への愛が勝っているのかもしれないが、いずれルイザの重要性に気がつくはずだ。
カールの子を産めるのはルイザしかいない。今までのように無視することはできないだろう。
会いに来て欲しいとお願いすれば、会いに来てくれるはず。
初めは嫌々でも、何度も会っていればルイザの良さに気がついてくれるだろう。
腹が目立ってくれば父親になる実感も湧いて、腹に触れたいと思うはずだ。
子が腹を蹴るのを一緒に感じたり、一緒に子の名前を考えたり。
そうして笑い合っている内に本当の家族になっていく。
これはエリザベートにはできないことだ。
これでエリザベートの上に立てる。
ルイザに同情した振りをして、カールの愛情を見せつけ、孤立したルイザを人前で晒し者にしたあの女から、その愛情を奪い取ってやる。
「ねえ、商人を呼んでドレスを買いましょう。ウエストのゆったりしたドレスをね。すぐにお腹が大きくなるはずだから、マタニティドレスも作りたいわ。デザイナーはすぐに来てくれるかしら」
「妃殿下のお好きなデザイナーがいらっしゃればすぐに予約を取りましょう。宮廷デザイナーでよろしければ明日には来られるはずです」
「……宮廷デザイナーで良いわ。デザイナーはよく知らないから」
「かしこまりました」
深く腰を折ったイーネが部屋を出ていくのを見送りながら、ルイザは胸が高鳴るのを感じていた。
王宮に来て、初めて楽しいと思える買い物ができる。
妊婦用のドレスを作ろう。
腹の膨らみがよくわかるようなドレスが良い。
ルイザはこみ上げてくる喜びにニンマリ笑った。
一方廊下を歩くイーネは複雑な気持ちを抱えていた。
カールが動揺しているのだろうと言ったのは出鱈目ではない。
事情を知っているイーネは、ルイザの子がカールの第一子ではないことを当然知っている。
世継ぎが生まれることを望みながら、エリザベートのことを思うと素直に喜べないだろう。
今はエリザベートにどう伝えようかと悶々としているはずだ。
本来妃が宮廷デザイナーを呼べば当日中にやってくる。
それを「明日には」と誤魔化したのは、カールがエリザベートに話す前に噂になるのを避けるためだ。今の宮廷デザイナーはエリザベートと親しいので不穏な噂を広めるとは思えないが念には念を入れたのである。
王妃殿下は大丈夫かしら。
心を痛めるだろう主を思い、イーネは窓から薔薇の宮の方角へ視線を向けた。
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